その日から、世界の色が少しずつ失われていった。
朝の光は灰色にくすみ、風の音は遠く、耳に届かなくなった。
教室に満ちる笑い声が、まるで別世界の雑音のように響いた。いや、それどころか、あれは「騒音」だった。何をそんなに笑えるのだろう。何がそんなに楽しいのだろう。そんな感情さえ湧いてこなくなるくらいに、僕は心を冷たく凍らせていた。
信じていたものに裏切られるというのは、こういうことなのか。
心の奥にあった「最後の砦」が、あまりにもあっさりと崩れていった。
あのとき、僕は確かに彼女を信じていた。信じることで自分を保っていた。世界は冷たくても、彼女だけは違う――そんなふうに。
けれど、現実は残酷だった。
ある日、僕の机の中に紙が入っていた。クシャクシャに丸められた、破られたノートの切れ端。そこに書かれていたのは、短く、冷たい、そして致命的な言葉だった。
「お前、まだ彼女のこと信じてんの?キモ。」
それを見た瞬間、全身の血の気が引いていくのを感じた。
誰が書いたのか、分からなかった。でも、文字の癖は、見覚えがあった。
……彼女だった。
信じた先にあったのは、「裏切り」だけじゃなかった。
それは「拒絶」であり、「否定」であり、「嘲笑」だった。
あの瞬間、僕はすべてを悟った。
僕の価値なんて、最初から無かったのだ。
信じていたのは、僕の思い込みだった。
あの優しさも、笑顔も、全てはただの「義務感」か「気まぐれ」だったのかもしれない。あるいは、最初から僕を見下しながら、軽い同情で接していただけだったのかもしれない。
どうしてそこまでして、笑う必要があるんだろう。
僕はただ、普通に過ごしたかっただけなのに。
友達が欲しいとか、人気者になりたいとか、そんなことじゃない。
たった一人、味方がいてくれたら、それでよかった。
それすらも、叶わなかった。
……いや、違う。僕は、自分の手で、それを壊してしまったのだ。
信じた結果、僕は世界から「孤立」した。
誰とも目を合わせなくなり、誰の声にも応えなくなった。
教室の隅、誰も座らない窓際の席で、ただ一人、ぼんやりと外を見ていた。
青空がどれだけ澄んでいても、もう何も感じなかった。
鳥が飛んでいようと、風が気持ちよく吹いていようと、心は凪いだ湖のように、ぴくりとも動かなかった。
唯一の感情は、「空虚」だけ。
誰も信じないと決めた。
そうすれば、傷つかない。そう思った。
でも、その代わりに、何も得られないことにも気づいていた。
それでも、僕はそれでよかった。もう、誰かに踏みにじられるくらいなら。
「誰も信じない」
それが僕の、たった一つの、絶望の中の信条になった。
ーーそう、信じた先にあるものは、絶望でしかないんだ。