朝ご飯を食べた後、あたしは精霊力、サラたちは魔法力の訓練をした。
体の中で精霊力や魔力をぐるぐる回す、いつもの訓練だ。
それが終わると、書斎でお勉強をする。
「サラちゃん、これはカブトムシとよむ」
「……かぶとむし」「りゃあ〜」
「あまりおいしくない」
「そっかー」「りゃむ」
一緒に図鑑を読みながら、字を教えるのだ。
ダーウたちはあたしの足元で、横になっている。
さすがにダーウやキャロ、コルコも勉強中は大人しくしてくれていた。
「あらあら、お嬢様方、お勉強熱心ですね」
お菓子を持ってきてくれた侍女が褒めてくれる。
「うむ。こんど、家庭教師がきてくれるらしいからな?」
五歳になったので、そろそろ本格的に勉強してもいいと判断されたらしい。
「陛下に対して、ルリアをかくす必要もなくなったからね」
と父が言っていた。
家庭教師から、王にあたしの情報が漏れることを父は警戒していたようだ。
「すこし字がよめると、先生がきたとき、らくだからな?」
「うん、がんばる。ぜんぜん字が読めないけど……」
「サラちゃんは頭が良いなぁ」
「そかな?」
「うん。もう半分ぐらい読めてる」
「でも、ルリアちゃんはおないどしなのに、全部よめ——」
「うまそうである! ルリア、これスイも食べたいのである!」
ダーウたちですら大人しくしているというのに、スイはうるさかった。
「スイちゃん。あとでね? 今勉強中だからな?」
「すまぬすまぬ……これ、うまそうであるな? 作れるのであるか?」
どうやら世界各地のの料理という本をみて、大騒ぎしているらしい。
「そうですね。見たことのない料理ですが、料理長に聞いてみましょうか?」
「頼むのである。うまそうであるなぁ? ルリアとサラも食べたいであろ?」
スイが騒ぐと、ダーウも騒ぎ始める。
「ばう〜ばうばう」
「お、ダーウも食べたいのであるな? 一緒に料理長とこにいくのである」
「ばうばう〜ばうっ?」
「そっかー、ルリアを守る仕事中であるか! じゃあ、スイだけが行ってくるのである」
スイは本を持って食堂に向かって走って行った。
昼食後、あたしたちが、中庭で遊んでいると、またコンラートが来た。
「遊びに来ちゃった。へへへ」
コンラートの顔はにやけている。
きっと、中庭に来るまえに、姉に会ったのだろう。
「コンラート。感心なこころがけだな?」
あたしがそういうと、コンラートはきょとんとした。
「え? なにが?」
「きびしい訓練から、逃げださなかったことをほめてやる」
「え? また木に登るの?」
「きょうははしる。これをもってついてこい」
「は、はい」
あたしはコンラートに、兄が幼い頃に使っていた訓練用の木剣を持たせてから走った。
もちろんあたしも、兄からもらった木剣とかっこいい棒を持っている。
そんなあたしの後ろからスイとサラとダーウ、それにミアが付いてきた。
ロアはあたしの頭の上で、キャロとコルコは木の上で、周囲を見張ってくれている。
「コンラート。とにかく走るのだ」
あたしは威厳たっぷりに言う。
「なんで?」
「走れたら逃げられるからな?」
「逃げるなんて、王子としてふさわしくない」
「戦うとしても、走れないならやられる。そういうものだ」
そんな会話をしながら走って行く。
「サラちゃんは足はやいねー」
「ルリアちゃんの方がはやいよ」
「スイが一番なのであるからして?」
あたしもサラもスイも余裕だ。
だが、コンラートは、
「まっでぇ……」
泣きそうになりながら、遅れ始めた。
「コンラート。そんなことでは逃げることも戦うこともできぬぞ?」
「はいぃ」
「しかたないなー。コンラートがばててるから、休憩するかー」
休憩に入っても、コンラートは「ぜえはあ」荒く息をしていた。
「コンラートは体力がないなぁ?」
「……うん」
「きたえたほうがいいよ? そうじゃないと……」
「そうじゃないと?」
「いざというとき、しぬ」
「し、死ぬ!? が、がんばる」
コンラートは訓練に身が入るようになった。