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第26話 大賢者からの贈り物

 お昼ご飯に美味しい魔鳥咖喱を食べた後、村にあるという金属を見せてもらうことになった。


「ここが村の倉庫なんだ」


 そういってミアと子供たちが案内してくれたのは村の中心に近い場所にある建物だ。

 外見は他の建物と変わらない。

 薬で足が覆われていて歩けないミーシャは、ミアに背負われてやってきている。


「このあたりに積み上がっている木箱に入っているのは全部金属だ」

「おお、結構あるな」

「いるだけ全部、自由に使ってくれ」


 一辺がおよそ五十センチの立方体が、二十個ほど積み上がっていた。


「早速中身をみせてもらおう」

「好きなだけ……って、モラクス、箱をかじるな。ペロもだぞ」

「も?」「がう?」


 ミアがミーシャを倉庫内の椅子に座らせながら、モラクスとペロを止める。

 モラクスとペロは金属の箱以外が気になるらしい。

 倉庫の中には金属以外にも色々とあるようだ。


「モラクス、ペロ、いたずらしたらだめだよ」

「も~」「わぅ~」


 そういいながら、俺は金属の箱の中身を確認する。


「これは磁鉄鉱と赤鉄鉱か。黄鉄鉱もある」

「その辺りは鉄鉱石だな」

「鉄はいくらあってもいいからな。助かるよ。そしてこっちは……おお?」


 予想していなかった金属が箱の中に入っていて驚いた。


「どうした? ティル」

「これはミスリル鉱石か? ものすごく高価な金属だぞ? 本当に使っていいのか?」

「もちろんだ。加工すればいい武器になるらしいが、加工する術がないんだ」


 ミスリルは武器防具だけではなく、魔導具や錬金薬の貴重な材料や触媒となる。


「これだけあれば結界発生装置の製作がはかどりそうだよ……ってこっちはオリハルコンか」

「ああ、それもいい武器になるらしいんだが、やっぱり加工する技術がないんだ」


 オリハルコンも武器防具、それに魔導具や錬金薬の貴重な材料や触媒になる。


「本当に助かるよ。それに金に銀に……これは辰砂しんしゃだな?」


 辰砂からは水銀を精製できる。水銀も魔導具や錬金薬の貴重な材料や触媒だ。

 他にも錫や銅、亜鉛など色々な鉱石が箱の中に詰められていた。


「沢山あるなぁ。想像以上だ」

「よかったー。父さんがいつか役に立つからって言ってたんだ」

「うん。いつか大賢者様が戻られたときに役に立つって、暇な時間を見つけて集めたんだって」

「だから、僕たちも掘って集めてたんだ」

「最近ではほとんど集められなかったけど、この箱は僕たちが集めた!」


 子供たちは本当に嬉しそうだ。


「ミーシャもこのまえ黄鉄鉱みつけたの!」

「おお、それはすごい。どこにあったの?」

「えっとねー。いわやまをね――」


 元気な頃はミーシャも瘴気の中、鉱石採取などを幼子たちと一緒にやっていたのだろう。


「……ありがとう。本当に助かるよ」

「よかったー。だいけんじゃさまもよろこぶよ!」

「そっか。そうかもな。……大賢者様は戻ってくると言われているの?」


 子供たちの話しを聞いて疑問に思ったことはそれだ。

 普通に考えたら、千年前の人物である大賢者が戻ってくるはずがない。


「うん、戻ってくるよ。だからティルが大賢者様だと思ったんだけど……」

「でも、ティルは大賢者様じゃないんだよね?」


 年長の子供たちがそう言って俺を見る。


「俺は大賢者様じゃないよ」

「そっかー残念」

「ミア。大賢者様ではない俺が金属を使っていいのか?」


 すると、倉庫内を走り回る幼子とモラクスとペロの世話をしていたミアが笑顔で言う。


「当然だ。役立ててもらえるなら、祖先も、そして大賢者様も喜ばれるだろう」

「そっか。役立たせてもらうよ」

「ああ、そうして欲しい」


 俺とミアがそんな会話をしている間、

「まてまて―」

「もっもー」「がう~」

 ミアの監視が緩んだ隙に年少の子供たちは倉庫の中を駆け回った。


「がうがう!」

 そして、テンションの上がったペロが箱にぶつかって倒した。


「こら、ペロ! 危ないだろ」

「きゅーん」

