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156 休息する子供達

 朝ご飯を食べ終わった頃、サラとミア、それに姉がやってきた。


「ダーウが風邪ひいちゃったって聞いたけど、大丈夫?」

「…………」

「ぴぃ〜くしゅん」


 サラとミアは寝台で寝ているダーウのもとに駆け寄って優しく撫でる。


「ダーウは風邪をひいたうえに、筋肉痛なんだって」

「そっか、大変だね」「…………」

「ぴぃ〜」


 姉もダーウのことを優しく撫でる。


「三日間、ずっと走り続けていたものね。ダーウ。ゆっくり休むのよ」

「ぴぃ〜〜」


 それから、あたしはダーウと一緒に寝台に寝っ転がって、だらだらした。

 サラもだらだらしていたし、スイもだらだらしていた。


 姉は、父の名代なので、色々忙しいらしく、どこかに行った。


「旅でつかれたから、風邪ひいたのかな?」

「ねー。ルリアちゃんも、つかれた?」

「あんまり疲れてないな? スイちゃんは?」

「スイは疲れていないのである。竜であるからな?」

「ぴぃ〜」


 サラとスイと一緒に、ダーウを撫でながら、寝台の上でお話しする。


「ぴぃ〜」

「ダーウ、だいじょうぶ。ルリアはトイレに行くだけだからな」


 少しでもあたしが離れるとダーウは甘えて鳴くのだ。


「ぴぃぴぃ〜」

「む? 棒がほしいの? はい」

「ふんふん。あむ」


 ダーウは自分のかっこいい棒を鼻先において匂いを嗅いだり、咥えたりしている。

 赤ちゃんのおしゃぶりの様なもので、安心するのかもしれない。


 あたしはトイレを済ませると、寝台に戻る。


「ぴぃ〜」

「ダーウ、ねてていいからな。……こういうのもいいな?」

「ねー。ゆっくりするのもいいね」

「サラちゃん、マリオンと話せた?」

「はなせた!」


 サラの尻尾が揺れる。数日ぶりにマリオンに甘えられて嬉しいのだろう。


「…………」


 サラに抱っこされているミアも、どことなく嬉しそうな雰囲気を醸し出している。


 そして、スイとダーウは眠っていた。ロアもダーウのもふもふに包まれて眠っている。


「くぅ〜」「ぴぃ〜ぁぅ」「……りゃ〜」

「スイちゃんもつかれてたのかも? 竜だから疲れないっていってたけど」

「そうかも。旅だものね」


 あたしはスイのことも撫でておいた。


 キャロとコルコは、いつものように室内を巡回している。


「キャロ、コルコ、こっち来てな?」

「きゅ?」「ここ」


 そんなキャロとコルコを、あたしは寝台によんで、ぎゅっと抱きしめる。


「いっしょにひるねしような?」

「きゅ〜」「ここぅ」


 そして、あたしも昼寝した。



 …………

 ……


「……むむ?」


 あたしが人の気配を感じて目を覚ますと、マリオンがいた。

 マリオンは優しくダーウを撫でている。


「ルリア様、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」


 マリオンはサラやスイを起こさないように小声で話している。

 ダーウは嬉しそうに仰向けになり、尻尾をゆっくり振っていた。


「ん、だいじょうぶ。ダーウの様子をみにきてくれたの?」

「はい。寝ているようなら起こさないようにしようと思ったのですが……」


 マリオンが部屋に入った時点でダーウは起きており、棒を咥えて尻尾を揺らしていたらしい。

 だから、マリオンはダーウのことを撫でていたようだ。


「ダーウは気配にびんかんだからな」


 風邪で筋肉痛でも、あたしを守るために誰かが入ってきたらすぐに起きてくれるのだろう。


「ダーウはえらいなぁ」


 あたしも仰向けになったダーウの柔らかいお腹を撫でる。尻尾の揺れが少し激しくなった。

 本当は、もっともっと、高速で尻尾を振りたいに違いない。

 だが、そんなことしたらサラ達を起こしそうなので気を遣っているのだろう。


「ダーウだけでなく、ルリア様のご様子もみたくて」

「ありがと」


 マリオンはぎゅっと抱きしめてくれた。


「えへへ」

「本当はルリア様とサラと一緒に過ごしたいのですが……」

「マリオンは忙しいものな? 領主のお仕事で」

「はい。ですが、もし何かあれば、遠慮なくおっしゃってくださいね」

「わかった! ありがと。……でも、ルリアはいいから、サラのことかまってあげてな?」


 サラは、マリオンにもっと甘えた方がいいし、甘やかされた方がいい。


「わかっておりますよ。ルリア様はお優しいですね」


 マリオンはそういうと、あたしの頭を撫でてくれた。


「閣下、そろそろ……」


 部屋の扉の近くにいた侍女、いや、おそらく女性の執事が小さな声で言う。

 マリオンは仕事をしないといけないのだろう。


「わかりました。それではルリア様、また」

「ん! またな」


 マリオンが出て行くのを、あたしとダーウは見守った。


「ダーウは寝るといい」

「ぴぃ〜」


 しばらく寝ただけだというのに、ダーウはだいぶ元気になったようだ。


「ぴぃ?」


 ダーウは咥えていたかっこいい棒をあたしの前にボトっと落とす。

 これは、棒で遊ぼうという合図だ。


「ダーウ。あそびたいのか? でも、まだだめ」


 どうやら、体の痛みとか風邪のだるさよりも、遊びたい欲が勝り始めたらしい。


「ぁぅ」

「だめ。ねないとだめ。ルリアも魔法をつかうのがまんしてるんだからな?」

「ぁぅ〜」

「そうかんがえると、ルリアとダーウはにてるな?」


 あたしもダーウも体の回復を優先するために、やりたいことを我慢しているのだ。


「ぁぅ」


 似てると言われたことが嬉しいのか、ダーウは尻尾を振った。

 あたしはそんなダーウを撫でて「一緒にねよ」といいながら、寝かしつけた。


「元気になったら棒であそぼうな?」

「ぁぅ」

「いいこ、いいこ。ダーウはいいこ」

「ぴぃ〜」


 しばらくそうしていると、ダーウは寝た。

 ダーウは疲労で風邪をひいたのだから、とにかく食べて寝れば良いのだ。


 ダーウを撫でていると、あたしも眠くなってくる。

 夜しっかり寝たし、さっきまで寝ていたのに、また眠くなるとは。

 もしかしたら、あたしも疲れていたのかもしれない。


 眠いなら眠れば良い。


 あたしは目をつぶろうとして、

「…………む?」

 窓の外の気配に気がついた。

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