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158 二日目の朝食

 次の日の朝。あたしたちは、一日ぶりに食堂に行った。


「あら、ダーウ、もう体はいいの?」

「ばう〜ばう〜」


 姉に声をかけられて、ダーウは嬉しそうに甘えにいく。


「ダーウは、昨日のお昼ぐらいにはげんきだった」

「寝ていたのは、念のためだもんね」

「夜には遊ぼうとするから大変だったのである」


 仕方ないので、ダーウには絵本を読んで寝かしつけたのだ。


「そう、ダーウは回復が早いのね」


 姉はダーウのことを優しく撫でる。その表情がいつもと違う気がした。


「むむ? ねえさま、つかれてる?」

「そんなことないわよ?」


 ダーウもそんなことを言っていた。そして、倒れたのだ。


 二泊三日の旅で疲れたうえに、父の名代として色々仕事をしているのだ。

 疲れないわけがない。


「ねえさまも、あとで昼寝しよ?」

「大丈夫。ありがとう」



 朝食時、あたしはパンを手でちぎって食べながら、マリオンに尋ねた。


「ねね、今日はなにするの?」

「いつも通りのお仕事ですよ。あ、ですが、今日は視察にも行きます」

「しさつ!? しさつってなにするの?」

「領地の様子を見て回るのです」

「みるだけであるか?」


 パリパリに焼いたウインナーを食べていたスイが尋ねる。


「見て説明を受けるのです。実際に見てみないとわからないことも多いですから」

「大変であるなー」


 スイはあたしのコップに魔法で水を入れてくれる。


「スイちゃんありがと、ほんとうまいな?」

「えへへ〜」


 スイの水はとてもおいしいと伝えたら、スイはとても喜んでくれた。

 そして、食事のとき、いつも魔法で水をついでくれるのだ。


「リディアもスイの水を飲むのである!」

「ありがと。私も同行するのよ。ディディエ男爵の後ろにはヴァロア大公がいるって示さないと」

「そっかー。ねーさまも大変だな?」


 視察には領主が見て、状況を把握し、報告が正しいか調べるためだけに行う訳ではないらしい。

 領民に、主の姿を見せるという意味もあるようだ。


「視察には、うまにのっていく?」


 サラの領地は馬産地で、馬に乗る練習ができると聞いている。

 だからあたしは気になったのだ。


「馬車で行くの。乗馬はできるけど……あまり得意ではないから」

「私も得意ではありません」


 姉もマリオンも乗馬は得意ではないらしい。


「サラも、ママと一緒に視察にいく」

「あ、じゃあ、ルリアもいく!」

「サラとルリア様に同行していただけるのは、嬉しいのだけど……」


 マリオンは少し困った様子でダーウを見る。


「まだダーウは本調子ではないでしょう?」

「がふがふが……わふ?」


 肉の塊をバクバク食べていたダーウが顔をあげて、首をかしげた。


「そうですね。ルリアとダーウは今日は休んだ方が良いかもしれないわね」

「そっかー」

「ルリアちゃん。今日は家で大人しくるすばんしとく?」

「そだな? ダーウも休んだ方がいいかもだし?」

「わふう、がふがふ……わふばう! がうがふ」


 ダーウは「何して遊ぶ?」と言いながら、尻尾を振りつつ、肉を食べている。


「ダーウ、ごはんをたべるか、はなすかどっちかにしてな?」

「がふ? がふがふがふ」


 ダーウは食べることを優先することにしたようだ。


「ル、ルリアが……まともなことを……」

「ねーさま? どした?」

「ついこの前まで、しゃべりながら、両手にそれぞれパンと肉を握っていたルリアが……」

「そんなことしたことないが?」


 姉は誰かと間違えているに違いなかった。


「あ、マリオン。馬にのる練習していい?」

「サラも練習したい!」「ばうばう」


 ダーウまで練習したいと言っているが、ダーウは馬より大きいので乗れない。


「そうですね、ルリア様とサラのことお願いできますか?」


 マリオンは側にいた大公家の従者筆頭に尋ねた。


「お任せください、乗馬が得意な者もおりますので」

「ありがとう。ルリア様。サラ。従者の方の言うことを聞けますね?」

「きける!」「うん!」

「じゃあ、乗馬の練習しても良いです」

「やった〜」「わーい」「ばうばう〜」


 喜ぶ私たちに、姉が言う。


「ルリア、サラ。良かったわね」

「うん! ルリア、練習して馬にのれるようになったら視察についてく!」

「はい! サラも!」


 それから、いつ頃乗馬の練習をするか相談した。

 従者の人達も色々と忙しいのだ。


 まず従者二十人のうち七割の十四人は姉について行って護衛する。

 残りの六人は、あたし達と一緒に屋敷に残るのだが、彼らにも仕事がある。


 大公家との連絡もしないといけないし、行政的な業務もある。

 従者の中には、内政に精通した優秀なものもいるのだ。


 マリオンの助けになるよう、父がそういう者を選んだらしい。

 そんなことを兄と姉が、言っていた気がする。


「それじゃあ、お昼ご飯の後におしえてな?」

「よろしくお願いします」

「はい、ルリア様、サラ様。よろしくお願いいたします」


 あたしとサラはお昼ご飯の後、乗馬の練習をすることになった。

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