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136 毒入りのおやつ

「うぅぅ〜〜」

 ダーウはお菓子に向かってうなり声を上げる。

「スイちゃん、ぺっして、ぺっ」

「え? なんでであるか?」

「いいから! はなしはあと!」

「う、うむ、口から出すなんて、行儀悪いのであるが……」

 そういいながら、スイは口に入れたお菓子を吐き出した。

「いったいなんなのであるか?」

「ダーウの様子がおかしい……これは、くさってる可能性もある」

「スイちゃん、腐ってるもの食べたら、お腹すごく痛くなるよ?」

「そうなのであるか? こわいのである!」

 スイはやっと事態の深刻さに気づいたようだ。

 食い意地の張っているダーウが食べるなというのは、非常事態だ。

 ひとまず食べるべきではない。

「ダーウ、どんなにおいがした?」

「わふ〜」

 ダーウは絶対食べたら駄目な臭いだと主張している。

「ふむ?」

 あたしは、お菓子に触れずにくんくんとおやつの臭いを嗅ぐ。

「これ、腐ってるお菓子の臭いじゃない」

「じゃあ、食べていいのであるか?」

「だめ。これは毒」

 前世で食べたことのある毒の臭いがした。

 あたしを虐める為に、たまに食事に毒を混ぜられたことがあった。

 その毒と同じ臭いだ。

「……からだがしびれてうごけなくなるやつだ」

「王の奴、ゆるせんのである! ルリアを毒殺しようとするなど! 万死に値するのである」

 怒りのあまり、スイの魔力が膨れあがった。

「スイちゃん、落ち着くといい。これは多分死なないやつだ。くるしいけどな?」

 あたしは冷静にスイをなだめる。

「これが落ち着いていられるか、なのである!」

「それにじいちゃんが毒をしこんだとはかぎらないからな?」

「…………ふむ?」

「こういうときは、情報収集がだいじ。クロ、精霊たちいる?」

 あたしが呼びかけると、クロが壁から、精霊たちが天井、床から生えてくる。

「話きいてたな?」

『聞いているのだ』『どくこわいー』『いやだねー』

「じいちゃんが、無事かしらべられる?」

『わかったのだ。おまえたち、いくのだ!』

『りょうかいりょうかい』『しらべる〜』

「王宮にかわった様子があるかもみてきて?」

『まかせて!』『いってくる〜〜』

 精霊たちが、王宮の各地に飛んでいく。

 他の人には姿が見えず、壁も素通りできる精霊は密偵に最適なのだ。

「クロは侍従の様子をみてきて?」

『わかったのだ』

 クロはふわふわと外に飛んでいく。

「サラちゃん。だいじょうぶだ」

 あたしは不安そうにしているサラをぎゅっと抱きしめた。

「ダーウ、キャロ、コルコ、警戒してな?」

「わふ」「きゅ」「ここ」

「ミアも、いざというときはサラちゃんをまもってな?」

「…………」

 ミアはサラをかばうように前に出て警戒していた。

「心配しなくてもいいのである。いざとなれば、スイが全部吹き飛ばせばいいのである」

 そういって、スイはあたしたちを元気づけようとしてくれていた。

『見てきたのだ! 外にいる侍従達の会話を盗み聞きしたのだけど……』

「なんていってた?」

『ルリア様たちを逃がさないようにするのが役目みたいなのだ』

「ほう? 侍従は、敵か?」

「スイがしばき回してくるのである」

「まあ、まつといい。まだ謎があるからな?」

「謎とはなんであるか?」

 あたしは、スイとサラに向けて解説する。

 侍従が本物かどうかわからない。

 本物だったとしても、王の命令で動いているかもわからない。

「じいちゃんは、無事なのかな?」

「心配だね……」

「うん、じいちゃんが悪い奴に捕まってる可能性もある」

 その場合は、あたしたちが捕まってると思わせておいた方が良い。

「助け出さないとだね」

「そう。だからまずは精霊たちが戻ってくるのをまったほうがいい」

 そして、あたしは木剣とかっこいい棒をしっかり握りしめる。

「クロ、この建物の周りってどんなかんじ? こうぞうとか」

『うん、少し待つのだ』

 宙に浮いたままクロが前足をかかげると、ぼんやりとテーブルの上が光りはじめた。

『ええっと〜こうなのだ!』

 テーブルの上に立体的な光の模型が出現する。

「クロすごい!」

「おお、後でやり方を教えて欲しいのである」

 その模型は、精霊の特殊な魔法なので、普通の人には見られない。

 だが、精霊をみることができるサラもスイも、しっかり見ることができるのだ。

『前に来たときにも見たから、建物の配置は覚えているのだ!』

「すごい! さすが、クロ! ありがと!」

『えへへ。これが、今いる離れなのだ。離れを囲む柵がこれで……、侍従の配置はここ』

「ふむふむ、わかりやすい。ちなみにこの前ルリアたちがいった謁見の間はどれ?」

『謁見の間のある王の宮殿はこれなのだ』

 それは離れから、千メトルほど離れているらしい。王宮はとても広いようだ。

「……とおいな?」

「陛下はそっちかな?」

「……そうかも」

「ぅぅ〜」

 突然、ダーウが小さく唸った。

「どした? ダーウ」

「ぁぅ」

 ダーウは小さな声で吠えると、窓を見る。

「ん? あっ!」

 窓の外に、柵をよじ登るコンラートが見えた。

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