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襲撃-危機の根源-

『…不覚っ!マスター、話しは後ですっ!直ぐに此処を離れないとっ!』

「…分かったっ!」

 すると、相棒は焦りだしたので素早くオーダーウィンドウの一番上にある『騎乗』を選択した。すると、いつものように自分の足元に白い魔法陣が展開し、俺の身体は素早く宙に浮き上がる。

 そして、魔法陣は俺を相棒の首へと運んだ後消えた。…本当、便利なシステムだと思う。

『行きますよっ!』

「ああっ!」

 感心しつつ、いつの間にか現れた白く光る手綱を握ると相棒は勢い良く翼を羽ばたかせ、宙を舞い始めた。

 直後、相棒は素早く洞窟を飛び出し空高くへと上がる。…その最中、俺はとんでもないモノを見てしまう。

「…なんだ、あれは?」

 …それは、途轍ない大きさの穴だった。それがどういう訳か、広大なジャングルの真ん中に出来ていたのだ。

 しかも、その大穴からはいかにもヤバい感じのする真っ黒なエフェクトが、噴煙のように空へと昇っていたのだ。

 あんな大穴がこのマップにあったなんて、俺は知らない。…ましてや、あの『黒い煙』が此処で起きる筈がないのだ。


「…っ!?」

『ちいっ!マスター、高速機動を行いますのでしっかり掴まっていて下さいっ!』

「分かったっ!」

 信じられない状況に混乱していると、穴から出ている黒い煙がまるで手のようになった。…そして、信じられない早さでこちらに手が伸びて来た。

 すると、相棒はそう言ったので俺は身を手綱をしっかりと握りしめ身を屈めた。

「良いぞっ!」

『行きますよっ!』

 合図を出すと、相棒は高速機動に入る。…だがそれでも、黒い手は俺達を正確に捕まえようとして来た。

「…はあっ!?」

『なんだとっ!?』

 すると、まるで痺れを切らしたように後ろから不吉な音が聞こえた。…それは、敵の増援が来た時に聞くSEにとても良く似ていた。

 恐らく、黒い手が増えたのだろう。…その予想は残念な事に的中してしまい、不意に目の前に複数の大きな手が現れた。

『此処でやられる訳にはっ!』

「…っ!

 -『セイントシールド』っ!」

『…は、はいっ!』

 相棒が諦め掛けるなか、俺は一か八か防御の指示を出す。すると、相棒はフルパワーで白い膜のような防御魔法を展開した。

『……え?』

「…ふう~」

 直後、複数の黒い手はシールドごと俺達を捕まえようとするが、黒い手はシールドに触れた瞬間煙のように散っていく。…それを見た相棒はポカンとし、俺はホッとした。

 そして、そのまま俺達はジャングルを抜け隣のマップへと逃れる事が出来た。


『…ま、まさか、守りの魔法が通用するとは思いもしませんでした』

「…試さなかったのか?」

『…試そうした矢先、他の者達が捕まったのを見てしまいまして』

 すると、相棒は重要な情報を口にした。…このゲームは、オフラインな上に一人しかプレイ出来ないので、『他の者達』とはNPCの事を指している。

 つまり、あの黒い手はかなり強力な捕獲能力を持っているという事だ。…そんな恐ろしいモノに、俺は一つだけ心当たりがあった。

「…とりあえず、移動しながら『話の続き』を頼む。

 ああ、それと目的地はファーストエリアのドラゴンパレスだ」

『イエス、マスター。

 それでは、改めて今起きている異変についてお話致します-』

 相棒がそう言うと、目の前にムービーウィンドウが展開した。…基本的に、イベントの導入とかは全部ムービーなのだ。

「……マジか」

 直後、ムービーが始まりそれと共に相棒が語り始める。…そして、直ぐに自分の予想が的中していた事を知った。


 -ムービーの内容はこうだ。…なんと、俺達が倒した筈の『混沌の龍』がどういう訳か復活しようとしているのだ。

 しかも、厄介な事に『混沌の使徒』と呼ばれるラスボス直属のボス達は、既に一体復活しているというのだ。

 更に、ラスボスを復活させようとしている組織がいるようなので、しかもかなり大きな組織らしい。

そして、連中は何故か龍騎士付きのドラゴンを血眼になって探しているようで、見つかってしまったコンビはさっきの手の本体である『混沌の使徒』に、執拗に狙われるようだ。…確かに『あれ』が相手なら、並みのコンビは直ぐに捕まってしまうだろう。


