新生対策室発足から初めての招集会議には、十三名の人物が招集された。
統括対策室からは、私と補佐である燐と蓮葉。
それぞれの管轄対策室から、室長と室長補佐。
そして、名古屋に拠点がある鬼霊技術研究所の所長と、副所長兼研究助手が、会合に参加している。
各責任者が席につき、補佐役が後ろに控えている。
「補佐の方も、席についてください」
燐が、補佐にも着席を指示し、蓮葉と燐によって全員に議題の一覧と資料が配布される。
一通り目を通した後に、蓮葉に目で開始の合図を送る。
蓮葉が立ち上がり、会議を進行する。
「でははじめに、今回新たに任命された室長補佐及び、鬼霊技術研究所のお二方の紹介から」
蓮葉が、九州沖縄方面鬼霊対策室、室長補佐の
その合図に、蓮華が立ち上がり頭を下げる。
「皆さん、初めまして、九州沖縄方面対策室、室長補佐を拝命しました。巽蓮華です」
タイトな黒のダークスーツに身を包んだ、二〇代前半の金髪のイケメンお兄さんがそこにはいた。
彼が、燐の親戚筋にあたる男性なのだろう。燐は、一体何が気に入らないんだろう?
しかしイケメンやなぁ。ホストと言われても信じてしまいそうや。資料を見ると現在二十四歳らしい。若いなぁ。
「巽家は、四輝院家から分家し、まだまだ若輩の一族ではありますが、必ず御役に立ってみせます。よろしくお願い致します」
しっかりした挨拶をして、着席した。いい子そうやけどな。
「では、次」蓮葉が、東北北海道方面対策室長補佐を見やる。
「はいっ!」女性が、元気よく返事し立ち上がる。
「この度、東北北海道方面鬼霊対策室、室長補佐を拝命しました。
こちらも、お若いお嬢さんやな。年齢は二十三歳。ボーイッシュな雰囲気の女性。
「戦闘には自信があります! よろしくお願いします!」
桐生家は、東北の戦国武将の一族だったが、祓い屋に転向した珍しい一族である。
当主の桐生艮は、相当な豪傑と銀閣の爺さんから聞いたことがある。
蓮葉が次はと、月季の隣に座る壮年の男性を見て頷く。男性がゆっくりと立ち上がる。
「皆様、お初にお目にかかります。関東方面鬼霊対策室、室長補佐を拝命致しました。
今度は、逆に壮年の男性。資料を見ると、室長である月季の、師にあたる人物らしい。
只者ではないのは、一目ですぐに理解した。かなり上位の、当主レベルの実力者やろうな。
「歳は取りましたが、まだまだ現役でございます。ご期待ください」
一礼し、ゆっくり席につく。堂上家も本気を出してきたのだろう。出し惜しみしている状況じゃないからな。
蓮葉が、室長補佐の最後の一人となる女性を見やる。緊張しているのか、ぎごちない動きで立ち上がる。
「み…皆様……。は、初めまして、関西方面対策室、室長補佐を拝命しました。
緊張している様子で、挨拶を済ませ早々に席に着く。人見知りなのだろうか?
資料をみると、やはり天鳳の爺さんのお孫さんらしい。年齢は二十五歳とある。
「では最後に、鬼霊技術研究所のお二方お願いします」
白衣を着た二人の女性が、立ち上がる。
「鬼霊技術研究所の所長をしております、柊栞
「助手の
鬼霊技術研究所とは、三年前に防衛省と愛宕日ノ舞大社の共同で設立された研究機関だ。
所長である柊栞は、天網の技術責任者である。
そして、今回支給される予定となっている戦衣と霊刀の開発者でもある。
当人も祓い屋の家系ではあるが、前線には出ずに、技術開発に生きがいを得ているそうだ。
助手の柊花絵は双子の妹らしい。確かによく似ていた。
「続いて、各対策室の現在の準備状況について、室長補佐は報告をお願いします」
各々の室長補佐が順に、報告を行う。
どこも準備状況に、問題は無いとのことだった。
九州沖縄方面鬼霊対策室は、福岡県にある、陸上自衛隊福岡駐屯地を拠点にする事となった。
そして、東北北海道方面鬼霊対策室は、青森県にある、陸上自衛隊青森駐屯地を拠点としている。
関東方面鬼霊対策室は、新宿御苑の地下に施設があり、そちらにも天網が設置されている。
準備状況に問題はないようなので、次の議題へ進むことにした。
「では柊所長、今後の天網の運用について説明をお願いします」
蓮葉が、柊所長へ説明を求める。
「はい」柊所長によって、天網の概要から説明が始まる。
資料に沿って一連の説明が終了し、質疑応答へ移る事となった。
「改めてお聞きしますが、天網の設置を京都と東京に分けたのは、探索範囲が広すぎる故に、ということでよろしいでしょうか?」
天堂小黒が、柊所長へ質問する。
「そうですね、検証した結果、どうしても出力できる容量や、アンテナの指向性の問題で分ける必要がありました」
小黒が続けて質問する。
「統括室長は、主に京都のこちらのフロアを拠点にされると伺っています」小黒が私を見る。
「はい。ですが、週に何度かは、そちらへ出向くつもりです」私が答える。
その答えに小黒が頷き、再び柊所長へ向き直り質問する。
「東京の天網の運用としては、どのようにお考えなのでしょうか?」
想定されている質問なのだろう、すぐに返答が返ってくる。
「当面は統括室長に、週に二日ほどは関東方面鬼霊対策室へ出向いて頂く予定です」
それは、以前から聞いており、私も了承している。
「それ以外は、以前からの計画通りの運用方法として考えていた、月季殿に動かして頂きます」
本来、私が天鳳の爺さんに捕まらなければ、統括対策室は存在しなかった。
京都の天網は天鳳の爺さん、東京の天網は月季が動かす予定であったのだ。
「現在、開発中システムの実用化後は、京都の天網から東京の天網へ霊相を送ることが可能になります」
実用化が叶えば、私が京都の天網から、東京の天網を介して探索することが可能になるそうだ。
それが可能になれば、緊急時の動きも取りやすくなる。
「そちらの目処は、立っているのでしょうか?」
「今年中には、実用化のテストを開始したいと思っています」
「わかりました。ありがとうございます」
小黒が、礼を伝え着席する。
「私からも質問いいですか?」私が挙手をする。
「統括室長、どうぞ」
「天網では、どの階位までの鬼が探索できるんでしょうか?」
鬼の階位は、現在大社で確認しているのは鬼、大鬼、獄鬼、夜叉、羅刹、童子である。
「そうですね。システムの設計上では、童子まで探索可能にはなっています」
おお、そうなのか羅刹や童子とか見たことないけど。
「しかし、夜叉より上位になると、自らの意思で霊相を消すことが可能です。その為、天網の使用者にもよりますが、望んだ通りの結果が見込めるかは未知数です」
柊所長は、そもそも夜叉から上位の鬼では、まだテストできていませんしね……とため息をつく。
その後、いくつかの質疑応答を経て天網の話は一度終了とした。