ハティと大王は長い距離を高速で潜っていき、ついに湖底へとほとんど到達する。
「これ以上潜れぬぞ」
「封印と結界が干渉しているみたいですね。調整します」
魔道具で展開している結界が封印にあたり、それ以上進めなくなったようだ。
封印は流石に分厚い氷のように砕くことは、古竜でも難しい。
「助かる。形状変化も出来るとは、見事な性能だな」
「そうなのじゃ! 主ささまは凄いのじゃ!」
今は球形に結界を展開している。それを半球状に展開しなおした。
そして、ハティと大王は湖底へと着地した。
「ヴェルナー卿。封印の様子を調べられるか?」
「結界が邪魔ですね」
結界に隔てられているから、魔法的な構造などは調べられない。
そのうえ、暗闇なので目視でもわからない。
「結界を解いたら、人族は水圧で死ぬぞ?」
「わかっています。少しお待ちを」
俺はいま展開している結界の外側にさらに結界展開することにした。
湖底に接する面には結界は展開しない。底のない半球状に結界を展開する。
ユルングを助け出したときに実行した方法と同じである。
あの時も自分をユルングごと結界で覆ってから、ユルングを救出した。
「それにしても、封印と水圧があるので、調整が難しいですね」
封印に結界は食い込ませることはできない。
だから、封印の外側に結界を展開しなければならない。
「水圧が高すぎる」
湖底に結界を食い込ませても、水圧のせいで結界内に水が漏れることを防ぐのは難しい。
うまく湖底と結界を密着させる方法を考えながら、地形を探る。
「ん? 大王、もしかして封印の大きさは、さほど大きくないのですか?」
「古竜にとっては大きくはないが……人族にとっては大きいのではないか?」
「確かに。この程度の大きさなら、封印ごと結界で包めそうです」
「おお、なんと!」
「主さまは凄いのじゃ!」
いつも研究所を覆っている結界よりかなり大きく展開する。
「まず、今展開している結界を広げてと……」
今展開している結界と、新しく展開する結界との大きさの差は少ない方がいい。
大きさに差があればあるほど、水が取り残され、水浸しになるだろう。
床が水浸しになれば、作業が面倒だし、凍えるような水は体力を奪う。
水は古竜には大したことのないが、人族にとっては重要だ。
「水を押し出すようにしてと」
今ある結界の半径を封印ぐらい大きくする。
そして、その外側に密着する形で結界を発生させた。
湖底と封印ごと覆う形で球形の結界を展開した。
そうしてから、今まで展開してきた結界を解除する。
「これでよしと」
「どうなったのだ?」
「今展開している結界は、我らと封印を全て包んでいる状態です」
「なるほど」
封印を解除した途端、湖底が明るくなった。
見える範囲の湖底は完全なる水平で、何もなかった。
「りゃあっりゃっりゃっりゃあああ」
「ユルング、落ち着いてね」
「りゃあ!」
湖底を見て、ユルングが騒ぎ始める。
自分が生まれた場所だと気付いたのだろうか。
そんなユルングを俺は優しく撫でて落ちつかせながら、周囲を調べた。
「魔法で隠されていますね」
ただの平らなこと以外普通の湖底に見える。
ここに古竜の大王の封印があるとは、魔導師でも気づくまい。
「確かに、何かが隠されていますね」
「……言われないと気付けない」
優れた魔導師であるコラリーも言われるまで気付けないほどの魔法だ。
だが、専門の魔導師ではないロッテは気付いたらしい。
勇者の特殊能力だろうか。
「さすが、ヴェルナー卿。隠ぺいの魔法に気付かれたか」
「はい。かなり高度な魔法ですね」
「勿論。大賢者が自らかけた魔法だからな」
「え? 大賢者が?」
「そうだが……」
とても高度な魔法なのは間違いない。
だが、ケイ先生がかけた魔法とは思えなかった。
「これは……本当にケイ先生、大賢者がかけたんですか?」
「む? そのはずだが……」
「違和感があります。ケイ先生ならもっと。いや、千年前ならケイ先生でもこの程度かも?」
「主さまの目から見たら、技術が拙いと思うのじゃな?」
「拙くはないよ。だけど、ケイ先生がかけたにしてはね」
俺でもこのぐらいならできる。
世界が滅びかねない存在の封印を、ケイ先生が隠すなら、もっと気合を入れるはずだ。
「とりあえず、この程度ならば、私にもできるので、隠ぺい魔法を壊しますね」
「お、おう? ヴェルナー卿に任せよう」
自分で治せないなら、壊すのにも慎重になる。
だが、この程度の隠ぺい魔法ならば、すべてが終わった後再び俺が施せばいい。
俺は隠ぺい魔法を解析してから破壊した。
「おお、ハティの目にもはっきりと封印が見えたのじゃ!」
湖底に大きな魔法陣が光って浮かび上がった。
「やはりというか随分と複雑な封印だな」
一目で複雑で高度な封印だとわかる。
この封印を施したのは、ケイ先生だろうと俺は思った。