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150 師匠の体

 俺はケイ先生に尋ねる。


「まだシャンタルが生きている可能性があると、先生は思いますか?」

「可能性はあるだろう、……だが」


 ケイ先生は真剣な表情で考えているので、俺は黙って続きを待った。


「とっくに死んでいる可能性も低くないと思っている」

「死後、擬体だけ動いていたと?」

「そうだな、それは可能だ」

「つまりシャンタルの生死は不明と言うことですね」

「そうなる」


 死んでいるならばそれでいい。

 だが、生きているならば、再び襲撃される可能性がある。


「ロッテの護衛をもう少し増やした方が良いか」


 シャンタルが何かするとしたら、ロッテに対しての可能性が高い。


「それよりも、鍛えてやってくれ。わしにはできぬから、頼んだぞ」

「わかりました。ところで、先生の本体はどこに?」

「……ふむ」

「聞くべきではないならば、聞きませんが」


 機密は知る者が少ない方が漏洩しない。

 だから、誰に教えるかは身長になるべきなのだ。


「…………ふむ。そうだな。ヴェルナーになら教えても良かろう」


 しばらく考えてからケイ先生はそう言った。


「いざというとき、ヴェルナーは知っておいた方が良かろうし」


 知らなければ対応できないというのも事実だ。


「わしの本体は……そなたの実家の近くにある」

「シュトライト辺境伯領ですか?」

「うむ。まさか帝国に封じるわけにも行かぬし」

「それはそうでしょう」


 シャンタルは帝国に対して大きな影響力を持っている。

 帝国にケイ先生の本体が封じられていれば、何かあったとき、対応が難しくなる。


「かといって、ラメット王国は頼りない」


 ロッテの故郷、ラメット王国は小国なのだ。

 それに、シャンタルはラメット王国の建国母でもある。

 シャンタルの影響力はとても大きい。


「となると、ラインフェルデン皇国になるわけだが、どこでも良いというわけでもない」

「まあ、王都周辺は選びにくいですよね」


 人口密集地に近ければ何かあったときの被害が大きくなる。


「もちろん、辺境伯領の領民の被害を軽視しているわけではないのだが」

「わかっていますよ」


 辺境伯領の位置は、皇国の端。帝国との国境沿いだ。

 領民の数は多いが、もちろん王都ほどではない。

 それに強力な軍事力を持ち、帝国も手を出しにくい。


「すまぬな」

「ちなみに、辺境伯領のどの辺りでしょう?」

「ええっと」


 ケイ先生はポケットから折りたたまれた小さな紙を取り出した。

 それを広げると、たちまち巨大な地図になる。


「どういう原理……あ、魔法の鞄マジック・バックの機能を折りたたんで?」

「一目で見抜くか。やるではないか」


 ケイ先生に頭を撫でられた。


「魔法の鞄は俺が開発した魔道具ですし……、でも折りたたんだ紙に応用する発想はなかったな」

「ふふ。励め」


 どや顔でケイ先生は胸を張る。


「それでっと、まあこの辺りだ」


 ケイ先生は大きな地図の一点を指さした。


「ほう。辺境伯家の本城に近いですね」

「うむ。帝国もここならば、容易には手を出せまい」

「そうですね。ちなみに父上は?」

「知っておる。さすがに辺境伯に知らせずにこのようなことはしない」


 父が知っているならば、俺が言うことは何もない。


「さて、ヴェルナー。何か聞きたいことはあるか?」

「ええっと、とりあえず大丈夫です」

「わかった」


 そういうと、ケイ先生は立ち上がって歩き出す。


「先生、どこに?」

「ん? 抱っこして眠って欲しかったか?」

「変な冗談はやめてください」

「ふふ。大王にも説明せねばならぬからな」


 ケイ先生は扉に手を掛けながら、こちらを振り返った。


「ヴェルナー。そなたの知る情報は、そなたが教えたほうが良いと思った者に、教えた方が良いと思ったタイミングで教えるが良い」

「難しいことを言いますね」

「なに、そのぐらい、我が弟子ならばこなせるであろう。そなたは当代における我が唯一の弟子なのだ」

「光栄だといえばいいんでしょうか」

「もちろんだ」

「あ、先生、ロッテが勇者であることは大王は知っています」


 一応、教えておくべきだろう。


「そうか。さすがは大王だ。ラメットと一緒に戦っただけのことはある」


 ケイ先生は寝ているユルングの頭を撫でる。


「ん、よく眠るのだぞ」


 そして背伸びして、俺の頭も撫でた。


「では、行ってくる。ヴェルナーも眠るが良い」


 ケイ先生が部屋を出て行く。

 俺はベッドに横になり、ユルングをお腹の上で抱いて考える。


 シャンタルの生死は不明。残党の勢力も不明。

 ケイ先生は大魔王になりかけていたが、とりあえずは封印のおかげで無事。


「うーん。俺にできることは……ロッテを鍛えるぐらいか?」


 情報収集は専門家に任せるしかない。


 考えていると、部屋の扉が開かれる。


「……主さま、お話は終わったのかや?」

 小さなハティが扉から顔だけ出して、こちらを伺う。


「終わったよ。もしかして、話しが終わるのを待っていてくれたのか? すまない」

「いいのじゃ! みんな、終わったのじゃ」


 ハティの言葉で、ロッテとコラリーが部屋の中に戻ってきた。

 コラリーは部屋の中に入る際に、ハティのことを抱っこした。


「ロッテ、コラリー、お腹はいっぱいか?」

「はい。おかげさまで」

「……うん。食べ過ぎた」


 いっぱい食べたおかげか、コラリーは眠そうだった。


「コラリー、眠っていいよ」

「……うん」


 コラリーはハティを抱いたまま、俺の隣に横になる。

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