東北地方へ天網での探索をしたいが、関西からではできない。
どうするべきか…こういった状況こそ、天網が役に立つときやろ。
本来であれば、月季に継続的に天網で探索してもらいたい。
だが、おそらく鬼の数からして、とんでもなく霊相をもっていかれる可能性が高い。
それに、月季の探索では、まだ情報の正確性が担保できていない。
しばらく考えたあと、デスクの電話をとり、鬼霊技術研究所の所長への直通番号へ発信する。
「はい、鬼霊技術研究所 柊花絵です」どうやら、双子の妹が出たようだ。
「静夜です。所長はいらっしゃいますか?」
「統括室長、お疲れ様です。どういったご用件でしょう?」
「早急に、確認したいことがあります」
異常事態であるのは、私の声色でわかったのだろう。
「わかりました。お待ち下さいっ」急ぎ、姉の栞へ繋がれる。
「はい。栞です。統括室長どうされましたか?」私は、現在の状況を簡潔に説明する。
睡蓮室長が岩手の上空で十数体の大鬼を発見した事。
その為、異常事態と判断し、早急に調査を開始する事。
だが、こちらからでは、岩手へ天網が使えない事。
「なるほど、京都から岩手を探索できないか? ということですね?」理解が早くて本当に助かる。
「残念ですが、静夜様が直接東京へ向かわれた方が早いですね」やっぱりか……
「アンテナの指向性を変更することは可能ですが、チューニングに途方も無い時間がかかります」
関西のアンテナの指向性を、調整する事で可能ではある。
だが、霊相の出力量などのチューニングができていない為、使い物にならないとの事だった。
まぁ、そもそもだからこそ二箇所に分けたんやもんな。愚問やったな。
「わかりました。では、今から東京に向かいます。そちらでも準備をお願いします」
「了解です。東北地方を重点とした設定を行いますので、四十五分ください」
「準備が完了したら、関東対策室の室長に連絡してください」
一度、私が到着する前に、月季が天網を動かし探索ように伝え、こちらも準備に移る。
「燐さん、自衛隊へ連携要請を。私と補佐だけでも構わないので、桂か伏見から飛べるヘリの手配をっ」
「了解しましたっ!!」
公共交通で向かう事も考えたが、一刻を争うと判断した。
自衛隊との連携体制を、確認するにもいい機会やろう。
まぁむやみに、使いたくはないけどな。
「あ……あと蓮葉さん、天鳳のお孫さんってまだいるかな? いるなら呼んできてもらえますか?」
「千草さんですか?」
「あの人の能力は、天網には重要になります」
蓮葉が、関西方面鬼霊対策室へ緊急の連絡して二分もすると、天鳳千草が駆けつけてくれる。
「統括室長、天鳳千草参りました」
どうやら千草さんは、まだ同じフロア内にいたようで、すぐに駆けつけてくれた。
急いで来てくれたのであろう、肩で息をする千草さんに要請する。
「千草さん、急で申し訳ないんですが、一緒に東京へ来てくれませんか?」
「!?」私の突然の要請に、千草は顔を強張れせている。
無理もない。発足初日に、いきなり異常事態で緊急招集されたんやしな。
しかも東京へ同行してくれと言われたら、動揺するのも理解できる。
だが、どうしても天鳳家の助力が必要だと感じた。
「今から、東京の天網へ向かいます」千草へ、簡単に現在の状況を説明する。
「あなたには、天玉の生成をお願いしたいんです」
天玉とは、天鳳家のみが作成できる霊相を圧縮させた霊玉である。
おそらく今の対策室には、天鳳の一族しか霊相の譲渡ができる祓い屋がいない。
私もスイを使役すれば可能ではあるが、あまりスイは使いたくない。危険やから。
「それは、もちろん構いませんが、なぜ私なのでしょうか? おじい様は……」
「天鳳の爺さんには、統括室長代理として、こちらで関西の動向の管理に動いてもらいます」
異常事態が発生するのが、岩手だけとは限らない。
念の為に、先ほどこちらで天網を使用して確認したが、大きな変化は見られなかった。
だと言って油断はできない。天鳳の爺さんにはこちらで警戒にあたってもらう。
「それに、あなたの実力を見るにもいい機会と感じたからです。いけますか?」
私の言葉に、千草は緊張し動揺していた顔を、強く引き締めて敬礼する。
「はいっ!! お供致しますっ! 宜しくお願いしますっ!!」
京都御所地下出入口から、私と補佐の二人。
そして、千草を乗せたワンボックス車が、陸上自衛隊桂駐屯地へ向けて車を走らせる。
時計を確認すると、現在は十八時を過ぎたところだった。
「燐さん、ヘリの手配は?」
「桂駐屯地から、関東方面鬼霊対策室の最寄りの駐屯地である、市ヶ谷駐屯地への中型ヘリを手配済みです」
「堂上室長への連絡は?」蓮葉が答える。
「完了しています。あちらへ到着後すぐに、天網を使用できる状態にしておくとの事です」
「わかりました」優秀な補佐で、ほんま助かるわ。
車が駐屯地内へ入ると、自衛隊の隊員が出迎えてくれる。
「お待ちしていました。ヘリの準備はできています」
自衛隊車に先導してもらい、ヘリポートの隣で車を降りる。
「ここから、新宿の市ヶ谷駐屯地までお送りします。こちらへどうぞ」
「お願いします」と返事を返し、ヘリの通信士に誘導され、席に付きシートベルトを締める。
人生で、ヘリコプターに乗ることなんてないと思っていたので、少し緊張してしまう。
へりが飛び立ってから、二時間もすると市ヶ谷駐屯地に到着する。
既に、関東方面対策室の。迎えが来ているはずだ。
ヘリを降りると、室長補佐である堂上小黒が、部下を数名連れ立っている。
「統括室長、お待ちしておりました」
「小黒さん、よろしくお願いします」