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一章

新生、かーらーの、即詰みですか?

 ふと気付けば、私はそこに在りました。

 目の前には、青白く瞬く水晶のようなものが浮いています。


 綺麗だなぁ、なんて感慨が浮かびます。


 その水晶のようなものが、ダンジョンコアと呼ばれるものだと、誰に説明されるでもなく私には分かりました。


 同様に、私がダンジョンマスターと呼ばれる存在であることも理解します。

 たった今、目の前のダンジョンコアから生まれたのです。


 私の役目は、このコアを守ること。そして、このコアを成長させること。

 どうやら、ダンジョンに人の魂魄を喰らわせることで、コアは成長するようです。


 そして、コアを守れなければ、私は死んでしまうわけですか。

 つまり、選択肢はありませんね。……死にたくないなら、と但し書きが付きますが。


 まあ、生まれたばかりで、死を望む理由もありません。

 ならば、ダンジョンマスターとして求められた役割をこなすとしましょう。



 さてさて、生後1分にして、今後の方針は固まりましたが……。

 しかし具体的に、どのようにしてダンジョンコアを守りつつ、成長させれば良いのでしょうか?


 と、思案した矢先のことです。

 急に何かと繋がるような、いえ、繋げられようとしている感覚を覚えます。


『――やあ、誕生おめでとう、名無しのダンジョンマスター』


 私は目をぱちくりと瞬きします。

 どうやら、どなたかに私の誕生を言祝がれたようです。

 であるならば、お礼を言うべきなのでしょうか?


「……はあ、ありがとう、ございます?」

『気の抜けるようなお礼をどうも。ボクは君と同じダンジョンマスターだよ。まあ、先輩に当たるね。よろしく』

「はい。よろしくです、パイセン」

『……君は生まれたばかりなのに、どうも個性的だね』

「ありがとうございます」

「別に褒めてないよ」

「はあ……」


 どうやら、個性的、は褒め言葉ではなかったようです。

 一つ学習しましたね。


「それで、パイセンはわざわざお祝いの言葉を伝えに来たんですか?」

『んー、ダンジョンマスターランキングを見ていると、丁度生まれたてが表示されたものだから、興味を覚えてね』

「ダンジョンマスターランキング?」

『そういうものがある。見方は……教えられずとも分かるだろ?』


 パイセンの言う通りです。教えられずとも、私はそれの見方が分かります。


 脳裏にランキングが表示されました。

 そこには、ダンジョンマスターの名前と、保有DP《ダンジョンポイント》、稼働日数が表示され、上からDPが多いマスター順にランキング付けされ並べられています。


 私はというと……ありました。ランキングのドベタです。


 87位 マスター名:名無し DP:1000P 稼働日数:3分


「ダンジョンマスターは全員で87体なのですか?」

『そう、世界中を見渡して87体。結構希少な存在でね。君は、5年ぶりに新生した我々の同胞だよ』


 私はコテンと小首を傾げます。


「私の次に稼働日数が短いのは……86位の【腐乱する徘徊者】さんで、42年10カ月のようですが?」

『あー、ゾンビダンジョン以降に生まれたマスターのダンジョンは、軒並み人間に踏破されたよ』

「何ですと?」


 人間に踏破された。それはつまり、ダンジョンコアを奪われ滅びたということです。


 86位の【腐乱する徘徊者】さん以降、何体のマスターが生まれたのか知りませんが……。


 私が5年ぶりに生まれた、ということから、仮に5年周期くらいでマスターが生まれるとするならば、約7体ほどのマスターがお亡くなりになったことに。


『生まれたばかりのマスターは、保有DPが少ないからね、上手くダンジョンを運営しないと、簡単に踏破されてしまう。まずは五十年。それが一つの節目かな? それより稼働日数の短いマスターのダンジョンは、生存確率が極めて低いのが事実だ』

