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108 廃村の畑



「ミナト、どうしました?」

 戻ってきたミナトにアニエスが笑顔で尋ねる。


「えっとね、あの辺りがカボチャ畑らしいのだけど」

「ほうほう?」「カボチャ畑ですと?」


 コボルト達が興味を持ったようだ。


「コボルトのみんなだったら、あの畑だと、どのくらいとれそう?」

「収穫量ですな? うーん。三百程度かと」

「いや、四、五百はいけると思いますぞ?」

「いやいや、土地の質も見ていないのに、軽はずみなことを言うでない」

「確かに、よほど痩せていたら、三百程度かもしれんが……」

「なるほど~」「わふ~」「りゃむ~」


 コボルト達の話を聞いたミナトは笑顔になった。

 ルクスとタロはミナトが笑顔になったので嬉しかった。


「ミナト、何かいい案が思いついたのか?」

 ジルベルトに尋ねられて、ミナトは少し考えた。


「……えっとね。魔猪さん達は、今年カボチャを三十個収穫できたみたいなんだ」

「ほうほう。三十個」

「去年はもっと多かったみたいだけど」

「ほうほう。収穫量は減りつつあると」

「あのね、カボチャを三十個、魔猪さん達にあげることってできる?」

「三百個のうちの三十個ですか? そのぐらいでしたら、可能だと思いますが……」

「よかった!」


 ミナトは魔猪達に一定量の収穫物を渡して、落とし所にしようと考えていた。


「魔猪さん達に雑草とか害虫とかを食べてもらう代わりに、できた物を分けるってのはどう?」

「神殿に払う税と賃貸料がありますからな。一割程度であれば。分けられます」

「そっか、じゃあ、待っててね!」「りゃむ!」「わふ!」


 またミナトは走って魔猪達の元へと戻る。


「相談してきた。他の畑も見て回ろう!」

「ぶぼー」


 ミナトたちはゆっくりと畑を見て回る。

 カボチャの畑の他に、キャベツの畑やトマトの畑などもあった。


「やっぱり収穫量はおちてるんだねー」「りゃむー」「わふー」

「ぶぼ~」

「土地がやせてきているんじゃなくて、種をまけないからかも」

「きゅ!」

「種をまくには、つかむ手がないと難しいものね?」

「ちゅ~」


 畑を見て回る間に、ミナトと魔猪達は少し仲良くなった。


「あ、果樹園もある」

「ぶぼ~」

「リンゴだね。あとブドウ? あっちにあるのは柿?」

「ほっほう」


 果樹園に近づくと、木の陰から巨大な魔山羊が現われる。

 体高は一・五メトル近くあり、魔猪よりも大きいぐらいだ。


「魔山羊さん、こんにちは。僕はミナトで、この子はタロで、この子はルクス」

「わふ」「りゃむ」


 ミナトは丁寧に自己紹介した。


「めぇぇぇ」

 魔山羊は「何しに来たの?」と鳴きながら、近づいてきた。


「コボルトさん達が、この村を使いたくて、相談していたんだよ」

「めぇぇ」

「力尽くで追い出したりはしないよ。話し合いで、みんな納得できたらいいなって」

「めええぇぇめぇ」


 魔山羊は「そんな都合のいいことなどない! 我らを追い出す気だな!」と警戒する。


「じゃあ、魔山羊さんも一緒に相談しよう。みんな損しない方がいいからね?」

「めぇ」

「果物の収穫量は減ってないの?」

「ぶぼ~」

「やっぱり減ってるのかー。肥料とかのせいかな?」

「きゅきゅ」

「あ、病気とかで枯れたりしたのもあるんだ。ふむ~」


 考えるミナトを、魔猪達はじっと見つめる。


「えっとね、コボルトさん達は農業が得意なんだ。だから畑を任せたら収穫量が増えるはず」

「ぶぼ」

「収穫物の中から、これまでとあまり変わらない量を、みんなに渡すのはどうかな?」

「きゅ~?」

「ほんとに、できるのって? 多分できると思う」

「めえ~めえ?」

「そりゃ、多分だよ、天気とかで全然とれない年もあるし」

「ほほう」

「えっとね、みんなにはこれまで通り雑草を取ったり害虫を食べたりして欲しいんだ」


 そうすれば、コボルト達も助かるし、収穫量が増えれば、魔猪達の取り分も増えて助かる。


「その方がきっとみんな助かるよ?」

「ぶぼぼ~」「きゅ」「ちゅ~」「ほほう」「めえ~」


 魔猪達は相談し始めた。


