「…どうだ?」
『…今のところ、混沌の気配は視えません』
「…なら、降りる体勢に入るか。
ただし、隠蔽はしばらく展開だ」
『…イエス、マスター』
指示を聞いた相棒は、ゆっくりと地面に降り始める。…そして、時間を掛けて地面に降り立つと俺は『降りる』コマンドを選択した。
「…さてと。
-それじゃあ、『アレ』をやるか」
『イエス、マスター』
俺がそう言うと、相棒は一旦隠蔽を解除しお腹の辺りに魔法陣を展開した。なので、俺はそこに手を伸ばしつつコマンドをタッチした。
-直後、相棒は光に包まれそして急速に縮んでいく。…そして光は消え、相棒が居た場所には金髪のイケメンが佇んでいた。
まあ、要するにドラゴンは人に変身する事が出来るのだ。ただし、ステータスが半分になるデメリットがあるが。
「…良し、行こう」
「イエス、マスター」
すると、相棒は何も言っていないに先頭を歩いてくれた。…本当、頼りになる相棒である。
「…中も、大丈夫そうですね」
「…ああ」
久しぶりにパレスに入るが、中は初めて見た時と同じく美しかった。…つまり、見た感じは襲撃を受けていないのだ。
「…っ!…おい、ちょっと待て?」
「…どうなさいました?」
しかし、直ぐに俺はパレスの変化に気付いてしまう。…具体的には、パレスの奥にある巨大な門が大きく変化していた。
「…なんで、門が消えて階段なんてモノがあるんだ?」
その門は、ゲーム開始時にプレイヤーが出て来る筈のオブジェクトだ。…だが、どういう訳か門は消え代わりに上に行く為の階段が出現していた。
「…つまり、マスターはあそこにあった筈の門から出て来たと。そして、何故か門は消え見慣れない階段になっていると。
…これは、マスターの予想が当たっているのやも知れませんな」
「…とりあえず、行ってみるしかないだろう」
「…ですね」
俺達は改めて気を引き締め、階段に近付いていく。そして、いよいよ階段を上りはじめた。
「…構造的に、二階は無かったよな?」
「…ええ。…一体、何処に向かっているのやら」
慎重に階段を上っていると、やがてゴールが見えてきた。それと同時に、階段の先の通路から優しい光のエフェクトが漂ってくる。
「…なんと、神聖なオーラでしょうか」
「……っ」
俺達が階段を上り切ると、通路の奥にある荘厳な造りの巨大な門が開いていく。…まるで、俺達の到着を待っていたかのようだ。
「「-…っ!」」
俺達は意を決して、門をくぐる。…すると中には、目的の人物が床に跪いて祈りを捧げていた。
「……あ」
「…マジかよ」
だから、俺達は巫女が祈りを捧げている存在に気付いた。…まさか、こんな場所に居るとは思わなかった。
『…グルア』
「…はい、主よ。
-ようこそおいで下さいました」
驚いていると、その巨大な龍は巫女に何かを伝える。それを聞いた巫女は頷き、そっと立ち上がりこちらに声を掛けた。
「まずは、我が主の呼び掛けに応えて頂き誠に有り難うございます」
「「……」」
『…グルア?』
「『どうかなさいましたか?』…と、主は申しております。
…っ!…我が主よ。どうやらお二人は、主の身体のお加減を気に掛けておられるようです」
巫女はこちらの心配そうな顔を見て、心情を的確に主に伝える。…そう。この世界の超重要な存在である『創世龍』は、見るからに弱っている感じだった。
『…グルア。…グルウ』
「『…なんと。やはり、見抜かれてしまいましたか』…と、主は申しております。
…我が主よ。どうか、私に説明の許可をお与えくださいませ」
『…グルア』
「…ありがとうございます。
それでは、僭越ながら私が主に何が起きたのかをご説明致します-」
すると、またムービーウィンドウが展開し直ぐにムービーが始まる。それに合わせて、巫女が語り始めた。…その内容は、こちらの予想通りだった。
-事の発端は、俺がゲームをクリアしてから少し経った頃に遡る。…ラスボスとの決戦の地である、『混沌の領域』の奥深くで小さな亀裂が生まれた。
突如、空に生まれたそれはゆっくりと広がっていくともに、混沌の龍が放つオーラのような漆黒の霧を放ち始めた。