「はあ、それはそれは……」

『……きちんと危機感を覚えているかい? 折角新生した同胞が、すぐに死んでしまわないよう、忠告に来たんだよ、ボクは』

「ですか。なら、アドバイスプリーズです」

『君は本当に……』


 ハア、と溜息を吐かれてしまいました。解せぬ。


『ダンジョンマスターには、各々属性がある。例えば、ゾンビダンジョンのマスターなら、『不死』だ。DPを使用して、アンデッド系の魔物をクリエイトしたりできる』

「属性、ですか」

『君の属性は何だい?』

「私の属性は……『石』のようですね」

「石? ふーん……ぱっとしないな」


 最後の方はボソリと呟いていましたが、バッチリ聞こえていますよ、パイセン。

 もう、失礼なパイセンだなー。


『ともかく、『属性』に応じた魔物なり、宝物なりを、DPを使用してクリエイトするんだ。初期DPは1000しかない。安易に使用してはいけないよ。これをどう使うかで、君の命運を左右すると言っても過言ではない。よくよく考えることだ』

「考える……」

『うん。それがボクにできるアドバイスさ。では、健闘を祈る』


 パイセンはそう言うと、一方的に繋がりを切断されました。


「DPをよく考えて使う、ですか……」


 DP《ダンジョンポイント》とは、ダンジョンコアが内包する力そのものです。

 これを貯めることで、コアが成長するわけですね。

 そしてDPを取得する方法こそが、ダンジョンに人を喰わせること。


 ただ、このDP、貯めるだけでなく、使う必要もあるのです。

 というのも、人をダンジョン内に誘き寄せる宝物のクリエイトや、人をダンジョン内で殺すための魔物のクリエイトにDPを消費するからです。


 いかに効率よく人を喰らうか。

 その手段の構築の為に、DPを消費する。むーだけど、そのDPが最初は少ない、ということのようです。

 つまりそれこそが、生まれたてのダンジョンが簡単に踏破される理由なのでしょう。


 だからこそ、よく考えなければならない。ですか。


 ふむん、何はともあれ、どんなものをクリエイトできるか見てみましょう。


 えーと、『石』属性である私は……。

 ふむ、やたらゴーレム系の魔物が多いですね。いわゆるストーンゴーレム。


 ストーンゴーレムの特徴は、というと、これも自然と頭の中に浮かんできます。


 ストーンゴーレムは、鉱石の種類によって、硬度などが変わるようですが。

 基本頑丈な魔物です。それが長所みたいですねー。

 短所は鈍重であること、ですか。


 ちなみに、DP1000以内でクリエイトできるストーンゴーレムは……。


 ストーンゴーレム 50P

 アイアンストーンゴレーム 300P


 この二種だけのようです。


 むむむ……クリエイト可能とはいえ、アイアンストーンゴレームの300Pは厳しいです。

 なら、現実的なのは、ただのストーンゴーレムを量産することですが……。


 私の中にストーンゴーレムの情報が浮かび上がってきます。


 成人男性と同じくらいの大きさで、極めて鈍重。人間が油断しているか、奇襲でもなければ、まず簡単に攻撃をかわされてしまうくらい、鈍重。

 反面、ゴーレムらしく固くはあります。岩なので固い。でも、タダの岩です。


 剣では、達人でもないと一刀両断できませんが。

 しかし、槌やハンマーを持ち出せば、成人男性なら一発、二発撃ち込むだけで、倒せてしまうみたいです。


 ……見えますね。ヒットアンドアウェイで、簡単に倒される光景が。


 なら、物量作戦は?

 狭い所に人間を誘い込み、そこにゴーレムたちを方々からけしかける。

 これなら、勝算があるように見えます。


 しかし……人間も身動きが取れにくい狭い空間が危険なことくらい百も承知なのでは?

 ダンジョンに挑むのは、それを生業とする冒険者という者たち。その道のプロです。

 簡単に誘い込めると思うのは、楽観的に過ぎないでしょうか?



 ……あれ? もしかして私、早くも詰みました?

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