三条大橋の歴史はとても古く、最初に造営されたのは室町時代といわれている。
その後、戦国時代の末期には、豊臣秀吉が北条氏征伐を前に、臣下の増田長盛に命じて三条大橋の修復・架橋を行わせた。
三条大橋の周辺でも、特に歴史的に有名なのが「三条河原の処刑場」である。
かつて【三条河原】と呼ばれたこの地では、処刑やその後の晒し首が行われていた。
ここでは、歴史に名を残すさまざまな人物が処刑、あるいは晒し首にされた。
中でも有名なのが、朝廷に対立し、討たれた後に晒し首とされたオカルト界のレジェンド──現代でも「日本三大怨霊」の一人とされる
他にも、安土桃山時代に名を馳せた大盗賊で、現代ではゲームキャラにもなった
さらに、天下人・秀吉の怒りを買い、謀反の罪を着せられた
名のある武将・石田三成、新選組局長・近藤勇も、晒し首となったのはこの三条河原だった。
これほどの歴史が刻まれた場所だが、現代にその事実を知る人がどれほどいるだろうか。
今となっては、そんな物騒なイメージは薄れ、石碑だけが歴史を伝えている。観光地として賑わう今の姿からは想像もつかない。
そして──夏の三条大橋といえば、やはりこれだろう。
鴨川沿いに並ぶ
五条から二条にかけて続くこのエリアでは、川を眺めながら、鴨川鮎や季節の天ぷら、京豆腐などが楽しめる。
日が暮れ始めると、納涼床にぶら下げられた
川辺では、カップルたちが“等間隔”に座るという、ある意味おなじみの光景も広がる。
──とはいえ、今は真夏の昼間。さすがにカップルの姿は見えず、観光客や散歩中の人々が歩いているだけだった。
「柿ピー、次どうする? 飲むにはまだちょっと早いやろ?」
スマホで時間を確認すると、15時32分。
空を見上げれば、太陽はまだ高く、容赦のない日差しが降り注いでいた。
「せやなぁ……とりあえず、河原町の商店街まで歩いてみよか。喉かわいたけどな」
「ええな。どっか途中に立ち飲み屋とか、ええとこないやろか」
「それもアリやなぁ。新しい店できてへんかなぁ」
「結局飲むんかいって話やけどな」
「せやな」
──ちなみに「柿ピー」とは、柿本司(かきもと つかさ/39歳・独身)こと、私のあだ名である。
もう20年以上呼ばれてるけど、慣れすぎてなんも感じへん。ただのつまみや。
「立ち飲み屋」のワードで少しテンションが上がり、河原町商店街へ向かって歩き出す。
三条大橋から鴨川を眺めながら歩いていると──そこで、気づいてしまった。
河原に、異様な存在が“見えて”しまったのだ。
「…………」
何も見ていない。見ていない、はず。
無理やりに視線を河原町商店街の方向にそらす。
……あれはきっと、暑さのせいで見えた幻覚。そう、きっとそう。
うんうん。さ、行こ行こ。
その時だった。
「……静夜様……」
少女の声が、頭の中に直接響いてくる。
思わず、畳んだ扇子でこめかみをペチンと叩き、ため息をついた。
「あぁ……わかってる」
ただ、それだけを口にして、足を止めた。