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109 主に会いに行こう



 主に会いに行くのは、ミナト達とアニエス達、そして魔猪達だ。

 コボルト達は、廃村に残って、家屋や畑の状況を調べることになった。


 ミナトは魔猪達に尋ねる。


「主がコボルトさん達と協力したらだめ! って言ったりしない?」

「ぶぼぼ~」


 この廃村に関しては魔猪達が全面的に任されているという。

 それゆえ、勝手に決めても問題はないらしい。


 だからといって、主に報告しないのは筋が通らない。そう魔猪達は考えているようだ。


「全部任されてるなら、主はなにしてるの?」

「ちゅちゅ~」

「あ、もめたときとか問題が起こったときに、主に頼むんだね」


 どうやら、主は裁判権を持つ領主のような役割のようだ。


「ほほほぅ」

「それで、できた作物を主に分けるんだ。へー、人族の税金みたいなものかな」

「ぶぼ~」


 主の話を聞いた後、ミナト達は魔猪達と一緒に廃村の外へと向かった。


 藪の中を進む大きな魔猪の後ろをミナト達はついて行く。

 すると、廃村を囲む柵が壊れている場所があった。


「あ、ここから出入りしてたんだね~」「わふ~」

「ぶぼ~」


 体の大きな魔猪や魔山羊も通れるほど、大きな破損だった。

 一番大きなタロですらギリギリ通れるほどだ。


「隠してあるんだね」


 柵の壊れた部分は、木々や草で隠して目立たないようになっていた。


「ちゅ~」


 ミナト達が穴を通ると、魔狸と魔鼠が器用に穴を隠した。


「後でここにも扉をつけないとだね」「わふわふ」

「めぇ~」


 魔猪の後ろを魔山羊が歩き、その後ろを魔狸と魔鼠がついて行く。

 上空には魔梟が飛んでいる。


 主のところに行くのは、いつも各種族から一頭、一匹、一羽ずつらしい。


 魔猪の横をミナトとコリンが歩き、その近くをタロが歩く。

 そして、ミナトの頭の上にはルクスが、コリンの肩の上にはコトラが乗っている。

 フルフルとピッピはタロの背中の上だ。


 アニエス達は、ミナトのすぐ近くを歩いている。


「ねえねえ、主ってどんな魔物なの?」「りゃ?」

「ちゅ~」


 魔鼠は、主はとても強くて偉大な魔物だと言う。


「きゅきゅ」


 魔狸はとても優しくて、慈悲深くて偉大だという。


 それをミナトはアニエス達に通訳して伝えた。


「ほう? ずいぶんと慕われているんだな」

 ジルベルトが感心すると、マルセルは、

「魔獣の異種族同士が協力しているのはなぜかと思いましたが、強力なリーダーがいたのですね」

 納得した様子で頷いた。


「そうね、聖獣ならともかく、魔獣が仲良くしているのは珍しいわよね」

 狩人で野生の魔獣に詳しいサーニャも言う。


「ですが、異種族の魔獣をまとめあげる魔物など、聞いたことがありません。サーニャは?」

「私も聞いたことないわよ」

「よほどレアな魔物なのかもしれませんね。例えば年を経た魔物が――」

「そもそもの前提として、温厚かつ知能が高くないと――」


 マルセルとサーニャは、主がどんな種族なのか楽しそうに推理しはじめた。

 それを聞きながら、ミナトは魔猪達に尋ねる。


「主はあの村に住んでないの?」「りゃむ~?」

「ぶぼぼ」「めぇぇ~」

「そっか、山の方に住んでるんだね。しょっちゅう会いにいくの?」「りゃ~?」

「ぶぼ~」


 魔猪達は最近は主に会えていないという。

 夏にカボチャを持って行ったときも会えなかったという。


「ちゅちゅ」「きゅ~」


 魔鼠は、きっと主の支配している別の場所で問題が起こったのだろうと言う。

 魔狸は、主は立派な方だから、他の者からも助けを求められているに違いないと言う。


「そうなのかー」「りりゃ~」

「……ぶぼぼ」


