「うぅぅ〜〜」
ダーウはお菓子に向かってうなり声を上げる。
「スイちゃん、ぺっして、ぺっ」
「え? なんでであるか?」
「いいから! はなしはあと!」
「う、うむ、口から出すなんて、行儀悪いのであるが……」
そういいながら、スイは口に入れたお菓子を吐き出した。
「いったいなんなのであるか?」
「ダーウの様子がおかしい……これは、くさってる可能性もある」
「スイちゃん、腐ってるもの食べたら、お腹すごく痛くなるよ?」
「そうなのであるか? こわいのである!」
スイはやっと事態の深刻さに気づいたようだ。
食い意地の張っているダーウが食べるなというのは、非常事態だ。
ひとまず食べるべきではない。
「ダーウ、どんなにおいがした?」
「わふ〜」
ダーウは絶対食べたら駄目な臭いだと主張している。
「ふむ?」
あたしは、お菓子に触れずにくんくんとおやつの臭いを嗅ぐ。
「これ、腐ってるお菓子の臭いじゃない」
「じゃあ、食べていいのであるか?」
「だめ。これは毒」
前世で食べたことのある毒の臭いがした。
あたしを虐める為に、たまに食事に毒を混ぜられたことがあった。
その毒と同じ臭いだ。
「……からだがしびれてうごけなくなるやつだ」
「王の奴、ゆるせんのである! ルリアを毒殺しようとするなど! 万死に値するのである」
怒りのあまり、スイの魔力が膨れあがった。
「スイちゃん、落ち着くといい。これは多分死なないやつだ。くるしいけどな?」
あたしは冷静にスイをなだめる。
「これが落ち着いていられるか、なのである!」
「それにじいちゃんが毒をしこんだとはかぎらないからな?」
「…………ふむ?」
「こういうときは、情報収集がだいじ。クロ、精霊たちいる?」
あたしが呼びかけると、クロが壁から、精霊たちが天井、床から生えてくる。
「話きいてたな?」
『聞いているのだ』『どくこわいー』『いやだねー』
「じいちゃんが、無事かしらべられる?」
『わかったのだ。おまえたち、いくのだ!』
『りょうかいりょうかい』『しらべる〜』
「王宮にかわった様子があるかもみてきて?」
『まかせて!』『いってくる〜〜』
精霊たちが、王宮の各地に飛んでいく。
他の人には姿が見えず、壁も素通りできる精霊は密偵に最適なのだ。
「クロは侍従の様子をみてきて?」
『わかったのだ』
クロはふわふわと外に飛んでいく。
「サラちゃん。だいじょうぶだ」
あたしは不安そうにしているサラをぎゅっと抱きしめた。
「ダーウ、キャロ、コルコ、警戒してな?」
「わふ」「きゅ」「ここ」
「ミアも、いざというときはサラちゃんをまもってな?」
「…………」
ミアはサラをかばうように前に出て警戒していた。
「心配しなくてもいいのである。いざとなれば、スイが全部吹き飛ばせばいいのである」
そういって、スイはあたしたちを元気づけようとしてくれていた。
『見てきたのだ! 外にいる侍従達の会話を盗み聞きしたのだけど……』
「なんていってた?」
『ルリア様たちを逃がさないようにするのが役目みたいなのだ』
「ほう? 侍従は、敵か?」
「スイがしばき回してくるのである」
「まあ、まつといい。まだ謎があるからな?」
「謎とはなんであるか?」
あたしは、スイとサラに向けて解説する。
侍従が本物かどうかわからない。
本物だったとしても、王の命令で動いているかもわからない。
「じいちゃんは、無事なのかな?」
「心配だね……」
「うん、じいちゃんが悪い奴に捕まってる可能性もある」
その場合は、あたしたちが捕まってると思わせておいた方が良い。
「助け出さないとだね」
「そう。だからまずは精霊たちが戻ってくるのをまったほうがいい」
そして、あたしは木剣とかっこいい棒をしっかり握りしめる。
「クロ、この建物の周りってどんなかんじ? こうぞうとか」
『うん、少し待つのだ』
宙に浮いたままクロが前足をかかげると、ぼんやりとテーブルの上が光りはじめた。
『ええっと〜こうなのだ!』
テーブルの上に立体的な光の模型が出現する。
「クロすごい!」
「おお、後でやり方を教えて欲しいのである」
その模型は、精霊の特殊な魔法なので、普通の人には見られない。
だが、精霊をみることができるサラもスイも、しっかり見ることができるのだ。
『前に来たときにも見たから、建物の配置は覚えているのだ!』
「すごい! さすが、クロ! ありがと!」
『えへへ。これが、今いる離れなのだ。離れを囲む柵がこれで……、侍従の配置はここ』
「ふむふむ、わかりやすい。ちなみにこの前ルリアたちがいった謁見の間はどれ?」
『謁見の間のある王の宮殿はこれなのだ』
それは離れから、千メトルほど離れているらしい。王宮はとても広いようだ。
「……とおいな?」
「陛下はそっちかな?」
「……そうかも」
「ぅぅ〜」
突然、ダーウが小さく唸った。
「どした? ダーウ」
「ぁぅ」
ダーウは小さな声で吠えると、窓を見る。
「ん? あっ!」
窓の外に、柵をよじ登るコンラートが見えた。