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134 王と王太子の会談

  ◇◇◇◇

 ルリアが王宮に来た二日後のこと。王と王太子は、王の私室にいた。

「やはり、ナルバチアは黒だ」

 王は「影」が仕入れた情報を元に王太子に告げた。

「なんと。それは……残念です。ナルバチア大公の極刑は免れませんね」

 王太子は辛そうな表情で呻く。

「ゲラルド。ナルバチアが大叔父だからといって、気を病む必要はない」

「はい。わかっております」

 それでも王太子は険しい表情のままだ。

「陛下。兵を動かすタイミングが難しいですね」

 ナルバチア大公も極刑となることがわかっているのだから、頑強に抵抗するだろう。

 下手に戦が長引けば、野心を持つ貴族が兵をあげるきっかけとなるかもしれない。

 それに他国につけ込まれる大きな要因にもなる。

「……それだけではない」

「といいますと?」

「ナルバチアは大昔に失われた精霊石作製技術を復活させようとしている」

「精霊石ですか? お伽話にしか存在しないものだとおもっていましたが……」

「そうであったら、よかったのだがな」

 王は机の上に石を置く。

「これは? まさか」

「精霊石。その出来損ないらしい。もっとも精霊を捕えることはできていないらしいが」

 精霊を捕える技術は非常に高度で難しい。

 だから今は魔物を捕えて石にしているようだ。

「魔石とは違うのですか?」

「魔石は魔物を殺した後に残るものだ。これは生きた魔物を石に変換したものだ」

 魔石となった魔物は死ぬので結果は同じだが、過程が違う。

「この過程が精霊石作製に応用できるらしいのだが……」

「時間がありませんね」

 ナルバチア大公が精霊石を量産できるようになれば厄介だ。

 国は荒れ、多くの民が苦しみ、死ぬことになる。

「それにルイサの事績がある」

 精霊を精霊石などにすれば、精霊の怒りを買うだろう。

 そうなれば、大災害に見舞われ、大きな被害が出かねない。

 それまでに討伐しなければならない。

「問題はナルバチアが、魔石をどれぐらい持っているかだ」

 魔石を持っていれば持っているほど、ナルバチアの兵は強くなる。

 魔石の量によっては、返り討ちにされかねない。

 王の兵が返り討ちになることは絶対に避けねばならないのだ。

「ナルバチアにばれぬよう、秘密裏に兵を集めるといっても寡兵では意味が無い」

「はい。演習を名目に、各地にわけて兵を集めましょう」

「一部を残して近衛騎士を動かす」

「それでは王宮の防備が……」

「背に腹は代えられぬ」

 今の状態で近衛騎士を王都から動かすのは危険だ。

 だが各地から兵を集めるよりも、ずっと早い。

「陛下。教会と『北』以外の呪術師集団にも協力させましょう」

「それはグラーフにやらせる。グラーフは教会と呪術師に影響力があるからな」

 それを聞いて王太子は、驚いて一瞬固まった。

「どうした?」

「いえ、以前の陛下ならば、グラーフに手伝わせることはなかったかと」

 グラーフが教会に影響力を持っているのは間違いない。

 教会で権勢を恣にしている大司教サウロとグラーフは繋がっている。

 そのうえ、呪術師四大集団の一つ「南の沼地の魔女」にいたっては、グラーフの傘下だ。

 だからこそ、これまでの王ならば、グラーフも疑う。

「北」と組んだナルバチアが、「南」と組んだグラーフと協力する可能性を恐れる。

 そうでなくとも、最悪の事態は、二つの大公家が手を組んで王家に叛旗を翻すことだ。

 ならば、グラーフに異変を察知されるわけにはいかない。

 そう、以前の王ならば考えたはずだ。

「グラーフは裏切らぬよ」

「なぜそう思われるのですか? いえ、私も同意見ではあるのですが……」

 猜疑心の塊のような王は簡単に人を信用しない。

 王太子のことすら、王は常に疑っていたのだから。

「余も、グラーフも、ルリアが大切だからな」

 全く論理的ではないし、そもそも理由になっていない。

 同じ者を大切に思っている者同士が殺し合うこともあり得るだろう。

「なるほど。そうなのですね」

 王太子は理屈ではないが、なんとなく理解できた。

 その日から王と王太子は通常の業務をしながら、ナルバチア大公討伐の準備を始めた。

 そして、王の密命をうけたグラーフも、忙しく動き始めた。

  ◇◇◇◇

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