「色々あったが、許してやる。すぐ帰ってこい、ですか……」
カリヨンは手紙を読み終えると、ポイと机に投げた。
紙は「未処理」の箱の中で折り目に沿って丸まる。まるで過去がまだ、未練がましくまとわりついてくるように。
グロリハレル伯爵家の紋章入りの白い便箋は上質だ。
しかし、管理する者の不手際を示すように端はかすかに黄ばんでいた。
綴られた文字は拙く乱れていて、威厳などかけらもない。
まるで、かつてあの家でカリヨンがどう扱われていたかを、静かに物語っているようだった。
不快な気持ちを追い払うように、カリヨンは背を反らせて、大きく伸びをする。
胸の奥から苦い笑いが漏れた。
「『許してやる』……どの口がそんなことを言うのかしら」
低く吐き捨てる声に、氷の棘が混じる。
視線を天井に向け、瞼を閉じた瞬間……6年前。あの家を出た、決別の夜が蘇る。
ぼろ布のような仕事着を着ていた。
母の形見のイヤリングとネックレスは長く着けていなかったが、 「切り札」の書類と一緒に、ひっそりと隠していた。
古びた姿見の鏡は、丁寧に掃除されていたが、傷で曇っていた。
だが映る顔は、泣いていなかった。ただ静かに、確かに……決別の意志を湛えていた。
寂しかった。悔しかった。怖かった。けれど、泣かなかった。
母の形見に恥じない力を宿した少女。
それが、本当の自分だった。
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