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002 唯一の光、信じていた人

 君は、誰かを「心から信じた」経験があるかい?


 僕にとって、それは彼女だった。


 あの頃の僕にとって、彼女の存在は、まるで太陽のようだった。いや、むしろ太陽という言葉では生温い。彼女は、僕にとっての「神様」だった。


 朝の教室に彼女の姿があるだけで、世界が少しだけ明るくなるような気がした。彼女が話しかけてくれた日は、それだけで心が救われた。どんなに眠くても、彼女の言葉一つで、全てが報われた気になった。


 彼女は、僕の幼馴染だった。


 昔から一緒に遊んでいた。駄菓子屋に寄って、じゃんけんでどっちが先にアイスを買うか決めたり、公園のブランコを取り合ったり、そんな小さな思い出が積み重なっていた。


 けれど、僕は次第に孤独になり、彼女は周囲から注目される存在になっていった。それでも彼女は変わらなかった。僕を見捨てることも、距離を置くこともせず、昔と同じように笑って話しかけてくれた。


 放課後、一緒にコンビニに行ったり、ゲームセンターに寄ったり。カラオケで、僕があまり得意でない歌を披露すると、笑いながらも拍手してくれた。


 そんな彼女がいたからこそ、僕はなんとか学校へ通えていた。


 それはまるで、世界に一人だけ「味方」がいるかのような感覚だった。


 ……他の誰にどう思われようと関係ない。僕には彼女がいる。そう信じていた。


 だから、きっと僕は――


 彼女のことを、いつの間にか、特別な感情で見てしまっていたのだろう。


 恋愛感情かどうか、それは今でも分からない。けれど彼女が誰かと笑っているだけで、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚があったのは事実だ。


 彼女が僕に優しくしてくれるたびに、「僕だけに向けられたものだ」と錯覚した。


 きっと、どこかで思っていたのだ。


 このまま彼女と一緒にいられるなら、少しだけ人生は悪くないのかもしれない、と。


 でも、それは甘い幻想だった。


 彼女は、僕を裏切った。


 最初はほんの小さな違和感だった。廊下ですれ違っても目を合わせない。話しかけてもどこか上の空で、すぐに別の子の方へ行ってしまう。


 でも、僕はそれでも信じた。忙しいのかな、疲れてるのかな、そんなふうに、自分に都合の良い理由をいくらでも並べて。


 けれど、ある日、決定的な瞬間が来た。


 教室の隅、僕がいつも座る席で、本を読んでいた時だった。ふと顔を上げると、彼女と数人のクラスメートが僕を指差して笑っていた。


 その瞬間、僕は知った。


 ああ、終わったんだ、と。


 あんなに信じていたのに。僕の心の支えだったのに。


 彼女は、僕を裏切った。そして、何より恐ろしかったのは――


 彼女が、それを「悪びれる様子もなく」、あっさりと受け入れていたことだった。


 笑っていたんだ。僕のことを、嗤っていた。


 それを見た瞬間、僕の中の何かが静かに、確実に、壊れていった。


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