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142 古竜の宴会

 部屋に入ると同時に小さくなったハティが言う。


「葬儀の後は宴会なのじゃ」

「そういうものなのか」


 ハティだけでなく、部屋に入ると、古竜たちはみな小さくなる。


「りゃ」「りゃっりゃ〜」

 小さくなった古竜たちが、はしゃぎながら、席へと向かう。


 それを見てユルングも嬉しそうに「りゃっりゃ」と鳴いている。


「か、かわいい」


 ロッテは思わず口走り、

「撫でてもよいぞ」

 それを聞いた、近くにいた長老衆の一頭がそう言って尻尾を振った。


「よ、よろしいのですか?」

「うむ」

「では、失礼いたしまして」


 恐る恐ると言った感じで、ロッテは小さくなった長老を撫でる。


「りゃ〜」

 万年生きているだろう長老が、まるでユルングのように鳴いた。


 体が小さくなることで、古竜は童心に帰るものなのかもしれなかった。


「……なぜ?」

 コラリーは首を傾げて、ハティのことを抱きしめて撫でまくっている。


 ロッテみたいに知らない古竜を撫でる度胸はなかったのだろう。

 だから、ハティを撫でることで、古竜を撫でたい欲を発散しているのだ。


「大きい体で、沢山食べたら、大変なことになるのじゃ」


 撫でられながら、ハティは答える。


「確かに、これだけの古竜がお腹いっぱい食べたら、牛ならば何百頭必要になるかもしれないな」

「うむ! 主さまの言う通りなのじゃ。ささ、主さまも早く席に着くのじゃ」


 俺はハティに促されて、席に着く。

 ロッテも長老にお礼をいって、俺の右隣に座った。

 コラリーはハティを抱っこしたまま、ロッテの右隣に座る。


「失礼」

 そして、大王は俺の左隣に座った。

 小さい姿の大王は、ハティによく似ているが、ハティと違ってどこか威厳があった。


「ヴェルナー卿も、王女殿下も、コラリーさんも、どんどん食べてくれ」

「ありがとうございます」


 食べ物と飲み物は床に近いところ、お盆のようなものの上に置かれている。

 柔らかい床の上に柔らかいクッションが置かれており、直接座って食べるようだ。


 全員が席に着くと、宴会が始まる。

 古竜たちは、わいわいと楽しそうに騒ぎながら、前大王の思い出話を始めた。


 俺は隣に座っている大王に尋ねる。


「古竜の葬儀はいつもこのような雰囲気なのですか?」

「亡くなった古竜によって違うな。亡くなったのが若い古竜ならば、このような雰囲気にはならぬ」

「そうなのですね」

「うむ。それに、母は千年もの間、苦しんでいた。だからこそだ」


 古竜たちは前大王が苦しんでいたことを知っていたからこそ、苦しみから解放されたことを、祝っているのだろう。


「りゃ!」

「ああ、ごめんな。どれを食べたい?」


 用意されているご飯は牛や豚、魔獣の肉や木の実などから、パンやシチュー、ケーキなど、調理されたものまでいろいろあった。


「これを食べるか?」

 俺はユルングが食べたそうな物を、適当に選んで口に入れる。


「りゃむりゃむ!」


 ユルングは尻尾を揺らしながら、美味しそうに食べる。

 古竜たちは、会話をしながら、ユルングの様子をさりげなく窺っていた。

 ユルングが前大王の娘にして、大王の妹なので気になっているのだろう。


 見ているだけなのかと思っていたら、

「ヴェルナー卿、それにユルング殿下」

 一頭の古竜がパタパタ飛んでやって来た。


「どうされましたか?」

「りゃあ?」

「御尊顔を拝す栄を賜り、恐悦至極に存じ上げます。我が名は……」


 一頭が丁寧に挨拶してから名乗ると、続々と古竜たちがやってくる。

 そして、挨拶し、名乗っていく。


 今日初めてユルングに出会った古竜たちが、ユルングの前にパタパタ浮かぶ。

 全部で、二十五頭ほどだ。


「みな、気持ちはわかるが、席に戻らぬか」

「それぞれの席からでも見れるし、話せるはずだ」

「うむ。殿下がびっくりしているであろ」


 長老衆が古竜たちをたしなめる。


「みな、威厳ある古竜として節度を持たねばならぬぞ? むぐむぐ」


 最後に説教臭いことを言った長老はロッテに抱っこしてもらい、ご飯を手から食べさせてもらっている。

 威厳のかけらもない姿だが、古竜たちは特に何とも思っていないようだった。


「りゃあ〜」

 そして、ユルングは特にびっくりすることもなく、楽しそうに尻尾を振っている。


「なんと度胸のある赤子であるか」

「将来有望ですな」

「殿下は、教えられてもいないのに治癒魔法を使ったそうですぞ」

「なんと!」


 席に戻りながら、古竜たちが噂している。

 なぜユルングが治癒魔法を使ったことを知っているのだろうか。


 気になって、ちらりと大王を見ると、

「……すまぬ。つい自慢してしまった」

「気持ちはわかります」


 大王は兄馬鹿なのかもしれなかった。


 席に戻った古竜たちは

「殿下はとてもかわいらしいのう」

 砕けた調子で話している。


 挨拶以外、あまり礼儀にうるさくない文化なのだろう。

 ハティも古竜はあまり堅苦しくはないと言っていた気がする。


「ハティ殿下、ユルング殿下は普段どのような古竜なのだ?」

「ユルングは好奇心が強い古竜なのじゃ。大体よい子なのだが、たまにいたずらするのじゃ」


 そう返事をしたハティはコラリーに抱かれて、コラリーにお菓子を食べさせてもらっている。


「ほう。それはそれは、古竜らしい古竜ですな」


 古竜たちは、まるで孫に向けるような優しい目でユルングを見つめていた。

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