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107 魔獣達と畑を見て回ろう



 魔猪と魔鼠達がおとなしくなると、ミナトは地面に落ちた魔梟に駆け寄った。


 その魔梟はとても大きく、翼を広げた長さ、翼開長は二メートルに近いほどだ。

 全長、つまりくちばしの先から尾羽の先端までは一メートルほどもある。


「大丈夫?」


 ミナトは自分より大きな魔梟を抱きあげる。

 魔梟は重いが、ミナトは【剛力】のスキルを持っているので余裕だった。


「…………」

 魔梟は落下の衝撃で気を失っていた。


「大丈夫ですか? 治癒魔法をかけましょうか?」


 魔梟の落下地点は、アニエス達からほど近い場所だった。

 アニエスも近づいてきて、診察する。


「ぶぼ」「きゅ」「ちゅ」


 魔猪達も、離れた場所から心配そうに気絶した魔梟を見つめていた。


「僕もフクロウさんの怪我をみるね!」


 ミナトも素早く診察した。


「えっと、怪我は……なさそうにみえる? アニエスは?」

「そうですね、怪我はないです。びっくりして気絶しただけですね」

「よかったよかった。みんな! びっくりして気を失っただけだよ!」


 ミナトは魔猪達に大きな声で報告する。

 怪我がなかったのは、タロとフルフルが体で受け止めて、衝撃を和らげたおかげだろう。


「ぶぼ~」「きゅ~」「ちゅ~」

 魔猪達はほっとした様子で胸を撫でおろしていた。


「じゃあ、まだ話し合いの最中だから、まっててね!」

「ああ、気をつけるんだぞ」

 ジルベルトに頭を撫でられたミナトは魔梟を抱っこしたまま魔猪達の元へと歩いて行く。


 魔猪達の元に移動すると、タロが魔梟をベロベロ舐めた。


「わふ~わふ」

「……フホ! ホホゥ!」


 タロに舐められて、目を覚ました魔梟は、動転して暴れようとした。

 だが、ミナトが優しく押さえていたせいで、暴れられなかった。


「あばれないの!」

「ほほほぅ?」

 魔梟は混乱していた。


 なぜ、こんな小さな人族に抱きしめられているだけなのに、振りほどけないのか。

 まさか、この小さな人族は自分より遥かに強いのか。


「怪我はないからね? 空にいるのに止まれとか言ってごめんね?」

「ほ、ほう」


 魔梟は「それは……いいけど」とつぶやくように言う。

 魔物である魔梟は、自分より遥かに強い者には、逆らいがたかった。

 だから、非常に素直になっていたのだ。


「りゃ~」


 混乱覚めやらぬ魔梟に、心配したルクスが優しく声をかける。

 ミナトに抱っこされていたルクスは、肩の上に移動していたのである。


「りゃむ~」


 肩の上にいるルクスと、抱っこされた魔梟の顔はとても近い。

 魔梟はまじまじとルクスを見る。とてもかわいいと感じた。


 こんなにかわいくて、小さく幼く弱い存在に心配されて、魔梟は少し恥ずかしかった。

 いや、恥ずかしいだけではない。


 自分より小さく弱く幼いのに、逆らいがたく感じ、敬意を払いたくなってしまう。


「……ほぅ」


 魔梟はルクスに向けて「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」とささやいた。


「りゃむ~」


 返事を聞いてルクスは嬉しそうに魔梟の頭を優しく撫でた。

 いつもミナト達に頭を撫でてもらって、嬉しかったからルクスは魔梟を撫でたのだ。


「ほぅ」


 ルクスに撫でられて、魔梟はとても嬉しかった。

 その感情も魔梟を混乱させた。どうしてこんなに嬉しいのだろうかわからなかった。


「うん、大丈夫っぽいね! よかったよかった」

 そう言って、ミナトは魔梟を地面にそっと下ろす。


「はい、魔梟さんも、みんなも一緒に畑を見て回ろう!」

 ミナトはゆっくりと歩き出す。


「わふわふ~」

 タロはミナトのすぐ近くを尻尾を振りながらついて行く。


「ぶぼ――」

 先ほど、先頭で突っ込んできた魔猪が「どうしてそんなことを」と言いかけたが、

「りゃ~」

 ミナトに抱っこされているルクスを見て、びくりとすると大人しくなった。


「大丈夫! さっきも言ったけど、力尽くで追い出したりしないから! ついてきてね」

「ぶぼぼ……」「ちゅちゅぅ……」


 魔猪も魔鼠も「わかりました」と大人しく従った。


 新たにやってきた魔猪も魔鼠も、ルクスを見てかわいいと思った。

 それだけでなく、なぜか逆らいがたく感じたのだ。


 ルクスは、ミナトが先ほど発動した【古代竜の威】のスキルを生まれつき持っている。

 いや、スキルと言うより、生まれついての種族特性といった方が正確かもしれない。


 ピッピの【炎無効】やフルフルの【毒無効】と同じである。


 古代竜を前にすると、生物、特に本能で生きている動物ほど逆らいがたく感じるのだ。


「ふんふーん」「りゃむりゃーむ」


 ミナトは元気に畑の中を歩いて行く。ルクスはそんなミナトの肩の上で機嫌良く鳴いていた。


 その横をタロが歩き、魔猪達はその後ろをついて行く。


「あ、これくさってるけどカボチャだ! あまったの?」「りゃむりゃむ」

「ぶぼぼ~」

「そっか、いくつか残すと、来年もはえてくるからかー、頭いいね」「りゃむ」


 傷んだカボチャやキャベツなどが転がっている畑があった。


「なるほどー。今年、カボチャの実は、どのくらいなったの?」

「ぶぼぼぼぼ」

「え? 三十個もなったんだ! すごい」「りゃ~」

「ぶぼ~」「きゅきゅ」「ちゅ~」


 ミナトに褒められて、魔猪達は嬉しそうだ。


「毎年、三十個ぐらいとれるの?」

「ぶぼ~」

「そっか、去年はもっととれたんだね。……なるほど~」「りゃむ~」「わふ~」


 ミナトは首をかしげて少し考える。ルクスとタロも一緒に首をかしげていた。


「よし! 気になることがあるから、ちょっと待ってて?」

「ぶぼぼ」


 ミナトは魔猪達を待たせると、アニエス達の元へと走った。

 アニエス達とコボルト達は、ミナトから少し離れたところをついてきているのだ。







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