同行を求めた三人組、男一人女二人の冒険者パーティは、快く申し出を受けてくれました。駅所で暫し休憩した後、私は三人と連れ立って街道上を歩き出しました。
歩きながら、三人組との談笑に花を咲かせます。
少年剣士のジーク、短槍使いの少女セシルが今現在15歳。神官少女のマーレが少し下で13歳なのだとか。
私と、見た目の年齢、背格好が近いのは、短槍使いの少女の方かしら?
「はぐれてしまったというお連れの方に早く合流出来たらいいですね」
神官少女がそのように言ってきたので、私は短槍使いの少女を観察していた視線を、神官少女の方に向けます。
「そう……ですね。きっと兄も、シュシュリに向かっているでしょうから、あちらで合流出来ると思うのですが」
私は俯きながら、若干暗い声音で話します。
「何、心配するな! お兄さんもきっと見つかるさ! 俺たちもいっしょに探してやるからさ、なあ?」
「ええ。だから、きっと大丈夫よ」
少年剣士の励ましの言葉に、短槍使いの少女も続く。
「ありがとう、ございます」
礼の言葉を返しておきました。
それからは、まだシュシュリに行ったことがない者同士、シュシュリがどんな都市だろうかと、そんな話に花を咲かせたり、また別の話題に花を咲かせたりしました。
そうこうしている内に、駅所を出発してから小一時間くらいが経過したでしょうか?
私たちはすっかり打ち解けました。
傍目から見れば、まるで始めから四人組のパーティであったかのように見えるかもしれません。
ふふ、こんなにも仲良くなれて、とーっても素晴らしいことです、ね。
私はさりげなく街道の前後を確認しました。
ぱっと見える範囲に、私たち以外の人はいません。……やりますか。
「あら? あれは何でしょう?」
私は適当な方向を指差して見せます。三人の冒険者さんたちの視線がそちらに移りました。
「んー? いったいどれのことを…ッ!?」
私は手早く人型から本来の姿に戻りますと、真っ先に一番手強そうな少年剣士の頭を噛み砕きました。
頭部の半ばから上が失われ、そこからびゅーびゅーと噴水のように血が噴き出しています。……噴水見たことありませんけど。
突然のスプラッタに、残る女性陣は目を見開いたまま硬直しています。目の前の光景を、まだ頭できちんと処理できていないご様子。
その隙を見逃す理由もありません。
私は次に手強そうな短槍使いの少女の胸へと貫手を放ちます。
私の五指には、それはそれは鋭利な爪が生えているので、胸を貫くことも出来てしまうのです。
胸を刺し貫かれる直前になって、短槍使いの少女は回避行動を取ろうとしますが、いささか遅きに失しましたね。
ずぶりと、私の右手が少女の胸に埋まります。
「ゴボッ……」
胸を貫かれた少女は、口から血を吐き出すと、力なくくずおれていきます。
「い、イヤァァアアアアアアアア……!!!!」
神官少女が金切り声を上げます。耳が痛いですね。これは、音響攻撃の類なのでしょうか?
しかし、ダメージは軽微です。もたもたしていると、誰かが街道上に現れるかもしれません。手早く仕留めてしまいましょう。
私はダッと地を蹴ると、瞬く間に神官少女との距離を詰めます。
神官少女は咄嗟に手に持つロッドを振るってきます。……痛い。頭に当たりました。でも、その直後に私の爪が神官少女の柔肌を引き裂きました。
間違いなく致命傷です。……ですよね?
……確信を持てなかったので、止めの一撃を見舞いました。
私はここで、私が作り出した惨状を見回します。……三人ともぴくりとも動きません。ただの屍のようです。
ですが、これで終わりではありません。
私は三体の死体を、ずるずると街道上を真横に外れながら引きずっていきます。
街道から死角になる位置まで引きずると、一旦そこに死体を放置して、殺害現場に戻ります。
ぶちまけてしまった血に、この後ここを通りかかった人が気付かぬよう、丹念に隠滅します。
んしょ、んしょ、んしょ…………何ということでしょう! あれほど凄惨な殺害現場が、普通の街道の姿を取り戻しました!
グッジョブ! 良い仕事です、私。
そのように自画自賛しますと、死体の下に戻ります。そうして、短槍使いと神官、二人の少女の死体を見比べます。
まずは、より私と年恰好の近い短槍使いの少女をと、その死体の傍に膝付き、ごそごそと手荷物や服装の中を漁りました。
……色々なものが出てきますが、身分証らしきものはこれでしょうか?
私は手の平に収まるサイズの金属プレートを陽にかざしてみます。
表? きっと表、表には、セシルという名前や性別、年齢、戦士というジョブ。そして9等級冒険者であることが記されています。
9等級というのは、どの程度のランクなのでしょうか? まあ多分、下から数えた方が早いのでしょうけど。
プレートを裏返します。そこには、冒険者ギルド・パール支部の文字と、何やら紋章が描かれています。……これは、身分証の発行元、ですかね? 多分。
念のため、残る二人の死体も漁ると、やはり同様の金属プレートが出てきました。
やはり、これが身分証と見てよいでしょう。
私は満足げに頷くと、死体を一体一体食べていきます。
腹の中に収める、これぞ完璧な死体処理法でしょう。ばれることはありません。
服やら、私には無用の荷物などは、穴を掘って埋めてしまいました。
「げっぷ……なんて言ってみますが、別に満腹感は感じませんねえ」
死体三体分なぞ、明らかに私のお腹に収まらない体積なのに、普通に胃袋に収まりました。その上、満腹感を覚えるでもなく、まだまだいけそうです。
「私の胃袋は……宇宙だ」
なんとなくかっこよさ気な決め台詞を思いついたので口にしました。
さて、冗談はこのくらいにして、改めてシュシュリ市に向かうとしましょう。
冒険者セシルとして、潜入作戦開始です!