 決められた場所に向かって呼び出すと、いつもは主がやってきてくれるらしい。

 だが、ここ数か月は、訪れて呼び出してもやって来てくれないようだ。


「じゃあ、今日も会えないかも?」「りゃ?」

「めぇ~……」


 会えなかったら、また出直すしかないという。


「そういうことって、これまでにもあったの?」

「めぇぇ」

「ないのかー。心配だね。……病気じゃないといいんだけど」

「ぶぼ」「きゅ」「ちゅ」「めぇ」


 魔猪達も主のことが心配らしい。


「病気だったら、僕とアニエスが治せるから大丈夫だよ!」「わふわふ!」

 そんな会話をしながら、ミナトは魔猪についていく。


「山の方に行くんだね?」

「ぶぼ~」


 魔猪達は氷竜王の山へと近づいていく。


「昨日まで、僕たちはあの山にいたんだよー」「ばうばう~」

「ぶぼ?」

「嘘じゃないよー。凄いでしょー」「わふわふ~」

「めぇ~」


 魔猪達がミナトを尊敬の目で見る。それほど氷竜王の山は恐ろしい場所なのだ。


「ぶぼぼ~」

「ここか~」


 魔猪がここが主と会う場所だと言った場所は、街道から離れた森の中だ。

 氷の大精霊の住処から、徒歩で二十分ほどかかる距離だ。


「ほほっほう!」

 すぐに魔梟が地面に降りてくる。


「ねえねえ、この台みたいなのなに?」


 木々の間に、およそ高さ二メートル、直径十メートルの石でできた円柱の台がある。


 表面はすべすべしていて、ひんやりしている。

 夏に、この台座の上に横たわれば、きっと涼しくて気持ちいいだろう。


「ぶぼ~」

「あ、主の椅子なんだ。主は大きいんだねぇ」

 きっと魔猪より大きいに違いない。


「これは人工物ですね。古代の遺跡かもしれません。ん? この辺りは魔導具で――」

「メェェ!」


 台を調べようと近づいたマルセルを魔山羊が止めた。


「マルセル、主の椅子だから、勝手に触れるのはやめてほしいんだって」

「これは失礼しました」

「めぇ」


 マルセルは素直に頭を下げ、魔山羊もあっさり謝罪を受け入れた。


「それで、どうやったら、主が来てくれるの?」

「きゅきゅ~」


 魔狸が見ててというと、魔猪、魔狸、魔鼠、魔山羊が台の四方に移動する。

 ミナト側に魔狸、その対角線上に魔猪、右側に魔鼠、左側に魔山羊という配置だ。


「魔梟さんは?」

「ほうほう」

「そなんだ。四頭、えっと、二頭と、二匹と一羽のうち四人いればいいのかな?」

「頭ではないかもしれないですが、人では絶対ないですよ」

「そっか。マルセル、なんて数えればいいの?」

「四者とでも言えばいいでしょう」

「そっかー」


 どうやら、魔猪達、四者の代わりに魔梟が入ることもあるらしい。


「ぶぼぼ」


 魔猪の合図で、四者が一斉に台の魔導具となっている部分に前足で触れた。

 すると、ぼんやりと台が光り出す。


「おお、光った! 四者同時にふれると動くんだね。すごい」「わふ~」

「魔導具が作動しましたね。主とは一体何者でしょう。古代遺跡を使いこなすとは……」

「マルセル。主は魔物だと思っていたが、魔導師なんじゃないか?」

「可能性はありますね。魔物だとしても、魔導師の魔物でしょう」

「魔導師の魔物って、死霊王リッチとか?」

 サーニャがそう言うと、アニエスが困った表情になる。


「それは困りますね」

「死霊王は至高神様に仇なす存在ですからな」


 ヘクトルも渋い表情を浮かべる。


「へ~」「わふ~」


 ミナトとタロは、死霊王っていうのは至高神の敵だったんだなと思った。


 次の瞬間、辺りが暗くなり「ドオオン」という音とともに台の上に巨大な主が降り立った。

 その衝撃で地面が揺れた。







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