えーと、詰みました、私?
あまりに難解な初期設定に参ってしまいます。
むー、酷い、これは酷いですよ。腐乱(略)さん以降の、直近のマスターたちが全滅しているのも、さもありなん。いや、ホント。
「……ざけんな、クソゲーかよ」
ケフン、ケフン! おっとっと、少々口が悪くなってしまいましたね。
でもそれもこれも、酷すぎる初期設定のせいなのですよー。
さて、現実逃避はこのくらいにして。何とか打開策を模索せねばなりません。
魔物のクリエイトは一旦置いておいて、他のものも見ていきましょう。
DPで出来ることは、魔物のクリエイトの他に、宝物のクリエイト、これはパイセンの話の中にも出てきましたね。
それ以外だと、スキルの取得と、ダンジョン施設の拡張、ですか……。
スキルの取得は、私、ダンジョンマスターという個体が、有用なスキルを取得できるようです。
因みに、1000Pで取得できるスキルは一つだけ。たった一つだけ。
メタモルフォーゼ(人族) 800P
人の姿に変身できるスキルのようです。
ダンジョンにとって、人との関係は切っても切れぬもの。
故に、このスキルは属性関係なく、全てのマスターが取得可能なようですね。
魔物の姿よりも、人の姿の方が人間に警戒されないのは、言うまでもありません。
なら、人の姿で油断を誘って奇襲するなり、あるいは、もし人と交渉事を行う気があるなら、人の姿を取れるのは大きいでしょう。
もっとも、これは初期段階で取るようなスキルとも思えません。後回しですかね。
……えっ? 人の姿でないなら、今はどんな姿をしているか? …………愛らしい姿ですよ?
ゴホン! ダンジョン施設の拡張……これは、DPを消費することで、ダンジョンを広げたり、階層を増やしたり、地形や環境を変えたり、罠なんかを設置したりできるようです。
ですが、もう予想していたことですが、1000P以内で設置できるような罠などにパッとしたものはありません。……オワタ。
私は惰性でクリエイトできる宝物の一覧も見ていきます。
宝物は、人間を誘い込む撒き餌であって、人間を撃退する手段ではありません。見ても意味ないんですけどねー。
えー、なになに、金貨、銀貨、銅貨? 人間の貨幣ですか。分かりやすい撒き餌ですね。これも、属性関係なく全てのマスターがクリエイトできるようです。
貨幣以外にも、黒曜石のナイフとか、武器関係などがずらずらずらと。……ん?
クリエイトできる宝物の中に、宝石、というものがあります。
どうもこれは、『石』属性由来の宝物のようですが……。
宝石……生まれながらに元々備わった知識によれば、人が己が身を飾りたてる装飾品の類で、とっても高価なものだとか。
「はあ……」
私は自らの能力を行使して、手の平の中に一粒の宝石をクリエイトします。使用したDPは200P。
実は、既に諦めが入って、やぶれかぶれなので、躊躇なく貴重なDPを消費しました。
私は、その宝石を手の平に転がしながら、まじまじと見やります。
……石ころなんかで、自分を飾り立てるなんて、人間の考えは理解できそうにありません。
そして冒険者は、冒険者は、宝物を目当てに、己が命すらチップにして、ダンジョンに挑むのでしょう?
「こーんな石ころなんかの為に、自分の命を懸けられるの? ホント、理解できない」
私はぼそりと呟く。自分の命は、何より大切では? それを懸けてでも、欲する? 理解不能、理解不能、理解不能……。
理解不能、理解不能、他人の命ならいざしらず……んん!?
待て、待て! ああ、いいえ。待つです、待つです! なんか引っ掛かりましたよ。もちつけ、私! 自暴自棄になるのいくない!
えー、宝物を手に入れるためなら、人間は自分の命すら懸けられるのですよね? なら、なら! ……他人の命なら?
私は残る800P全て消費して、メタモルフォーゼ(人族)を取得します。そして早速、人の姿に変身します。
さて、全てのDPを消費しました。もう後戻りできません。今しがた思いついたアイデアに私の運命を託すことになりました。
でもきっと……! 人が、私の想像通りに動く生き物なら……!
思わず口の端が吊り上ります。自制するのが困難ですねー。自制する気もありませんが。
生まれて初めて、とーっても愉快な気分に浸っています。
クックッ……とかすかな笑い声すら漏らしてしまうではないですか!
正に悪巧みしています、と言わんばかりの酷薄な笑みを浮かべていた私ですが、はたとあることに思い当たり、笑みを引っ込めます。
「そうだ。自分の名前を付けますか」
いつまでも、名無しではねえ。
ダンジョンマスターは、自分の名前――ひいては、自分のダンジョンの名前を、自分で付けるものなのです。ちなみに変更はいつでも可。
私は当面名乗ることになるであろう、名前を付けました。
ダンジョンランキングの最底辺に、その名が反映されます。
――【石ころダンジョン@人間と共生中】、と。