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85 怒られる者たち

 あたしはしばらくの間、母に怒られた。母が怒ると本当に怖い。

 怒鳴られるわけでも、叩かれるわけじゃないけど怖い。

 でもあたしは、並みの五歳児ではなく、前世がある立派な五歳児なので泣かずに耐えられた。


「いいかしら。ルリア。ダメなのは竜の子を保護したことじゃないの」


 ロアを保護したことではなく、約束を破ったことを怒られた。

 ロアを拾ったのに、報告するという約束を破って隠したこと。

 立ち入り禁止の場所には入らないという約束を破ってキッチンに入ったこと。


 まったくもって、母の言うとおりなので、反省するしかない。


 それらについて、あたしが怒られている間、

「ぴぃ……」

 ダーウはあたしと母の間で、床に仰向けになりお腹を見せて転がっていた。

 ぴいぴい鼻を鳴らして、赦しを乞うている。


「……ダーウは、謝らなくていいのよ?」

「ぴぃ〜……ぴぃ」


 ダーウが一緒に謝ってくれたおかげか、母のお怒りタイムは五分ぐらいで終わった。

 体感では十五分ぐらいだが、たぶん五分ぐらいだと思う。

 叱られている時間は長く感じるものだからだ。


「ルリア。わかったわね?」

「わかった」

「なら、いいわ。朝ご飯を食べましょう」


 母がそういうと、キャロとコルコは、お腹が空いているのか早速歩き始めた。

 キャロたちは歩き出さないあたしたちをみて「はやくいこ?」と言いたげに首をかしげる。


 ちなみに、フクロウはあたしが叱られている間にいつのまにかいなくなっていた。

 外は雨なのだから、もっと長居してくれてもいいのに。


 一方、サラはあたしの頭を優しく撫でてくれる。

「いいこいいこ」

「りゃむりゃむ」

 あたしに抱っこされていたロアも、あたしの肩に登ってサラの真似をして撫でてくれる。


「ありがと。サラちゃんもまきこんですまぬな?」

「ううん、いいの」


 サラも、あたしを止めなかったから、少し叱られてしまったのだ。


「ロアもダーウもありがと」

「りゃあ〜」

「わふぅわふぅ」


 ダーウは慰めるためか、あたしの顔をベロベロなめた。

 まるで「だいじょうぶ?」と言っているかのようだ。


 顔を舐められているとき、ふと思った。


「……ダーウもしかられた?」

「わふ? わふぅ」


 ダーウはあまり覚えていなさそうだ。

 ダーウは屋敷を脱走して男爵邸に駆けつけたので、家に帰ったら叱られることになっていた。


「もちろん、昨日の散歩の後に叱っておいたわ」


 あたしがサラとロアとダーウに慰められているのを優しく見守っていた母が言う。


「そっかー。ダーウもしかられたかー」


 散歩の後というと、昨日あたしたちが昼寝をしていた頃だろう。


「ルリアもいっしょに叱られるはずだったのに」

「わふわふ!」

「すまんな? つらいめにあわせて……」


 あたしはダーウをぎゅっと抱きしめた。


「……そんなにきつく叱ってないわよ?」


 母が心外だと言いたげな表情でダーウを撫でる。


「ダーウはダメっていうと、すぐ仰向けになるから……それ以上叱れなくなるよね」

「わふぅ?」


 ダーウはかあさまに甘えにいく。


「勝手に来たらダメでしょって言う前から、仰向けになるの」

「ふむ?」

「ダーウこっちに来なさいって言っただけなのにね」


 きっと、声の調子で叱られるとわかったのだ。

 だから、とりあえず仰向けになって反省の意を示したに違いない。


「もう、ダーウは、まったく」

「わふ〜」


 あたしたちは食堂へと歩いて行く。

 サラは木の棒の人形をしっかりと抱っこしてついて来る。


「ところで、ルリア。その竜の子の名前は何にするの? 竜っぽい格好いい名前がいいと思うのだけど」

「そうだなー。でも——」


 ロアという名前があると言おうとしたのだが、

「レオナルドとかどうかしらね? 竜っぽくていいと思うのだけど」

「…………」

 母はレオナルドがいいらしい。


 ダーウのこともレオナルドと名付けようとしていた。

 ひょっとしたら、かあさまは、レオナルドという名前がお気に入りである可能性がある。


 だが、今回はレオナルドと名付けることはできない。


「もうロアという名前がある」

「りゃ〜」


 ロアは嬉しそうに羽をバサバサとさせる。

 ロアはあたしの肩に乗っているので、髪がボサボサになった。


「ロア。そう。ロアというのね」


 母はあたしの肩にのったロアのことを撫でる。

「りゃりゃ〜」


 するとロアは嬉しそうに鳴いた。

 ロアは母のことも好きになったようだった。

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