「それで、みんなには害獣とか悪い人を追い払って欲しいの」

「ぶぼ~」

「えっとね、分け前はできた物の一割ぐらいでどうかな?」

「めえ!!」


「少ないかな? でも、コボルトさん達は税金とか払わないと何だよ? 肥料も買わないとだし」

「きゅきゅ~」

「それに毎年、とれる量が減ってるんでしょ? このままだとあと何年かでとれなくなるよ?」

「ちゅ~」


「うん、コボルトさん達は農作業が得意だから、沢山とれるようになるはずだよ」

「ぶぼ~ぼ~」

「正確な収穫量が知りたいの? それなら、コボルトさん達に来てもらう? 僕より詳しいし」


 ミナトがそう言うと、魔猪達はしばらく話し合った。


「ぶぼぼ~」

「ありがと! じゃあ、みんな呼ぶね」


 そして、アニエス達とコボルト達を、近くへと呼んで直接交渉することになった。

 ミナトは、アニエス達とコボルト達に事情を説明する。


「ということで、直接魔猪さん達と話し合ってね。大丈夫、僕が通訳するからね!」

「わかりました。ミナトにここまでお膳立てしてもらったのです。がんばりますぞ」

「ありがとうございます、ミナト」


 コボルト達はミナトに心から感謝していた。


「お礼はまだまだ早いよー。うまくいくかわからないし」


 そういうと、ミナトはジルベルト達を見た。


「あ、ジルベルト、ヘクトル、それにコリンも剣から手を離してね? みんなが怯えるからね?」

「ああ、わかった。わかってはいるが……不安になるな。魔猪は強いんだよ」

「まあ、私には盾がありますからな……」

「どうしても不安になってしまうです」


 少し緊張しながら、ジルベルトとヘクトル、コリンは剣の束から手を離す。


「サーニャは矢をしまってね。アニエスとマルセルは杖を持っててもいいけど……」

「わかってるわ」

「はい。驚かせるような振る舞いは控えますね」

「杖はしまわなくていいんですね」


 そういって、マルセルは少し苦笑する。


「だって、杖は恐ろしくなさそうだし。……コトラは……大丈夫かな」

「シャー……にゃ?」


 コトラは「え? なんで?」というと、背中を丸めたまま、首をかしげる。

 コトラとしては、背中を丸めて体を大きく見せ、魔猪達をびびらせようとしていたのだ。


 だから、ミナトに「恐ろしいから背中を丸めるのをやめてね」と言われるのを待っていた。

 なにせ、立派な虎であるコトラは恐ろしすぎるのだから。

 だが、背中を丸めたコトラはかわいすぎた。


 魔猪も、魔狸も、魔梟も魔山羊も怖がっていない。

 猫科が天敵であるはずの魔鼠ですら、そんなに怖がっていなかった。


「……みんな警戒してないから、コトラぐらいは警戒してないと舐められるからですよ」

「んにゃー、ふしゃーー」


 コトラは「わかった!」と言って、気合いを入れ直して、毛を逆立てて背中を丸めた。

 全員が揃うと、ミナトが張り切って言う。


「じゃあ、みんなのことを紹介するね! こちらがコボルトの村長さんで~」


 ミナトは、コボルト達を順番に全員紹介し、それからアニエス達も紹介する。

 それが済むと、やっとコボルト達と魔猪達の話し合いだ。


「僕が通訳するね!」

「ぶぼぼぼ~」

「収穫量はどのくらいになりそう? だって」

「この規模の畑ならば――」


 話し合いは穏やかに進む。

 最初、緊張していたコボルト達も、すぐに打ち解けていった。


 警戒していたジルベルト達もすぐに、警戒を解いた。

 それほど、魔猪達から敵意の類いを全く感じなかったからだ。


 しばらく話し合い、コボルト達は魔猪達に収穫量の十分の一を渡すことに決まった。

 そして、魔猪達は農作業を手伝うことになった。


 条件面で折り合った後、魔猪が言う。

「ぶぼぼぼ~」

「え? 偉い魔物がいるの?」

 魔猪は、この辺りのことを任されているが、この辺りのぬしは別にいるという。


「一応、正式に契約を結ぶ前に、主に報告して許可を取らないと何だね!」

「めぇぇ~」

「わかった! 主に会いに行こう!」


 そういうことになった。







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