目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

発足式 二


 テレビの画面には、今日の天気予報が流れている。

晩夏とはいえ、最大気温は三十一度らしい。まだ猛暑日は続く。

私は、テーブルへ視線を戻し、燐へ尋ねる。


「今日の予定って、どうなってますか? 明日、発足式ですよね? 準備は問題なく進んでますか?」

燐が、スマホを取り出し確認する。準備は問題ありませんと伝えた上で、今日の予定を教えてくれる。


「本日は、午前中は各室長と室長補。そして、天網の技術責任者を含めた会議があります」

天網の技術責任者か、一体どんな人物なんやろか? 祓い屋の家系の人物らしいけど。


「午後からは、明日のリハーサルと打ち合わせ、そして制服などの支給品の受け取りです」

「そうですか、ありがとうございます」


 特に、大きな変更も無さそうなので安心する。こういった大事の前には何か起こるものだからだ。

式典での、挨拶のスピーチも準備はできている。無い頭を捻って、徹夜で考えたものだ。

支給品は、組織の正装となる制服と、作戦時に着用するスーツを模した戦衣と、霊刀が支給されるそうだ。


 その他にも、色々支給されるそうだが、まだ把握していない。あとで調べておこう。

正装の実物も先日見せてもらったが、軍服だった。これを着るのかと、ドン引きしたのは言うまでもない。

まあ、普段の活動時は戦衣なので、少しの辛抱だろう。


 一息ついた後、部屋へ戻り、再度身支度を整える。咲耶は、まだリビングでテレビを見ているようだった。

あいつは、急に現代の情報を取り入れようとし始めたが。一体、何が彼女の琴線に触れたんやろうか。

無糖の炭酸水をグラス一杯飲み干して、リビングへ降りる。


 真剣に、食い入るようにテレビを見ている咲耶へ声を掛ける。

「咲耶行くで。また帰ってから、好きなだけ見たらええし」


「そうですね」

咲耶は、少し残念そうに立ち上がり姿を消す。テレビには、今日の星占いが流れている。


 まさが神様が、星占いを見るのかと、シュールさを感じながら二人を待つ。すぐに二人は降りてきた。


「お待たせしました」

「では、行きましょか」


 三人で玄関を出る。目の前には、既に車が止まっており、宮本さんが迎えてくれる。


「統括室長、おはようございます」

「おはようございます」

こちらへ引っ越してきてから、休みの日を除き、毎朝送迎に来てくれている。


 燐が、後部座席の扉を開く、もう慣れてしまったので、躊躇なく乗り込む。

他の三人が各々乗り込み、車が発進する。


「室長、本日はどちらから向かわれますか?」

宮本さんが、本日の通勤方法を確認する。


「そうですね。今日も、車で地下出入口までお願いします」

「承知しました」


 京都御所の地下シェルターへのアクセスには、複数の方法があるそうだ。

まずひとつが、以前にも使用している林の中にある蔵からの方法。


 そしてもう一つが、車のまま地下へ向かう方法である。

京都御苑内にある管理事務所の裏手に、大型のシャッター付きガレージがあり、そこが入口になっている。

主に、物資や機器什器などの荷物の搬入口として使用されている。本来は、集団避難用の入り口なのだろう。


 こちらで降りた場合、対策室までの距離は遠くなってしまう。

だが、準備しているスタッフの方々と挨拶することができる為、こちらを最近は利用している。


 あと地下鉄からのルートもあるらしいが、詳しくは聞いていない。

車が、地下のロータリーへ到着し、私達は車を降りる。


 既に入口には、大量のダンボールや什器が積まれている。

それを、スタッフが慌ただしく仕分けし、内部へ運び込んで行く。


 フォークリフトも数台確認できた。そのダンボールの山の脇を抜けて内部へ向かう。


「今更、何故こんなに大量の荷物が運ばれているんですか?」

私が、燐へ尋ねる。準備は問題ないって言ってなかった?


「これは、おそらく式典用の什器等ですね」こんなに必要なの…?

「レンタルになるので、経費を抑える為、今日設置して明日には解体し返却するそうです」


 うちって、そうゆうとこはシビアなんやね。

「あとは、本日配給される支給品ではないしょうか、全隊員分の支給品が、一度こちらの倉庫へ搬入されると聞いています」


 どうやら支給品は、ここから各対策室へ輸送されるらしい。

明日、発足式へ出席する室長や室長補佐、分隊長は今日ここで受け取り、あとは各対策室へ輸送されるのだろう。


「なるほど、分かりました」

支給日当日に搬入とは、かなりギリギリの納品だなと少し不安になる。


「統括室長、おはようございます」

「室長、おはようございます!」


 すれ違う人達と、挨拶を交わしながら対策室を目指す。

皆が、足を止め挨拶してくれる。「おはようございます」と返す。


「そういえば、今回、功徳さんにつく室長補佐って、燐さんの親戚筋らしいですね?」

昨日、天鳳の爺さんと、自販機の前でコーヒーを飲んでいる時に聞いたのだ。


「はい、元は同じ分家で、今は巽家を名乗っています」

「やはり霊具を?」

「そうですね。彼は、弓の扱いが得意です。いい人ですよ、多分。いけ好かないとこはありますが」


 二人の間になにかあったのだろうか? あまり不仲はよろしくないし、今度改めて聞いてみよう。

新生対策室も明々後日から本格稼働。明日の発足式もあり、皆慌ただしかった。


 廊下を歩き、統括対策室の扉を開ける。

中では複数人の技術者達が、天網の最終調整や、通信設備の点検が行われている。


 自衛隊の迷彩服の服装をした人や、他の官庁の制服を着た人も複数確認できる。通信連携の確認だろう。

皆が、こちらをみやり各々頭を下げる。「皆さん、おはようございます」私も頭を下げる。


 頭を上げ、そのまま会議室へ向かう。時計を見ると招集時間の五分前となっていた。

会議室へ入る。三名の室長と、天網の技術責任者が立ち上がる。


「「統括室長、おはようございます」」月季と功徳の爺さん、そして天網の技術責任者が頭を下げる。

「静夜様、おはようございます」相変わらず睡蓮さんは様付だ。


 それぞれの室長の斜め後ろには、控えるように室長補佐が立ち、同じく頭を下げる。

「おはようございます。あとは天鳳の爺さんか……」


 しばらく待つと、招集時間ぴったりに、天鳳の爺さんが女性と共に会議室へ入ってくる。


「おはようさん、とうとう明日やな。静夜殿大丈夫か? 腹壊してへんか? 正露丸あるぞ?」

「大丈夫ですよ」能天気なのか、これがスタンスなのか、爺さんは平然と席に座る。まあもう慣れたけど。


「皆様、おはようございます。遅くなってしまい申し訳ありません」

天鳳の爺さんの後ろに控える女性が、あわあわしながら挨拶し頭を下げる。新しい室長補佐だろう。


 聞いた話、どうやら天鳳の爺さんのお孫さんらしい。恐らく相当な実力者なのだろう。

参加者も揃ったようなので始めることにする。



「では、新生鬼霊対策室の初会議を始めましょう」





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?