古竜たちはユルングに対してなんでも聞きたがった。
好きな食べ物、好きな遊び、どんなおもちゃが好きなのか、いつもどのくらい寝ているのか。
だが、ユルングが俺に保護された経緯については聞かなかった。
恐らく、古竜たちは何があったかを知っているのだ。
ユルングが俺に保護された経緯に言及すれば、人族の非道に触れざるを得ない。
だから、敢えて聞かないでくれているのだろう。
「……りゃ〜〜む」
パクパク食べてお腹がいっぱいになったから、眠くなったのだろう。
ユルングは大きく口を開けてあくびをした。
「眠っていいよ」
「りゃむ」
ユルングは俺のお腹に顔をぐしぐしと押しつけると眠りはじめた。
それを見た古竜たちは、微笑んだ。
一分ほど、皆が眠るユルングを見つめて、場全体が静かになる。
ユルングが寝息を立て始めたのを見て、長老衆の一頭が口を開いた。
「……さて、陛下。何が起こったのか、もう一度ご説明願いたい」
どうやら前大王の死を悼む回から、今後のことを話し合う会議へと区切りなく変化したようだ。
それも古竜の文化なのかも知れない。
長老の言葉を受けて、俺の左隣に座る大王は真剣な表情でうなずいた。
「うむ……。説明する前に、客人のことを紹介しておこう。理解の助けになるゆえな」
そういうと、大王は俺とロッテ、コラリーのことを皆に紹介した。
「殿下の後見人は、大賢者の弟子であったか」
「おお、あのラメットの」
そんな驚きの声を上げる古竜もいた。
どうやら大賢者ケイとロッテの先祖であるラメットに関しては、古竜たちも知っているらしい。
俺たちの紹介が終わると、古竜たちも順番に自己紹介してくれた。
全員の自己紹介が終わると、大王は俺に向かって頭を下げる。
「すまぬ。葬儀であったゆえ、みなに紹介するタイミングがなかった」
「いえ、気にしてはおりません」
そして、一息つくと、大王は俺たちが王宮を訪れたところから説明を開始する。
ユルングが前大王の娘だとわかり、前大王の下へ向かったこと。
そこにシャンタルが襲ってきて、倒したが、前大王の封印が解けたこと。
そして前大王を無事倒し、王宮に戻ってきたこと。
その流れを大王は端的に説明していく。
説明を聞いていた古竜たちは、皆険しい顔になった。
「……聖女シャンタルがなにゆえ?」
「聖女の王女殿下に対する敵対的態度にヒントがあるのではないか?」
「よくわからぬな。ヴェルナー卿。大賢者と連絡は付かないのか?」
俺に尋ねてきたのは長老の一頭だ。
「ヴェルナー卿も、ケイ博士にはしばらく会っておられないのだ。大賢者がどこにいるのかも不明だ」
大王が俺の代わりに答えてくれた。
「連絡手段がないか……むう。大賢者と話しができたら……」
「できないことをあれこれ言っても——」
「いえもしかしたら可能かも知れません」
俺がそういうと、大王は目を見開いた。
「なに? まことか?」
「可能性、だけですが」
俺は遠距離通話用魔道具をファルコン号に渡して届けさせたことを教えた。
「果たして、ファルコン号が先生の元に、既に到着しているのかはわかりませんが」
「連絡していただくことは可能だろうか?」
「はい、やってみましょう」
本当は昨日起きたらケイ先生に連絡しようと思っていたのだ。
葬儀があったから連絡していなかっただけである。
いや、怒られそうだから理由をつけて後回しにしていたというのはあるかも知れない。
だが、ケイ先生に連絡しないで済む段階ではないのも間違いない。
「では、いきます」
俺は深呼吸して、覚悟を決めると、ケイ先生につながる遠距離通話用魔道具を起動する。
「先生。聞こえますか?」
『………………』
「どうやら、繋がりませんね、まだファルコン号が——」
そういって、通話を終了しようとしたのだが、
『諦めるのが早い! ほんの数秒も待てぬのか、愚か者!』
魔道具からケイ先生の子供のような怒鳴り声が聞こえてくる。
「っ!」
俺の右隣に座っていたロッテがびくりとした。
ケイ先生の声はシャンタルの声とそっくりだ。
だから、ロッテがびっくりするのはよくわかる。
なぜかシャンタルはロッテにきつく当たっていたから、余計だろう。
「先生、大きな声を出さないでください。子供が怯えます」
「りゃ?」
寝ぼけ眼でユルングが俺を見る。
ケイ先生の大声のせいで、目を覚ましたのだ。
「ユルング、大丈夫だからね。怖くないよ〜」
ケイ先生に聞こえるように、ユルングに声をかける。
『……すまぬ』
「わかればいいんです。これからは気をつけてくださいね」
ケイ先生のミスもあり、なんとか会話の主導権を握ることができた。
こうなったら、少し楽に話を進められるだろう。
「さて——」
『ん。わかっておる。我が妹の件だな?』
「そのとお——」
『話せば長くなるし、そちらに行ってもよいか?』
「こっちですか——」
『お主には聞いておらぬ。わしはそこにいる大王に聞いておる』
俺は驚いて左隣に座る大王を見た。
なぜ、ケイ先生は大王が俺の隣にいることを知っているのだろうか。
「……もちろん構いません。こちらからお願いしたいほどです。大賢者」
『それはよかった。古竜の王宮は中に入るための許可を取るのが大変で困る』
そのとき、小さくなってみなと一緒にご飯を食べていた古竜の侍従が、
「来客でございます」
手に持った魔道具を見ながら、そう言った。