疑問をそのままにすることはできない。
食事を済ませ、お風呂には予防接種のせいで入れなかったので体を拭き、歯を磨いても頭の中は『ポメラニアン』という単語で埋め尽くされていた。
私は、犬面人のはず。
だが本当は、ポメラニアンなのかもしれない。
「今日は早めに寝ましょうかポチ」
「承知した楓殿。おやすみである」
楓殿が寝た後、私は楓殿の使っているパソコンを開き、調べ始める。
調べれば調べるほど、出てくるポメの画像が私に似ていた。
「ふむ、私が似ているのであるな。犬面人は都市伝説ではなくポメと人間のハーフ?」
私は質問サイトで『当方、顔がポメラニアン、体は人間です。何か知っていますか?』と質問開始。
返答は『お前じゃい!』『どこの漫画の設定?』という私が求めるモノではなかった。
だが一つだけ、興味を引く答えがあった。
『顔が犬で体が人? 逆なら聞いたことあるぞ、人面犬って都市伝説』
「ふむ、人面犬か」
私は、お仲間(なのかわからないが)の人外について深く知らない。
何分生まれてすぐ楓殿に拾われたので、都市伝説の類に遭遇したことがないのである。
調べると、人面犬は確かに私と真逆の存在だった。
顔が人間で、体が犬。
都会の片隅でゴミを漁って過ごしているらしい。
声を掛けると「ほっといてくれ」と鳴くのだとか。
高速道路で追い抜かした車を事故に合わせたり、危険な個体もいるようだ。
都会の片隅で一人ゴミを漁るのを思い浮かべてみる。
楓殿の優しい微笑みが脳裏をよぎった。
「……私はほうっておかれるのは嫌であるな」
しかし、私は犬面人。今のところ何故生まれたかもわからぬ存在。
更に生まれた疑問が解決しないのは嫌である。
翌朝。
「楓殿、私も学校に行きたいのである」
真相を確かめるべく私は決意した。
「え。学校に?」
既に身支度を整え、登校するだけの楓殿は首を傾げた。
「うむ」
「どうしてですの?」
私は印刷しておいた用紙を楓殿に手渡す。
「このお方に会いたいのである」
「トイレの花子さん? うわ、色々と調べたのですね」
「そう。花子さんだ。都市伝説の大御所である。私はこのお方と話をして、自身がポメラニアンか都市伝説か、それとも人間かを判断したいのである」
「でもポチ、花子さんは忙しくてお昼休みしか」
楓殿がしまったという顔をした。
「楓殿。もしや既に花子さんと知り合いか? それならばぜひ、会わせてほしい!」
尻尾を振る。
うかつ。楓殿は見えないものが見えるのだ。花子さんと関わっていてもおかしくはない。
私の尻尾を物欲しげに眺めながら楓殿は首を横に振った。
「だ、だめですわ! 学校にはつれていけません!」
「何故だ楓殿」
「そ、それは」
楓殿は珍しく視線を泳がせていた。
こういう時人間は何か己に不都合なことがあるらしい。
だが許せ、楓殿。
「くーん」
私はポメラニアンらしくお座りし、鳴いた。
楓殿が好きなワンちゃんらしい行動である。
「そ、そんな甘えた声をだしても、私は、屈しませんわ! 待て! いってきますわぁ!」
楓殿は迷いを断ち切るように勢いよく玄関を開け、出て行った。
「ふむ、ダメであるか。おや?」
弁当箱が取り残されていた。
「ここが高校」
楓殿の匂いをたどって来たが、時間がかかった。
晴れなのに傘をさしている頭無し人外の頭を探したり、くねくねしている白い何かを田んぼまで連れて行ったり。
道中大変であった。
だが、それもこれも楓殿のため。
私は楓殿に弁当を届けに来ただけである。
「うむ。これは事故である。お弁当を届けた帰りに少し花子さんに会うくらい楓殿も許してくれるはずである」
もうお昼だ。
早く楓殿のところへ向かわねば。