おしっこを漏らしたペロの顔をモラクスが舐めてあげていると、
「魔法って、すごい」「……一撃で」
子供たちが唖然とし、
「な、な? ティルは凄いんだ」
ミアは顔を引きつらせながらも、そう言った。
「な? 楽勝だろう? 俺は魔物退治が得意だからな」
「すごいすごい!」
俺の元に子供たちが集まってくるので、頭を撫でた。
「ミア。魔鳥の処理は明日にしよう」
「くさる……、あ、そうか、魔法の鞄があるのだものな」
「そういうことだ。よし、みんなねるぞー」
「ねるー!」「魔法って、すごいねぇ!」
「もっもー」「わふわふ!」
子供たちがはしゃいでいるので、モラクスとペロも嬉しそうだ。
皆で家の中に入ると、興奮した年少組に囲まれる。
ミーシャも目を覚ましており、「ミーシャも魔法みたかった」と言っている。
「ミーシャ、今度見せてあげるよ」
「ほんと?」
「ああ、だから今は寝なさい」
「わかった!」
俺を取り囲んだ年少組からは質問攻めにあった。
「ねね、魔法って、つかうときどんなかんじなの?」
「びゃってなったね! びゃって! あれなに!」
「えっとね、言葉で説明するのは難しいんだけど――」
「ヴォウヴォウ、ガフガフ」
興奮した年少組に当てられて、ペロも興奮しはじめた。
家の中を走り回りはじめる。
ミーシャの顔を舐めて、その周りを走り、また顔を舐める。
「もう、ペロ、くすぐったいよー」
「わぁぅ」
ペロは魔鳥を俺の元に運んだことをミーシャにも自慢したいらしい。
「ペロ、静かにね。ミーシャは眠らないとだからね?」
「ガルガルガル」「モッモッモッモ」
「モラクスもだよ。走りまわらないの。みんなも寝る時間だから――」
「ガウガウガウ」「モウモウモウ」
「こーら、静かに」
俺は高速で移動して、ペロとモラクスを捕まえて抱きしめる。
「ティル、はえー」
「びゃって、びゃって、うごいた! すげー」
子供たちをますます興奮させてしまったらしい。
「ペロとモラクスは寝なさい。……散歩足りなかったかな」
いや、昨日は俺の家からこの村まで駆け抜けたので充分走ったはずだ。
本当に子狼と子牛の体力は凄い。
「モラクスとペロを寝つかせないととだから、魔法の説明はまた明日ね」
聞き分けてもらえるか不安だったが、
「わかった!」「ぼくねる!」
「でも、目がさえちゃった!」
「ねー、すごかったもんね!」
子供たちはわちゃわちゃしながらも、素直に返事をしてくれた。
「寝れなくても横になって毛皮にくるまって目を瞑れば良いよ」
「そうだぞ、みんな夜はもう遅いんだ! また明日だ!」
「わかったー。ミア、ティルおやすみ!」「おやすみ!」
ミアにも促され、子供たちは本当に素直に、毛布にくるまる。
「ウォゥウォウ」「モッモ」
まだ興奮が冷めやらず、走り回りたそうにしているペロとモラクスとは大違いだ。
「ペロとモラクスも寝ようねー」
俺はペロとモラクスを抱っこしたまま毛皮にくるまると、優しく撫でて、とんとんした。
「ぴぃ~」「も」
ペロとモラクスは静かになり始めた。
そして、あれほど寝れないと言っていた子供たちもあっという間に寝息を立て始めた。
やはり、みんな眠かったのだ。
「……ティル」
隣で寝ているミアが小声でささやく。
「ん? ミアも寝た方がいいぞ」
「うん。寝る。……ありがとう。ティルがいなかったら全滅していたかもしれない」
「役に立てたならよかったよ」
ミアは上半身を起こして、月の光が照らす暗い室内を見回した。
「魔物が襲ってきた日の夜は、皆、眠らないんだ。眠れなくなるんだよ」
「気持ちはわかる」
魔物が、また襲ってくるんじゃないかと怖くなって眠れなくなるのだ。
「ティルにもわかるのか?」
「ああ、俺も親を魔物に殺されたからな」
「……そうだったのか」
「だが、俺は師匠が守ってくれたからな」
師匠は襲ってきた魔物をいとも容易く屠って見せてくれた。
「な? 魔法はすごいであろう? そなたもこのぐらいはすぐにできるようになるぞ」
そう師匠は言って優しく微笑んでいた。
おかげで、怖くて眠れない夜はそう続かなかった。
「ありがとう。ティル」
「気にするな」
俺は師匠がしてくれたことを真似しているだけなのだから。