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159 古竜との共同作業

 もっとも簡単だと思われた俺が使う剣の強化が完了した。


「次は……、どちらからすべきかのう。卿はどう考える?」「りゃ?」

「そうですね。両方難しいですが、コラリーの使う魔道具の方が簡単かもしれません」

「ふむ。たしかにラメットの剣は、大賢者と聖女の魔法であるからな」「りゃむ」


 恐らく魔法付与作業自体はラメットの剣の方が短時間で終わるだろう。

 だが、解析が難しい。

 そして、解析した結果を踏まえて新たなどのような魔法を付与するか、付与する方法などを考えるのは大変だ。


 その点、コラリーが使う二つの魔道具は、作業こそ時間が掛かりそうだが、解析はそう難しくないはずだ。


「何しろ魔道具の製作者である猊下がおられますからね」

「うむ。この魔道具について聞きたいことがあればなんでも聞くが良い」


 そういってグイド猊下はにこりと笑う。



 俺はグイド猊下と一緒にコラリー用の二つの魔道具の解析をはじめる。


「障壁を発生させる魔道具は防御用、魔力の放出を助ける魔道具は攻撃用ですよね」

「そうである。そのつもりで作った」

「ちなみに五千年前の大賢者さまはこれを使ってどのような感想を?」

「疲れて仕方が無いと」


 懐かしむかのように遠い目をして、グイド猊下は言う。


「それはそうででしょうね。……ちなみに実戦で使われたのですか?」

「うむ。五千年前の大魔王との戦いで使用された」

「大魔王ですか」「りゃむ?」


 大魔王と聞いてユルングがピクリとした。

 ユルングに大魔王という言葉の意味がわかっているとは思わない。

 だが、なんとなく危険な存在を指す言葉と言うことはわかっているのかも知れない。


「五千年前の大魔王は、元々人族の魔導師だったのだ。強力無比な魔法を使い、それを防ぐ為の障壁を作り出すために使ったのだよ」

「つまり大賢者は防御を担当し、攻撃は別のものに任せたと言うことですか?」

「そうだ。大魔王の極大魔法は都市を丸ごと吹き飛ばす威力だったが、連発は出来ぬ。それゆえ、一撃しのげれば勝機はあったのだ」

「なるほど、こちらの魔力放出を助ける魔道具は……」


 五千年前の大賢者は防御を担ったようだ。

 そして、障壁を展開した後は力尽きたはずだ。

 死んでいてもおかしくないし、死んでいなかったとしても意識を失ったに違いない。


「攻撃はわしと人族の戦士、勇者、大賢者ではない魔導師が担ったのだ。あいつらは、弱き人族だというのに、とても強かった」


 五千年前の思い出を語るグイドは、少しだけ寂しそうだった。


「ということは、こちらの魔力の放出を担う魔道具は実戦で使われなかったのですか?」

「そうではないぞ。きちんと大魔王戦において役に立った」

「どういうことでしょう?」「りゃむ〜?」


 俺が尋ねると、ユルングも首をかしげた。


「大魔王の極大魔法は、尋常ではない威力でな。並大抵のことでは防ぎきれなかったのだ」


 説明しながら、グイド猊下は障壁を展開する魔道具の横に、魔力放出を助ける魔道具を並べる。


「だから、二つの魔道具を連携させた。魔力を放出させて、その大量の魔力を使って、障壁を展開したのだ」

「それは……死にませんか?」

「たしかに危ない。だが、極大魔法を防がねば万を超す人族と数え切れない生物が死ぬことになっただろう」


 どうせ防げなければ、大賢者も死ぬし、勇者も戦士も、その他多くの民も死ぬ。

 ならば、命を懸ける価値がある。


「どうして、猊下が障壁を担当されなかったのですか?」


 グイド猊下ならば魔力量の桁が人族とは文字通り違う。

 魔力放出を助ける魔道具を使う必要も無いだろう。

 それに障壁を展開しても倒れまい。

 その後、攻撃に転じることすらできただろう。


「たしかに卿の言うとおりだ。それが合理的で、最も賢い戦術だろう」

「ならば、どうして?」

「大魔王は大賢者の弟子だったのだ」


 グイド猊下は説明はそれだけで充分だとばかりに、一言だけ言う。


「…………そうだったのですね」


 五千年前の大賢者は弟子を殺すことができなかったのだ。

 だから、攻撃を防ぐ役割を担ったのだろう。


「大賢者は天才だった。人族の魔法技術を百年進めたと言っていい。だが、その愛弟子はその上をいく天才だった」


 そしてグイド猊下は寂しそうな目で俺を見る。


「勇者たちが、わしに泣いて頼むのだ。ただの師と弟子ではなかった。血縁はなかったが親子のようでな」


 勇者たちは、大賢者に弟子であり子である大魔王を殺させたくなかったのだ。

 だからといって、戦いに参加するなと言っても大賢者は納得しないだろう。

 弟子であり子である大切な存在が、大魔王に変質し苦しんでいるのだから。


 しんみりとした空気が流れる中、

「さて! ヴェルナー卿。どう改良する?」

 グイド猊下は努めて明るく言った。


「そうですね」

「極大魔法を防ごうとするならば、組み合わせるしかないが……」

「猊下、正直なところ、コラリーと五千年前の大賢者の魔力量はどのくらい違いますか?」

「そうであるな。……コラリー殿は優秀な魔導師だが、それでも魔力量は五分の一程度かも知れぬ」


 それは俺の見立ての通りだった。

 コラリーの五倍程度の魔力量がなければ、二つの魔道具を繋げて使うのは難しい。


「コラリー殿を死なせるわけにはいかぬゆえ、魔力消費を抑えるしかなかろうが……」


 魔力消費が下がれば、当然障壁の強度は弱くなり、展開速度は遅くなる。

 いかに工夫して、強度をなるべく下げずに、展開速度を維持したまま、消費魔力を抑えるか。

 グイド猊下はそう考えているのだろう。


「一つ案を思いついたのですが、それが可能かわかりません。

「ふむ?」「りゃ?」

「猊下、質問よろしいですか?」

「もちろんだ」

「では……」


 俺はグイド猊下の作った二つの魔道具について、ひたすら質問していった。

 それは古竜の魔道具理論を知るためでもあった。

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