次の日の朝。あたしたちは、一日ぶりに食堂に行った。
「あら、ダーウ、もう体はいいの?」
「ばう〜ばう〜」
姉に声をかけられて、ダーウは嬉しそうに甘えにいく。
「ダーウは、昨日のお昼ぐらいにはげんきだった」
「寝ていたのは、念のためだもんね」
「夜には遊ぼうとするから大変だったのである」
仕方ないので、ダーウには絵本を読んで寝かしつけたのだ。
「そう、ダーウは回復が早いのね」
姉はダーウのことを優しく撫でる。その表情がいつもと違う気がした。
「むむ? ねえさま、つかれてる?」
「そんなことないわよ?」
ダーウもそんなことを言っていた。そして、倒れたのだ。
二泊三日の旅で疲れたうえに、父の名代として色々仕事をしているのだ。
疲れないわけがない。
「ねえさまも、あとで昼寝しよ?」
「大丈夫。ありがとう」
朝食時、あたしはパンを手でちぎって食べながら、マリオンに尋ねた。
「ねね、今日はなにするの?」
「いつも通りのお仕事ですよ。あ、ですが、今日は視察にも行きます」
「しさつ!? しさつってなにするの?」
「領地の様子を見て回るのです」
「みるだけであるか?」
パリパリに焼いたウインナーを食べていたスイが尋ねる。
「見て説明を受けるのです。実際に見てみないとわからないことも多いですから」
「大変であるなー」
スイはあたしのコップに魔法で水を入れてくれる。
「スイちゃんありがと、ほんとうまいな?」
「えへへ〜」
スイの水はとてもおいしいと伝えたら、スイはとても喜んでくれた。
そして、食事のとき、いつも魔法で水をついでくれるのだ。
「リディアもスイの水を飲むのである!」
「ありがと。私も同行するのよ。ディディエ男爵の後ろにはヴァロア大公がいるって示さないと」
「そっかー。ねーさまも大変だな?」
視察には領主が見て、状況を把握し、報告が正しいか調べるためだけに行う訳ではないらしい。
領民に、主の姿を見せるという意味もあるようだ。
「視察には、うまにのっていく?」
サラの領地は馬産地で、馬に乗る練習ができると聞いている。
だからあたしは気になったのだ。
「馬車で行くの。乗馬はできるけど……あまり得意ではないから」
「私も得意ではありません」
姉もマリオンも乗馬は得意ではないらしい。
「サラも、ママと一緒に視察にいく」
「あ、じゃあ、ルリアもいく!」
「サラとルリア様に同行していただけるのは、嬉しいのだけど……」
マリオンは少し困った様子でダーウを見る。
「まだダーウは本調子ではないでしょう?」
「がふがふが……わふ?」
肉の塊をバクバク食べていたダーウが顔をあげて、首をかしげた。
「そうですね。ルリアとダーウは今日は休んだ方が良いかもしれないわね」
「そっかー」
「ルリアちゃん。今日は家で大人しくるすばんしとく?」
「そだな? ダーウも休んだ方がいいかもだし?」
「わふう、がふがふ……わふばう! がうがふ」
ダーウは「何して遊ぶ?」と言いながら、尻尾を振りつつ、肉を食べている。
「ダーウ、ごはんをたべるか、はなすかどっちかにしてな?」
「がふ? がふがふがふ」
ダーウは食べることを優先することにしたようだ。
「ル、ルリアが……まともなことを……」
「ねーさま? どした?」
「ついこの前まで、しゃべりながら、両手にそれぞれパンと肉を握っていたルリアが……」
「そんなことしたことないが?」
姉は誰かと間違えているに違いなかった。
「あ、マリオン。馬にのる練習していい?」
「サラも練習したい!」「ばうばう」
ダーウまで練習したいと言っているが、ダーウは馬より大きいので乗れない。
「そうですね、ルリア様とサラのことお願いできますか?」
マリオンは側にいた大公家の従者筆頭に尋ねた。
「お任せください、乗馬が得意な者もおりますので」
「ありがとう。ルリア様。サラ。従者の方の言うことを聞けますね?」
「きける!」「うん!」
「じゃあ、乗馬の練習しても良いです」
「やった〜」「わーい」「ばうばう〜」
喜ぶ私たちに、姉が言う。
「ルリア、サラ。良かったわね」
「うん! ルリア、練習して馬にのれるようになったら視察についてく!」
「はい! サラも!」
それから、いつ頃乗馬の練習をするか相談した。
従者の人達も色々と忙しいのだ。
まず従者二十人のうち七割の十四人は姉について行って護衛する。
残りの六人は、あたし達と一緒に屋敷に残るのだが、彼らにも仕事がある。
大公家との連絡もしないといけないし、行政的な業務もある。
従者の中には、内政に精通した優秀なものもいるのだ。
マリオンの助けになるよう、父がそういう者を選んだらしい。
そんなことを兄と姉が、言っていた気がする。
「それじゃあ、お昼ご飯の後におしえてな?」
「よろしくお願いします」
「はい、ルリア様、サラ様。よろしくお願いいたします」
あたしとサラはお昼ご飯の後、乗馬の練習をすることになった。