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135 王からの招待

 それから毎日コンラートはやってきたので、毎日走り込み、木に登って、訓練をした。

 一週間が経ち、コンラートも木登りが上手くなった頃。

 夜ご飯を食べ終わった後、あたしはケーキを食べていた。

「うまいうまい。苺がうまい。生クリームもうまい。サラちゃん、うまいな?」

 いわゆる、苺のショートケーキというやつだ。

「おいしいけど、ルリアちゃんお腹いっぱいにならないの?」

「ん? 甘い物はべつばらだからな?」

「でも、夜ご飯もサラの倍ぐらい食べたのに……」

 あたしはケーキを二つ食べたのに。サラはまだ一つしか食べてない。

「サラちゃん、えんりょしなくていいのだよ?」

「してないよ? お腹いっぱい」

「サラちゃんは小食なのだなぁ」

「ルリアが大食いなだけよ?」

 姉がそんなことを言っていた。

「そうだ、ルリア。陛下から、ルリアとサラに招待状が来ているよ」

 そういって父が開封済みの招待状を渡してくれた。

 最近の父は忙しいらしく、目の下に隈ができている。

「とうさま、ねてる?」

「うん。寝ているよ。ありがとう」

 そういって、父はあたしの頭を撫でてくれた。

「ねてるならいい。キャロもすぐ夜ふかしするからなー」

 そんなことを言いながら、あたしは招待状を確認する。

「ルリアちゃん、なんて?」

「さみしいから、明日王宮にきてほしいんだって。スイちゃんとかダーウたちも来ていいって」

 謁見の間とかがある場所では無く、王宮の離れへの非公式な招待らしい。

 だから、自由なようだ。

「急だね?」

「たしかに、サラちゃんの疑問はもっともだな?」

 あたしが父を見ると、父は笑顔で言う。

「大事な予定が延期になったみたいなんだ。それで、一日暇になったから来て欲しいらしい」

「じいちゃんは忙しいものな」

「そうなんだ。それに、これからしばらく陛下は多忙になるからルリアに会っておきたいらしい」

「そっかー」

 急な予定変更でもなければ、暇になるときは滅多にないのだろう。

 それに、これから益々忙しくなるとは。王とは大変な仕事だ。

「ただ、急すぎて私やアマーリア、マリオンは用事があって、同行できないんだ」

「とうさまもかあさまも、マリオンも忙しいものな?」

 父は大貴族にして大領主たる大公なので、いつも忙しいのだが、最近は特に忙しいらしい。

 朝ご飯は一緒に食べてくれるが、昼ご飯と夜ご飯の時は屋敷にいないことが多いほどだ。

 それに大公家の家政を司り、貴族同士の社交を担当する母も忙しい。

 先日まで湖畔の別邸で動けなかった分、仕事がたまっているに違いない。

 加えて、父が忙しい分、母にも仕事のしわ寄せがいっているはずだ。

 そして、マリオンも、サラのかわりに男爵家のすべてを司っているので忙しい。

 代替わりしたばかりなので、余計忙しいはずだ。

「陛下はルリアとサラを大切に思っているし、危険は無いと思うが……」

 父は子供だけで王宮に送るのは不安らしい。

「ルリアは行くよ? お菓子を用意しているらしいし」

 王からの手紙にはお菓子を沢山用意してあると書いてあった。

「サラちゃんはどうする?」

「ん。サラもいく」

「スイも行くのである!」「ばうばぅ」

 すると母が言う。

「非公式だからうるさく言われないと思うのだけど……礼儀正しくね?」

「うん、大船にのったつもりでまかせて?」

「……不安ね」

 ぼそっと母は呟いた。母は心配性らしい。

 そして、あたしとサラ、スイとダーウ達は王宮に遊びに行くことになった。


 次の日、朝ご飯を食べた後、あたしたちは王宮へと向かう準備をする。

 あたしとサラはしっかりと帽子を被った。

 サラはおしゃれのため、あたしは髪を隠す為だ。

「念のため髪をかくさないとだものな〜」

 王が味方になってくれたとはいえ、赤髪を良く思わない者もいる。

「あ、万が一のときに顔を隠せるようにじいちゃんにもらった狐の仮面も持っていこう」

「…………万が一などないわよ?」

 母が呆れたように言う。

「でも、万一がなくても、じいちゃんと狐ごっこできるから無駄にならない」

「…………陛下が……そんなことするかしら?」

 母はそう言ったが、仮面を持っていくことに反対はしなかった。

 あたしもサラも、動きやすい服を身につける。

「これ、にいさまの?」

「ルリアとサラの為に作らせた物よ」

 兄が小さい頃に着ていた服にそっくりだが、改めて作った新品らしい。

