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158 オリハルコンの剣の強化

「やはり、とは?」

「大賢者が王女殿下にかけた言葉がな。まるで勇者に対するそれだとは思ったのだ」

「そうですか」


 あの場にいた古竜たちは、みなロッテが勇者だと薄々気付いているのかもしれない。

 今更グイド猊下に隠しても意味は無さそうだ。


「ご推察の通りです、ですが、本人は知らないことなので」

「……わかった。わしの胸に納めておこう」

「ありがとうございます」


 古竜は口が固いので安心だ。

 グイド猊下は「うむ」と深く頷くと笑顔で言う。


「りゃ〜?」

 そんなグイド猊下を見て、ユルングは首をかしげた。


「殿下、ご心配召されるな」

「りゃ!」

「さてさて、話がずれたな。卿はどうやって結界を刀身に纏わせる機能を付与するのだ?」

「そうですね」

「王女殿下がやったように結界発生装置を利用するのか?」

「それだと簡単ではあるのですが……一目でばれます」

「ふむ?」

「シャンタルと違い、ケイ先生は魔道具の専門家なので……」


 そのうえ、俺の作った結界発生装置のことをケイ先生は知っている。

 剣に結界発生装置が付いていればすぐ気付くだろう。


「魔道具ではなく、障壁を展開する魔法陣を刻みましょう」

「ふむふむ」


 俺はグイド猊下に見守られながら、紙に魔法陣の素案を描いていく。

 ユルングは寝ていないのに大人しい。

 俺のお腹に抱きついた状態で、じっと魔法陣を見つめている。


「肝は展開スピードですから……このように……」


 剣を振り始めるのと同時に展開を開始し、刃が敵に到達する前に展開を完了しなければならない。


「ふむ? だが、それだと出力が足りないのではないか?」

「そうですね。威力を高めるには……」

「こうすればどうか?」

「おお、たしかに、そうすれば出力が上がりますね。その発想はありませんでした」

「うむ。出力を上げるのは古竜の専門分野ゆえな」


 グイド猊下はにやりと笑った。


「これで、展開速度と出力、両方完璧ですね。魔法陣の大きさも刀身に刻める大きさに収められそうですし」

「しかしヴェルナー卿、これだと消費魔力が多くなりはせぬか?」

「……たしかに」「りゃ」


 話し合いに参加しているつもりのユルングがうんうんと頷く。

 俺が使う分には問題ない。

 だが、万が一のとき、ロッテも使えるようにしなくてはならないのだ。

 ロッテが使うには、消費魔力が多すぎる。


「消費を落としつつ、展開速度と出力を維持する方法。ヴェルナー卿、果たしてそんな方法があるのか?」

「難しいですね。ですが不可能ではないかと」

「そうなのか。古竜は魔力消費を抑えるということをほとんどせぬからな。わしにはわからぬ」

「……そうですね。この部分を省略して、増幅機能を持たせるのはどうでしょうか?」

「省略する理由は?」「りゃ?」

「ここを省略すれば、障壁の維持時間が短くなります」

「短くなれば、消費魔力が減ると」

「そうですね。加えて、増幅機能を持たせることで、一瞬だけ強力な障壁を展開できるようにしようと思いまして」

「なるほどなるほど。それでよかろう。問題は」


 グイド猊下は刀身を指の先で撫でる。


「前大王の魔法陣との整合性であるな」「りゃむ」


 元々、刀身には前大王が魔法陣を刻んでいるのだ。


「こうやって繋げるのはどうでしょうか?」

「おお、よい手段だ。わしの発想にはなかったな」「りゃあ」


 ユルングも真剣な表情でうんうんと頷いている。


「だが、ヴェルナー卿、ここは、このようにしたらどうだろう」

「……! おお、たしかに」「りゃっ!!」


 グイド猊下の指摘は目から鱗だった。

 少しいじるだけで、魔法陣の連携が格段に良くなる。


「しかも、魔法陣の間で魔力が循環するので魔力効率が上がりますね」「りゃ〜」

「うむうむ。そうなのだ。魔力効率を上げた方が消費魔力も少なくて済むゆえな」


 古竜は魔力効率などあまり考えない。

 だが、この短期間でグイド猊下は魔力効率や魔力消費についての考え方を理解したのだ。

 そして、魔力消費や効率を考えてばかりいる人族の俺ですら思いつかなかったことを提案してくれる。


 数千年のキャリアは伊達ではないと言うことだろう。


「古竜の長老猊下に、このようなことを言うのは却って失礼かもしれませんが」

「む?」「りゃむ?」

「猊下の魔法に対する造詣の深さに、ただただ驚くばかりです」

「ただ、長い間やっているというだけのことよ。がっはっは」「りゃっりゃっりゃ!」


 楽しそうにグイド猊下は笑い、それにつられたのかユルングも楽しそうに笑った。

 ひとしきり笑うと、グイド猊下が言う。


「では、作業に入るか」

「はい、猊下」


 俺とグイド猊下は力を合わせて魔法陣を刻んでいく。

 その作業を、ユルングは真剣な表情で見つめていた。


 実際の作業は十分と掛からずに、終わったのだった。

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