やがてその霧は浄化された筈の領域を埋め尽くしていき、遂に混沌の尖兵が復活した。
当然、その時には領域を監視する者達と創世龍の命を受けた者達とが、事態の収拾に動いていた。…しかし、ここで更なる異変が起きる。
なんと、世界の上澄みたる彼らは復活した混沌の使徒によって、壊滅させられたのだ。
そして、僅かな生き残りを守る為創世龍は力の殆どを使い、彼らをパレスの付近まで転送したのだ。
「-…これが、我が主のお加減が優れない理由であり、今この世界に起きている新たな危機です」
「「……」」
説明を聞いた俺達は、何も言えなかった。…想像以上に、マズイ状況のようだ。まさか最終エリアのNPCと、設定上存在する『創世龍の守護者』の連合部隊が壊滅していたとは、思いもよらなかった。
正直、彼らの力をあてにしていたのでそれが借りないとなると、固まり掛けた『決意』が揺らぐ。
『…グルア。…グルウ、グルア』
「『…大丈夫ですよ。まだ、この世界に存在する戦力は失われていません。
-それに、貴方一人に世界の命運を背負わせるつもりもありません』…と、主は申しております」
「…っ」
すると、こちらの顔色を読んだ創世龍はそんな事を言った。…それを聞いて、俺は二つの予想を立てた。
「…そうか。まだ、多くの有志が残っているのですね。
そして、マスターと『同じ世界』の強き龍騎士を呼んでもいると」
「その通りです。…ただ、どちらにも大きな問題があります」
「…有志の人達に、使徒と戦える強さがあるかどうか。場合によっては、強化しないといけないですね」
「そして、『向こう』の人達が協力してくれるかどうか。…そもそも、あっちでも異変が起きている中でこちらに来るかどうかも分からないと思います」
「…一体、どうすれば良いのでしょうか」
改めて問題を把握した巫女は、とても困った様子で呟いた。…けれど、その答えが出る前に創世龍は何かに気付き天井を見る。
『…グルアッ。…グルアッ!』
「…え?」
そして、低い唸り声を上げた直後に威嚇するように鳴いた。…それを聞いた巫女は、信じられないといった顔をする。
「「……っ」」
その様子を見た俺達は、大体の事を察してしまう。…恐らく、混沌の手下が遂に此処を襲撃しようとしているのだろう。
『…グルアッ!?…グルア、グルウッ!』
「…ま、まさか、迎え撃つつもりですかっ!?」
だから、俺達は覚悟を決めて踵を返す。…当然それを見た龍と巫女は、心配そうな反応をしてくれた。
「…今、此処を落とされたら完全に詰みです」
「そうなれば、二つの世界の破滅を待つのみです」
「……」
『……。…グルア』
「…っ!…畏まりました、我が主よ」
俺達の覚悟と決意を知った龍は、巫女を見て何かを呟いた。…すると、巫女は神妙な面持ちで頷き手前に魔法陣を展開した。
直後、そこから龍と同じ色の黄金の宝箱が出現した。…これは、『イベントアイテム』か?
-このゲームの宝箱は、外装でレアリティが判別出来るようになっていて、一番レア度の高いアイテムはクリスタルで出来ている。
だが、実はその上にもう一段階あるのだ。…それがこの黄金の宝箱であり、中身はメインシナリオを進める為に必要なイベント用のアイテムが入っているのだ。
「…どうか、『こちら』をお納めください」
そうこうしている内に宝箱は開かれ、巫女はその横に跪く。…とりあえず、俺は素早く中身を確認した。
「……?」
それは、このゲームを始めてから一度も見た事のアイテムだった。…見た目は、装備スロットにセットする魔石と同じだ。
だが、その色は無色透明であり何より凄まじいオーラのエフェクトを放っていた。…もしかしなくても、チート級のアイテムだろう。
「「「…っ!?」」」
超強力そうなアイテムにちょっとビビッていると、パレス全体が揺れた。…どうやら、敵が攻撃を始めたらしい。
「…では、有り難く頂戴致します、
-……は?」
なので、俺は礼を言ってから素早くそれらを受け取り確認してみた。…その内容に、思わず唖然とした声が出てしまう。