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84 ばれたロア

 扉を開けて最初に目に入ったのはコルコだった。

「ここぅ!」

 寝台の上にいたコルコはバサバサと羽ばたいて、こちらに来る。


「コルコ。キャロはどうしたのかしら?」

「きゅ?」

 キャロが窓の外から顔を出す。


 コルコとキャロがいる場所も、コルコたちの作戦のうちだろう。


 今、ロアはタンスの中にいる。

 母の目をタンスから逸らすために、コルコは寝台に、キャロは窓の外にいたのだ。


 これで母はまずは寝台を調べ、見つからなければ窓の外を調べるだろう。

 窓の外で見つからなければ、外に逃げたと思うに違いない。


「うーん。そうね」

 だが、母は寝台にも窓の外にも向かわなかった。

 まっすぐにタンスへと向かう。


「え? かあさま」

「どうしたの? ルリア」


 母は下から順番に引き出しを開けていき、下から二つ目を開けて、

「……りゃ」

 あっさりとロアを見つけた。ロアは怯えてプルプル震えている。

 なぜかサラの木の棒の人形をぎゅっと抱きしめるロアをクロが優しく抱きしめている。


「……ルリア。説明して」

 あたしは答える前に母の前に回り込んで、ロアを抱きしめた。


 あたしがロアを抱きしめると、クロはすうっと床の向こうに姿を消した。

 ロアを安心させるために抱きしめていてくれたのだろう。


「りゃ〜」

 ロアはあたしにひしっと抱きついて、お腹にほおずりする。


「えっとね。あ、おなかすいているかもだから、説明のまえにご飯をあげるね」

「そうね。食べさせてあげなさい」


 あたしはロア同じ場所に隠したご飯を食べさせる。

 ウインナーを口元にもっていくと、ロアは美味しそうに「りゃむりゃむ」食べた。


 サラは心配そうにロアを撫で、ダーウはベロベロとロアのお尻を舐めていた。


「……あれは、まよなかのこと。フクロウがやってきた」

「フクロウが?」

「そう。フクロウ、きてー」


 あたしが窓の外に向けて叫ぶと、静かな羽音とともにフクロウがやってきた。


「ありがとな。フクロウ」


 フクロウは口に木の実を咥えていた。それをロアの口元にもっていく。


「りゃ〜」


 嬉しそうにロアはその木の実をぱくりと食べた。

 フクロウが虫ではなく木の実を持ってきたのも、母の心証対策だろう。


 あたしは木の実を食べる可愛いロアを、母に見せながら説明する。

「フクロウは、この子をたすけてほしかったみたい」


 嘘はついていない。だが、本当のことを全部話すわけにはいかない。

 フクロウに呼ばれて、呪者を倒してロアを助けたなどと言えるわけがないのだ。


「そうなのね。それで、どうして母に報告しなかったの?」

「この子はやさしくていい子だけど、ドラゴンって聞いたらこわがるかなって」

「そうね。普通は怖がる、いえ、畏れるわね」

「だから……かあさまにドラゴンの可愛いさをあぴーるしようとおもって」

「そうすれば、認めてもらえると」

「かくりつは、あがる?」


 その時、サラがロアの口の中に指を持っていく。

「りゃむ」

 ロアはあむあむとサラの指を吸った。


「ね? ドラゴンだけど、かまないの。こわくない」


 サラも安全性をアピールしてくれる。


「かあさま、おねがい! あかちゃんだから、ほごしないとしんじゃうの!」

「ルリア。竜はね。『触らぬ竜に災いなし』っていうのよ?」


 母は、かつて竜の赤子にひどいことをした国が滅ぼされたことがあると教えてくれた。


「だから、高貴な力のある竜に対しては国王陛下ですら、首を垂れるの」

「でも、もうルリアはドラゴンにさわった」

「サラもさわったの」「ばうわふ!」


 押すべきは今しかない。あたしは力強く宣言する。


「いまさら、ドラゴンを捨ててこいといわれても、もうおそい!」

「そうねぇ。それこそ竜の怒りを買いかねないかも……知れないわね」

「そう! ドラゴンのしっぽのいちげきは、あらゆるものをはかいするからなー」


 竜を怒らせれば、それこそ大きな被害が出る。


 母は、あたしたちをじっと見つめたあと、ため息をついた。


「……グラーフに聞いてみるわ」

「やった!」


 父に聞いてみるということは、母はよしと判断したということだ。


「落ち着きなさい。まだ飼って、いや保護していいとグラーフが言うとは限らないわよ?」

「わかってる。ダメって言われたら、とおさまもせっとくする」


 母はしゃがんで、あたしとサラと目を合わせた。


「ルリア、サラ。この子は可愛くても竜なの」

「わかってる」「あい」

「偉大で敬うべき、そんな存在なの」

「うん」「あい」

「飼うのではなく、赤子の間だけ保護するの。それを忘れないでね?」

「わかった」「どうちがうの?」


 母はサラの頭を優しく撫でた。


「飼うというのは、ダーウやキャロ、コルコと同じ。ルリアがご主人様なの」

「うん」

「ルリアが責任をもって躾しないといけないわ」

「あい」

「でも、竜を保護するというのは、ご主人様になるということではないの」


 母はゆっくりとあたしとサラに説明してくれる。


「ルリア。サラ。竜を躾しようなどと考えてはだめ。思い上がりだしおこがましいわ」

「じゃあ、トイレとかどうすればいいの?」


 サラがロアを撫でながら尋ねる。


「トイレを失敗しても、叱るのではなくお願いしないとだめ」

「トイレでしてくださいって?」

「そうね。あくまでも偉大なる種族ということを忘れてはだめ。わかったかしら?」

「わかった」「わかったの」

「いいこね」


 母は、もう一度サラの頭を撫で、それからあたしの頭を撫でた。


 まだ父の許可は出ていないが一件落着である。

 安心するとお腹が空いた。まだ朝ご飯の途中だったのだ。


「かあさま。あさごはんたべよう。ルリアおなかすいちゃった〜」

「ルリア。待ちなさい」

「ん?」

「キッチンに入った件がまだ終わってないわ」

「ひぅ」


 母は笑顔だが、目は笑っていなかった。


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