「-……は?」

 そんな事を考えていると、現在起きている被害が流れ始めた。…それはとても、簡単に信じる事は出来なかった。

「…おい、なんだこれは?」

『…信じられぬのも、無理はないかと。

 私も、実際に目の当たりにするまでは同じでしたから』

 思わず相棒を疑ってしまうが、彼は予想していたようで穏やかに話す。…つまり、ムービーに映る『向こうの世界』の被害の様子は本物だという事だ。

『…それに、先程マスターはあちら側から落ちて来たのですよ?

 いやあ、今までで一番驚きましたね』

「…マジで?…なるほど。通りで、あんな所で目が覚めた訳だ。

 …いや、良くキャッチしてくれた」

『…それなのですが、実は自力ではなく何者かが教えてくれたのです』

 感謝を伝える為に首を撫でてやると、相棒はそんな事を言った。…やはり、相棒も何者かに導かれたようだ。


『…マスター?』

「…いや、実は俺も何者かに『この世界に来て下さい』と頼まれたんだ」

『…なんと。…そうか、それでドラゴンパレスに向かうのですね?』

「正解」

 相棒の確認に、俺は頷く。…ドラゴンパレスとは、ゲームを始めたプレイヤーが一番最初に訪れる場所だ。

 そこで、プレイヤーは相棒ドラゴンとマッチングするのだが、それをナビしてくれる存在が居る。

 -その名は、『創世龍の巫女』。要するに、このゲームで一番強いドラゴンの従者だ。しかも巫女にはレベルが設定されており、なんとラスボスと同じ強さなのだ。

 だから、巫女の居るその場所はかなり安全かもしれない。…けれど、一つ確認しなくてはならない事がある。


『…巫女は、無事でしょうか?

 レターワイバーンの運んだ手紙の様子は、かなり慌てていましたが』

「…仮に無事だったとしても、味方かどうかは分からない。

 なにせ、俺達が再会した直後に敵が襲ってきたんだからな」

 …そう。もしかしたら、ドラゴンパレスは敵の手の中に堕ちているかもしれない。そして最悪なシチュエーションは、巫女が操られているか無理矢理協力させられているかして、こちらの動きが敵に筒抜けになるというものだ。

『…っ!マスター、間も無くファーストエリアに入ります』

「…ああ。

 ヴァイス。念のため、スビオノ手前で隠蔽を使え」

『イエス、マスター』

 そうこうしている内に、俺達はゲーム序盤エリアに入ろうとしていた。なので、先んじて相棒に指示を出しておく。…さあ、果たして始まりの場所で何が待ち受けているのだろうか?

 俺は最悪の事態を想定しながら、少しずつとある『決意』を固めていった-。


『-セイントインビジブル』

 それから程なくして、俺達は最初の町までたどり着いた。…道中は、本当怖いくらい順調だったので少し不安になる。

 そして、指示通り相棒は透明化のバリアを展開する。

 これで、比較的安全にドラゴンパレスを観察する事が出来るだろう。…そして、数分後には目的地が見えてきた。

『…見た所、かの場所は無事のようですね』

「油断は禁物だ。もしかしたら、俺達を油断させる為に敢えて無事なように見せ掛けているだけかも」

『…なるほど。…では、このまま上空を旋回しつつ中を視ます』

「頼む」

 すると直ぐに、遺跡風の建物の上空に到達し相棒は自らが口にした行動を始めた。…何をしているかというと、相棒はパレスの中を特殊なスキルで観察しているのだ。

 まあ、本人が言うには『オーラ』しか視えないようだが、正直かなり優秀なスキルだろう。

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