「ルリアとサラの体にあわせてつくったから、動きやすいでしょう?」

「たしかにポケットもたくさん付いているからいいな?」

「ありがとうございます」

「ルリア。ポケットが沢山ついてても、虫を中に入れたりしたらダメよ?」

「うん。わかった」

「約束よ?」

 母は何度も念押ししてきた。

 それから、リュックの中に着替えとおやつを入れる。

「フード付きのローブだ! これがあると髪を完全に隠せるな?」

「うん」

「謎の魔導師ごっこもできる」

「そかな?」

 準備を終えると、あたし達は馬車で出発する。

 ダーウは大きすぎて馬車に乗れないので、馬車の隣を走ってついてきた。


 王宮は王都の最北にある。

 王都の街中をダーウが走ると目立ちすぎるので、大きく迂回して北から入ることになった。

 王宮の北口から入り、侍従に案内されて、王宮の端にある離れに到着する。

「我々は外で待機するように言われておりますので、何かあればおっしゃってください」

「わかった、ありがと!」

 侍従達は離れには入らないことになっているらしい。

 きっと、あたしが精霊魔法とか使えることが、ばれないように王が気を遣ったのだ。

「侍従がいないなら、ロアも外に出られるな?」

 あたしはリュックの中に入れて置いた、ロアを外に出す。

「りゃあ〜」

「いざとなれば、スイちゃんの弟ってことにすればいいけど……」

 水竜公の弟ならば、誰も文句は言えない。

 だが、水竜公がいること自体もあまり広まって欲しくない。

 スイを利用しようと悪い奴が寄ってくるかもしれないからだ。

「ミアもでていいよ?」

「…………」

 サラのリュックの中にはミアが入っている。

 いざとなれば、ミアもスイが作ったことにすればいい。

 とはいえ、ミアも目立たないに超したことはない。

「じゃあ、探検するかな? サラちゃんいこう」

「うん!」

 まだ王はいなかったので、あたしたちは探検することにした。

 離れは、普通の貴族の屋敷のようだった。少しディディエ男爵邸に作りが似ている。

 長方形で、南側に窓があり、北側に廊下がある。

 周囲は高さ二・五メルトの金属製の柵に囲まれていた。

「しんちょうにな?」

「うん」

 あたしはロアを頭の上に載せて、かっこいい棒でビシバシ床を叩きながら廊下を進む。

 兄にもらった木剣も腰に差しているので万全だ。

「ばう!」

「ダーウ、ルリアより前にでてはいけない。わなが……あるかもだからな?」

「わふ」

 前に出ようとするダーウを抑えて、あたしは進む。

「鎧がある。これお爺さまがきるのかな?」「…………」

 サラは観察しながら、あたしの後ろをついてきて、その後ろをミアがついてくる。

「わー。こっちには寝台もあるのである!」

「きゅっきゅ」「こここ」

 スイとキャロ、コルコはあたしたちとは別行動で、走り回っていた。

 危険が無いか見てまわってくれているらしい。

「わふ?」

 ダーウがあれはいいのかと、目で訴えてくる。

 あたしがまだ罠チェックしていないところを走り回っているのが、気になるのだろう。

「キャロとコルコはかるいからな? 罠が発動しない。それにスイちゃんは飛べるからな?」

 ほんとに飛べるかわからないが、多分飛べる。竜の姿のときは羽が生えていたし。

「わふわふ」

 あたしの完璧な説明に、ダーウは納得したようだった。

 離れを探検したあと、あたしたちは食堂にやってきた。

 食堂の机の上には沢山のおやつが載っている。

「食料があるから、ここがきちだな?」

「そだね」

「わうわう!!」

 ダーウははやくお菓子食べようといって尻尾をぶんぶんと振っている。

「そだな。お菓子を食べて、また探検だな?」

「スイ、王宮のお菓子を食べるの初めてである! 楽しみなのであるなー」

 あたしとサラは謁見の日のお菓子を沢山食べた。

 だが、スイはその前日に王の寝室に忍び込んだだけなので、お菓子は食べていないのだ。

「ほう? これが王宮のお菓子であるか? どれどれ」

「バウバウバウバウバゥッ!」

 お菓子を食べようとするスイを必死になって、ダーウが止める。

「もうダーウったら。全部食べないから安心するのである」

「バウバウバウ!」

 ダーウは変な臭いがするから食べるなといっているのに、スイは気にしない。

「スイちゃん、まって——」

「むぐむぐむぐ。うまい!」

 だが、そのお菓子を躊躇いなくスイは口にしてしまった。

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