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157 古竜との共同開発

 そして、グイド猊下は小さくなった。


「人族の魔道具を扱うにはこのサイズの方が便利ゆえな」

「ありがとうございます」

「で、ヴェルナー卿。改良案はあるのか?」

「そうですね、まず魔石の役割を変えて、出力を——」


 話し合いはじめると、コラリーがぼそっと言う。


「……ロッテ、あっちで訓練しよう」

「訓練ですか?」

「……うん。魔道具の勉強より、今は訓練」

「それはそうかもですが……」


 そういって、ロッテは俺を見た。


「ん。ロッテ、今は訓練を優先した方が良いかもな」

「わかりました」


 それを聞いていた大王が言う。

「王女殿下とコラリー殿は努力家であるな。古竜の訓練場に案内しよう」

 そして、訓練場へと連れて行く。


「ハティ」

「どうしたのかや?」

「悪いけどロッテとコラリーの訓練を見守ってくれ」

「わかったのじゃ」

「コラリーの攻撃をロッテがかわせないと思ったら障壁で防いでくれ」


 そういうと、ハティは首をかしげた。


「ロッテの剣がコラリーにあたるかもしれないのじゃ」


 ロッテを守るだけでなく、コラリーも守らなくてよいのかと疑問に思ったのだろう。


「まあ、大丈夫だよ。もしものときは頼むけど」

「わかったのじゃ。怪我しそうになったら止めるのじゃ」

「ありがとう、助かる」

「お安いご用なのじゃ!」


 そして、ハティがパタパタ飛んで、大王たちについていく。


「りゃ〜」

 そんなハティたちをユルングは手を振って見送った。


「ヴェルナー卿。ずいぶんと二人を気に掛けておられるのだな」


 グイド猊下は笑顔で言う。


「弟子ですから。怪我をされては困ります」

「そうか。うむうむ。それでは、ヴェルナー卿の愛弟子のために頑張るとするか」

「ありがとうございます」

「だが、まずは簡単な作業からやっていこう」

「簡単な作業ですか? となると……」

「そう、ヴェルナー卿の剣からだ。魔道具……というわけではないがな」


 グイド猊下は簡単だと言うが、俺にはそう簡単だとは思えなかった。

 前大王がかけたのは、相当高度な魔法だし、そもそも俺が慣れ親しんだケイ先生の体系とは違う。


「猊下。私にとってはこの剣にかけられた魔法はかなり複雑で、簡単だとは思えませんが」

「で、あろうな。だがこの剣には古竜の魔法しかかかっておらぬ。理解しやすいであろう?」

「それは、たしかにそうですね」

「古竜の魔法と魔道具技術についてはわしが教えるゆえ、卿には人族の魔法と魔導具技術について教えて欲しい」

「わかりました。よろしくお願いいたします」


 俺はグイド猊下と一緒に、オリハルコンの剣にかけられた魔法を解析することからはじめた。

 グイド猊下は当然、かけられた魔法についてわかっているが、俺のために解析から付き合ってくれる。


 解析はオリハルコンの剣に前大王が刻んだ魔法陣を改めて調べることから始った。


「……刃の耐久性をあげる機能は、魔法陣のこの部分ですよね」

「そうじゃな。さすが大賢者の弟子。すぐに理解するとは」

「いえ、切れ味を維持する機能を、魔法陣のこの部分で……」

「うむうむ」

「同時に魔力を流しやすくもしていると」


 一つの魔法陣が三つの機能を発揮している。

 完成度が非常に高い。

 動かすのに必要な魔力が膨大と言うこともない。

 前大王は、人族が使うことを前提にこの剣を作ったのだろう。


「人族の魔法の専門家である卿の目からは、古竜の魔法はどう見える?」

「見事の一言です。全てが有機的に繋がっていて、全ての機能が、互いに補い高めています」

「人族ならば、どうつくるのだ?」

「そうですね、魔法陣一つに、一つの機能をつけるのが基本でしょうか」

「ふむふむ? それだと一つの武器にいくつも魔法陣を描く必要があるだろう?」

「その通りです。複数の魔法陣を繋げはしますが……」


 俺は机の上にあった紙とペンを使って、さっと魔法陣を描いた。


「耐久度と切れ味、魔力伝導性を高めるならば、このような魔法陣でしょうか」

「一つ一つの魔法陣が小さいのだな」


 一つ一つの魔法陣の大きさは、前大王のものより小さい。

 だが、三つ合わせれば、俺の描いた魔法陣の方が大きかった。


「なぜ、人族は複数に分けるのだ?」

「まず、古竜ほど魔法陣の技術が高くないというのがあるでしょうが……」

「だが、メリットもあるのだろう?」

「そうですね、壊れたときに一つを直せば済みますし、複数人で作業するのも楽になります」

「なるほど」

「それに、調整も楽です。耐久度を変えたいとなると、前大王の魔法陣では全体をいじる必要がありますから」

「人族のものだと、魔法陣一つをいじれば良いと。なるほど」


 感心したようにグイド猊下は頷く。

 古竜には高い技術と時間の余裕があるからこそ、魔法陣を分けるメリットを感じにくいのだろう。


「それで、卿ならば、どう改良する?」

「元々の完成度が高いですから……」


 耐久度や切れ味、魔力伝導性などは申し分ない。今更いじるまでもない。

 俺は少し考える。


「……障壁破りの機能を付与しましょうか」

「障壁破りとな?」

「シャンタルと前大王と戦って、もっとも厄介だったのは強力な障壁です」

「ふむ? それはそうだろうが……」

「実はですね……」


 ロッテがシャンタルの胸に剣を突き刺そうとしたら、あっさり折れた。

 それはシャンタルが体に展開した障壁のせいである。

 最終的にシャンタルの体を障壁ごと貫いたのは、結界を纏わせたロッテの剣だ。

 そんなことを、俺はグイドに説明する。


「なんと。卿の弟子の王女殿下は天才か?」

「天才でしょうね」


 周囲に誰も居ないのに、グイド猊下は声を潜めていう。


「………………やはり、卿の弟子は勇者か?」


 グイド猊下は真剣な表情で俺を見つめる。

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