部屋に入ると同時に小さくなったハティが言う。
「葬儀の後は宴会なのじゃ」
「そういうものなのか」
ハティだけでなく、部屋に入ると、古竜たちはみな小さくなる。
「りゃ」「りゃっりゃ〜」
小さくなった古竜たちが、はしゃぎながら、席へと向かう。
それを見てユルングも嬉しそうに「りゃっりゃ」と鳴いている。
「か、かわいい」
ロッテは思わず口走り、
「撫でてもよいぞ」
それを聞いた、近くにいた長老衆の一頭がそう言って尻尾を振った。
「よ、よろしいのですか?」
「うむ」
「では、失礼いたしまして」
恐る恐ると言った感じで、ロッテは小さくなった長老を撫でる。
「りゃ〜」
万年生きているだろう長老が、まるでユルングのように鳴いた。
体が小さくなることで、古竜は童心に帰るものなのかもしれなかった。
「……なぜ?」
コラリーは首を傾げて、ハティのことを抱きしめて撫でまくっている。
ロッテみたいに知らない古竜を撫でる度胸はなかったのだろう。
だから、ハティを撫でることで、古竜を撫でたい欲を発散しているのだ。
「大きい体で、沢山食べたら、大変なことになるのじゃ」
撫でられながら、ハティは答える。
「確かに、これだけの古竜がお腹いっぱい食べたら、牛ならば何百頭必要になるかもしれないな」
「うむ! 主さまの言う通りなのじゃ。ささ、主さまも早く席に着くのじゃ」
俺はハティに促されて、席に着く。
ロッテも長老にお礼をいって、俺の右隣に座った。
コラリーはハティを抱っこしたまま、ロッテの右隣に座る。
「失礼」
そして、大王は俺の左隣に座った。
小さい姿の大王は、ハティによく似ているが、ハティと違ってどこか威厳があった。
「ヴェルナー卿も、王女殿下も、コラリーさんも、どんどん食べてくれ」
「ありがとうございます」
食べ物と飲み物は床に近いところ、お盆のようなものの上に置かれている。
柔らかい床の上に柔らかいクッションが置かれており、直接座って食べるようだ。
全員が席に着くと、宴会が始まる。
古竜たちは、わいわいと楽しそうに騒ぎながら、前大王の思い出話を始めた。
俺は隣に座っている大王に尋ねる。
「古竜の葬儀はいつもこのような雰囲気なのですか?」
「亡くなった古竜によって違うな。亡くなったのが若い古竜ならば、このような雰囲気にはならぬ」
「そうなのですね」
「うむ。それに、母は千年もの間、苦しんでいた。だからこそだ」
古竜たちは前大王が苦しんでいたことを知っていたからこそ、苦しみから解放されたことを、祝っているのだろう。
「りゃ!」
「ああ、ごめんな。どれを食べたい?」
用意されているご飯は牛や豚、魔獣の肉や木の実などから、パンやシチュー、ケーキなど、調理されたものまでいろいろあった。
「これを食べるか?」
俺はユルングが食べたそうな物を、適当に選んで口に入れる。
「りゃむりゃむ!」
ユルングは尻尾を揺らしながら、美味しそうに食べる。
古竜たちは、会話をしながら、ユルングの様子をさりげなく窺っていた。
ユルングが前大王の娘にして、大王の妹なので気になっているのだろう。
見ているだけなのかと思っていたら、
「ヴェルナー卿、それにユルング殿下」
一頭の古竜がパタパタ飛んでやって来た。
「どうされましたか?」
「りゃあ?」
「御尊顔を拝す栄を賜り、恐悦至極に存じ上げます。我が名は……」
一頭が丁寧に挨拶してから名乗ると、続々と古竜たちがやってくる。
そして、挨拶し、名乗っていく。
今日初めてユルングに出会った古竜たちが、ユルングの前にパタパタ浮かぶ。
全部で、二十五頭ほどだ。
「みな、気持ちはわかるが、席に戻らぬか」
「それぞれの席からでも見れるし、話せるはずだ」
「うむ。殿下がびっくりしているであろ」
長老衆が古竜たちをたしなめる。
「みな、威厳ある古竜として節度を持たねばならぬぞ? むぐむぐ」
最後に説教臭いことを言った長老はロッテに抱っこしてもらい、ご飯を手から食べさせてもらっている。
威厳のかけらもない姿だが、古竜たちは特に何とも思っていないようだった。
「りゃあ〜」
そして、ユルングは特にびっくりすることもなく、楽しそうに尻尾を振っている。
「なんと度胸のある赤子であるか」
「将来有望ですな」
「殿下は、教えられてもいないのに治癒魔法を使ったそうですぞ」
「なんと!」
席に戻りながら、古竜たちが噂している。
なぜユルングが治癒魔法を使ったことを知っているのだろうか。
気になって、ちらりと大王を見ると、
「……すまぬ。つい自慢してしまった」
「気持ちはわかります」
大王は兄馬鹿なのかもしれなかった。
席に戻った古竜たちは
「殿下はとてもかわいらしいのう」
砕けた調子で話している。
挨拶以外、あまり礼儀にうるさくない文化なのだろう。
ハティも古竜はあまり堅苦しくはないと言っていた気がする。
「ハティ殿下、ユルング殿下は普段どのような古竜なのだ?」
「ユルングは好奇心が強い古竜なのじゃ。大体よい子なのだが、たまにいたずらするのじゃ」
そう返事をしたハティはコラリーに抱かれて、コラリーにお菓子を食べさせてもらっている。
「ほう。それはそれは、古竜らしい古竜ですな」
古竜たちは、まるで孫に向けるような優しい目でユルングを見つめていた。