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153 ディディエ男爵邸

 あたしとスイがダーウを洗い終わると、侍女が客室へと案内してくれた。


「ダーウは三日、ずっと走ってたからな? 早く休んだ方が良いな?」

「え? 三日間走り続けたのですか? 凄いですね」

「わふ〜」


 侍女に褒められて、ダーウは誇らしげだ。

 そのもふもふの毛皮を侍女に押しつけに行く。


「撫でてほしいんだって」

「よろしいのですか?」

「うん。よかったら撫でてあげてな?」

「ありがとうございます。うわ〜ふわふわです」


 侍女に撫でられて、ダーウは嬉しそうに尻尾を揺らしていた。



 あたしと一緒に客室に向かったのは、ダーウの他にキャロとコルコ、ルクス、それにスイだ。

 もちろん、あたしは、かっこいい棒を含めた荷物もしっかり持って行く。


 他の人には見えていないが、クロもちゃんとついてきている。


 サラと姉はマリオンと一緒にどこかに行った。

 サラは当主として、姉は父の名代として、使用人に挨拶する必要があるらしい。


「ルリアお嬢様、こちらになります」

「ありがと!」


 屋敷の中は非常に質素だった。だが、作りはしっかりしていて安っぽくはない。


 侍女が案内してくれた部屋は、大公家でのあたしの部屋にそっくりだった。


「おおー。初めてきたところなのに、あんしんかんがある」

「ご用がありましたらお呼びくださいね」

「うん。ありがとー」


 侍女が去ると、あたしは寝台に腰掛ける。


「ダーウ、こっちこい」

「わふ〜」


 ダーウは嬉しそうに尻尾を揺らして、あたしの膝の上に顎を乗せた。


「ダーウはつかれたな? もう寝る? 寝たほうがいいな?」

「わわふ〜」


 ダーウは、夜ご飯がまだだという。


「そういえば、そだな。食欲あるみたいでよかった」


 あたしはダーウの全身をくまなく撫でる。

 激しい運動の後など、ご飯をたべられなくなったりすることもあるのだ。

 お腹がすいているならば、それに越したことはない。


「むむ? 筋肉がはっている」

『そりゃ、あれだけ走ったら、張るのが普通なのだ』


 クロがダーウを撫でながら言う。

 侍女がいなくなったので、クロは話すことにしたようだ。


「そっかー。きんにくつうとか、だいじょうぶ?」

「ばう」

「そっか、大丈夫か。ダーウはつよいこだな? いたくない?」

「わふわう〜」


 ダーウはそんなことよりお腹がすいたという。


「とりあえず、夜ご飯まで昼寝しよな?」


 そういってあたしが寝台に横になると、みんな横になる。


「ダーウも綺麗になってよかったな?」

「ぁぁぅ〜」

「ルリアも、スイみたいにきれいにできたらいいいのだけどな?」

『当然、ダメなのだ。緊急時以外、魔法の使用は絶対禁止なのだ』


 クロに厳しく言われてしまった。


「わかってるけどな?」

『本当に、わかってるのだ? 筋肉痛とか風邪とかは緊急時にならないのだ』

「ふむ?」


 クロが急に筋肉痛と風邪について語り始めた。

 きっと、馬車のなかでほとんど話せなかったから、話をしたいにちがいない。


『もちろん、風邪をこじらせて、死にかけたら緊急時なのだ。でも、通常の風邪は——』


 ダーウがマッサージされる横で、クロが真剣に語っている。


『重病はともかく、風邪程度で治癒魔法を使うと体の抵抗力が落ちて——』

「ほー」

『そもそも、治癒魔法というのは強力すぎる薬のようなもので——』

「へー」

『ルリア様! 聞いてるのだ?』

「き、聞いてる」


 一応聞いていた。だが、幸せそうなダーウの顔を見つめるので忙しかったのだ。


 つまり、基本的には魔法を使わない方がいいらしい。

 魔法に頼り過ぎた場合、逆に病気になりやすくなる場合も考えられるとクロは言う。


『気持ちよさそうなダーウの顔を見つめているようにしかみえなかったのだ』

「そ、そんなことないが?」


 クロは鋭い。


「つまり、あれでしょ? 治癒魔法はきんきゅうのとき以外禁止。だな?」

『そうなのである』

「でもなぁ。そんなに治癒魔法ばかり使うやつとかおるのであるか? 金かかるのであろ?」


 あたし達と一緒に寝台に横になり、ダーウをなで回しながらスイが言う。


 一般的に治癒魔法の使い手は教会に所属していることが多い。

 そして、教会に治癒魔法を頼むと金がかかるのだ。


『昔、毎日治癒魔法をかけて、長生きしようとした王様がいたのだ』

「へー、そんな奴がのう」

『そやつは、治癒魔法の回復が間に合わなくなって、風邪であっさり死んだのだ』


 クロが言うには、どんどん体自体の持つ病気に抵抗する力が落ちていったらしい。

 そして、毎日治癒魔法を長い時間かけないと、風邪をひくようになったという。

 最終的には、いくら治癒魔法をかけても、病状は悪化し続けあっさり死んだらしい。


「そんなことがあったのか……。ルリアも気をつけないとな?」



 結局、侍女が呼びに来るまで、あたし達は昼寝せずに寝台の上でゴロゴロしていた。


 夕食は、マリオンを含めた皆で一緒に食堂で食べた。


 お風呂に入ろうと思ったのだが、大公家のものより小さくためダーウが入れないらしい。


「ならば、スイがきれいにしてあげるのである!」

「ありがと! たすかる!」

「ばうばう〜」「きゅるる」「ここ」「りゃむ〜」

「スイちゃん、ありがと! スイちゃんの魔法、きもちいいね」


 あたし達はスイに魔法できれいにしてもらうと自室へと戻った。


 みんな疲れていたので早めに就寝することにしたのだ。


 サラは今日だけは、あたしとではなくマリオンと寝ることにしたようだ。



 あたしはダーウ、キャロ、コルコ、ロアとスイと一緒に眠る。


 あたしが寝台で横になると、右隣にスイが、左隣にダーウが横になる。


「ダーウ、ゆっくり寝るといい、疲れたな?」

「ぁぁぁぁぁふ」


 大きくあくびをすると、ダーウは目をつぶる。

 そして、十秒後には、静かに寝息を立て始めた。


「やっぱり疲れていたのであるなー」

「そだな。キャロとコルコもよく眠るといい」

「きゅ」「ここ」

「ロアもよく寝……もう寝てるな?」


 ロアは赤ちゃんなので、すぐに寝ちゃっても仕方の無いことだった。


 あたしも疲れていたからか、すぐに眠りに落ちたのだった。

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