結界を抜け出した直後のシャンタルに、
「ケイの弟子は、中々厄介な——」
「……死ね」
コラリーの魔法が直撃する。
まばゆい光を伴う魔法の槍である。
同時に、ハティと大王の魔法攻撃が、シャンタルを襲う。
「おお、やるではないか」
コラリー、ハティと大王の魔法攻撃を、シャンタルは左手で展開した障壁で容易くはじき、
「っ!」
コラリーの魔法の槍の陰に隠れて、突貫したロッテに気付いて絶句する。
ロッテは突進しながら、剣を直線的に突き出す。
「下郎が!」
シャンタルは雷、氷の槍、魔法の槍、炎の弾をロッテ目掛けて浴びせる。
俺は障壁を展開し、シャンタルの攻撃から、ロッテを守る。
シャンタルの攻撃は攻撃は苛烈そのもの。
俺の障壁は、一撃で破壊される。だから一撃ごとに一枚障壁を展開していく。
俺とシャンタルの魔法展開速度の勝負ともいえる。
なんとかシャンタルの攻撃をしのぎ切って、
「はあぁあぁあぁぁああああああ」
ロッテは、シャンタル目掛けて、剣を突き立てる。
——キィィィン
シャンタルの左胸。その柔らかそうなふくらみにあたって、剣が折れた。
「馬鹿にしておるのか?」
シャンタルは、憎しみと怒りの混じった表情でロッテを見る。
ロッテは突進の勢いのまま、シャンタルの後方へ周りこむと、
「はああああああああ!」
再度突進を再開する。
「愚か者が」
一撃目は、コラリー、ハティ、大王の魔法攻撃と同時に行った奇襲だった。
二撃目は、奇襲でもなければ、魔法攻撃の援護も薄い。
しかも剣が折れている。
「死ぬがよい!」
不快そうにシャンタルは右手を振るう。
魔力の槍が数百本宙に現れ、ロッテを襲った。
それでも、ロッテは避けず、突進の速さを緩めない。
俺の「防御は気にするな」という言葉を信じてくれているんだろう。
俺も弟子の信頼にこたえなければなるまい。
障壁を多重で展開し、魔力の槍を防いでいく。
「はあああああああ!」
ロッテは、突進に全体重を乗せ、折れた剣をシャンタルに突き出す。
「折れた剣でなにができ——なに?」
剣はシャンタルの左胸を貫いた。
「ぐふっ」
シャンタルは口から血をあふれ出す。
剣はぼんやりと光っている。
「それは……」
「お師さまの作られた魔道具で発生させた結界です」
ロッテは一撃目で剣が通じないと判断したらしい。
すぐに結界発生装置で剣の形に結界を発生させることを思いつき、結界を剣にしてシャンタルを貫いたのだ。
「…………お前は口を開くなと言ったはずだ」
そして、再びシャンタルは口から大量の血を吐き出した。
「ふむ、ケイか。ケイだろう? そうだな、ケイの弟子」
「なんのことでしょうか?」
「ふふ。そうか。そうだろうな」
錯乱しているのか、シャンタルは、よくわからないことを口走る。
そして、ロッテから身体を離して、結界の剣を抜き、どしゃりと地面に倒れ伏した。
「…………」
無言のまま、シャンタルの身体は、煙を上げながら灰へと変化していく。
「まるで、アンデッドではないか」
大王が呻くようにつぶやいた。
確かに、死ぬときに灰へと変化するのはアンデッドの特徴である。
「ケイの弟子」
「はい」
死に際のシャンタルが、顔を地面に伏せたままつぶやく。
「あとは任せた」
「何をでございましょう?」
「…………」
シャンタルは返事をしない間に、全身が全て灰へと変わってしまった。
「やったのか?」
「聖女は死んだと考えていいのかや?」
大王とハティが警戒している中、
「りゃありゃあああああああ!」
ユルングが警告するかのように大声で鳴いた。
「ユルング、どうしたのじゃ?」
「りゃあああああああ!」
ユルングの視線の先には、シャンタルの灰があった。
その灰は、封印の魔法陣の上をゆっくりと動いている。
「灰だ!」
俺は叫ぶと同時に、風魔法でシャンタルの灰を吹き飛ばす。
だが、次の瞬間、
——ギィンギィンギィィン
鋭い音が連続で鳴り、封印が砕けた。
灰になったあとも動くように魔法、いや呪いをかけていたのだろう。
厄介なことこのうえない。
「りゃぁぁ……」
ユルングの鳴き声が優しいものに変わった。
「封印が砕けた以上出てくるぞ。身構えるのだ、ヴェルナー卿」
「はい」
「ここで止めねば、世界が滅びる。覚悟するがよい」
「わかりました。ロッテ」
「はい」
「この剣を使いなさい」
ロッテに自分のために用意した剣を渡す。
「はい!」
勇者であるロッテが、切り札になる可能性は高い。
「コラリー。命大事に」
「……わかった」
「主さま。ハティは?」
ハティには俺の指示は必要ないと思う。
「死ぬな」
「わかったのじゃ」
「RYAAAAAAA!」
その時、湖底の下から恐ろしい咆哮が響いた。
そして、岩盤で覆われた湖底が割れる。
「RYAAA……」
割れた岩盤の隙間から、巨大な右腕が現れた。
強烈な悪臭が噴き出してくる。
——RGYAAAAAGAAAAA
続けて、魔力のこもった咆哮が響き、同時に強力なドラゴンブレスが岩盤を吹き飛ばした。