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愛され薬師の請われた帰郷~毒家族は援助を求めてきましたが、ざまぁ自滅するようです~
愛され薬師の請われた帰郷~毒家族は援助を求めてきましたが、ざまぁ自滅するようです~
イチモンジ・ルル
異世界ファンタジー内政・領地経営
2025年06月12日
公開日
7,927字
完結済
「ところで……私、一体なにを『許される』というのかしら?」 王室御用達薬師として名を成した主人公カリヨンのもとに、「許してやる」の手紙が届く。 かつて自分を追い出した父たちが、今さら援助を求めてきたのだ。 ──6年前。 伯爵令嬢だった主人公カリヨンは家出した。 自分の真似をする妹に地位を奪われ、誇りも愛も踏みにじられた少女が持ち出したのは、母の形見と秘密のノートだけ。 カリヨンは静かに受けて立つ。 隣には、彼女の光を信じて笑う男がいた。 鏡に映る自分を、好きになれるようでありたい。 これは、虐げられた少女が、美しく、優しく、そして誇り高く成長する物語。 ネオページ初投稿です。 他サイトにも投稿しています。 八千字弱。全10話(文字数少なめ)。 予約投稿の練習も兼ねて、1日1~3回投稿し、2025年6月17日(火曜日)完結予定です。

第1話 社長執務室の独白

「色々あったが、許してやる。すぐ帰ってこい、ですか……」


 カリヨンは手紙を読み終えると、ポイと机に投げた。

 紙は「未処理」の箱の中で折り目に沿って丸まる。まるで過去がまだ、未練がましくまとわりついてくるように。


 グロリハレル伯爵家の紋章入りの白い便箋は上質だ。

 しかし、管理する者の不手際を示すように端はかすかに黄ばんでいた。

 綴られた文字は拙く乱れていて、威厳などかけらもない。


 まるで、かつてあの家でカリヨンがどう扱われていたかを、静かに物語っているようだった。


 不快な気持ちを追い払うように、カリヨンは背を反らせて、大きく伸びをする。

 胸の奥から苦い笑いが漏れた。


 「『許してやる』……どの口がそんなことを言うのかしら」


 低く吐き捨てる声に、氷の棘が混じる。

 視線を天井に向け、瞼を閉じた瞬間……6年前。あの家を出た、決別の夜が蘇る。


 ぼろ布のような仕事着を着ていた。

 母の形見のイヤリングとネックレスは長く着けていなかったが、 「切り札」の書類と一緒に、ひっそりと隠していた。


 古びた姿見の鏡は、丁寧に掃除されていたが、傷で曇っていた。

 だが映る顔は、泣いていなかった。ただ静かに、確かに……決別の意志を湛えていた。


 寂しかった。悔しかった。怖かった。けれど、泣かなかった。


 母の形見に恥じない力を宿した少女。

 それが、本当の自分だった。


 ***


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