「軽そうな箱だったから良かったけど、重い箱だったら大怪我してたかもしれないぞ」

「ぴぃ~」


 叱るとペロは反省した様子で仰向けになって、ぴぃぴぃと鼻を鳴らした。

 そうされると、もうあまり叱れなくなってしまう。


「……ペロ。それにモラクスと子供たちも。狭いところで走り回ったらあぶないぞ」

「ごめんなさい」「もぅ~」「ぴぃ~ぴぃ~」

「走り回るなら外にしなさい」

「はーい。そといこ」「もっもー」「わふ」


 外に行く子供たちを見送りながら、

「誰か子供たちを見ていてやってくれ」

「わかった!」

 ミアの言葉に従って、二人の年長の子供が年少の子供の後を追っていった。


「すまない。ティル。叱らせてしまって。私が見ていながら……」

「いや、ミアが謝ることじゃないよ。それにやらかしたのはペロだからな」


 やらかしたのがどの子であっても、大人が叱ればいいのだ。


「まあ、子供はやらかすものだし、その後始末をするのは大人の役目だ」

「そうだな! 頼りにしているよ! ティル。この村に大人は二人しかいないからね」

「……まぁなぁ」


 俺から見ればミアも子供なのだが、それを言ったら誇りを気づけるかもしれない。

 大人たちが亡くなってからのミアはこの村で大人の役割を果たしてきたのだ。


「たよりになるー」


 なぜかミーシャが嬉しそうに薬で覆われた両腕をぶんぶんと振っていた。


 そして、俺は子供、というか今回はペロのやらかしの後始末をするために箱を戻そうとし、

「む? これは? ミアこれは一体?」

 ペロが倒した箱の中身は、どう見ても魔導具だった。


「む? ああ、それは大賢者様の贈り物だ。祖先の時代、空から降ってきたらしい」

「これが空から?」


 魔導具が空から降ってくるなど、どんな事情があるのか想像が難しい。


「この魔導具が大賢者様からの贈り物だとなぜわかったんだ?」

「む? これは魔導具なのか? 私たちも生前の大人たちから聞いただけだからな」


 そして大人たちもその親世代から聞いただけだという。


「もう少し詳しく聞かせてほしい」

「えっとだな。三代前の祖先の時代以前の話しなのだが……」


 昔はたまに空から村に魔導具が降ってきたらしい。

 ミアたちの祖先はそれを使えなかったが、大賢者の贈り物だから大切に保管していたようだ。


「祖先がどうして大賢者の贈り物だと判断したのかはわからないんだ」


 なにせ三代も前の話だし、最近は全く降ってくることもなくなったのだ。


「謎が多いな」

「ああ、私たちにもさっぱりだ」


 俺はその大賢者の贈り物と伝わる魔導具を調べる。

 古い型の魔導具だ。二百年ほど前に普及した技術に見える。


「三代前って、何年ぐらい前なんだ?」

「二百年ぐらいだ」

「時代はあっているか。って、いや、ずいぶんと前だな」


 人族の三代前は、親とこの年齢差の三代分前。つまり六十年から百年ぐらい前になる。

 平均寿命が極めて短いミアたちの三代前はもっと短いと思ったのだ。


「水質の汚染のせいで私たちの寿命はここ数十年で急激に短くなったからな」


 ミアは、元々私たちエルフは長寿だからね、とさみしそうに呟いた。


「そっか……じゃあこれからは長生きできそうだね」

「ティルのけっかいと、みずのおかげだね! ねね、ティル、ミーシャにもみせて!」

「いいよ」


 嬉しそうにはしゃいでいるミーシャに、俺は魔導具を持ったまま見せてあげる。


「ねね、ティル。これって何の魔導具なの? 結界?」

「いや、違うよ。ちょっと調べてみるね。えっと、……これは」


 俺は丁寧に一つずつ魔導具を調べていく。

 外装から大まかな年代は特定できても、詳しい機能は多少調べないとわからないのだ。


「これは高温を発生させる魔導具だな」

「高温? 料理とかに使えるやつ?」

「そうだね。後は釜を使えば金属を精錬するにも使えるね。こっちは……水を作り出す魔導具だな」


 何種類もあったが機能は同じだ。全て熱と水を発生させるものだ。


「でも、通常の魔導具とは違うな……。ああ、そうか起動部分が違うのか」

「……どう……違うんだ?」

「魔法が苦手な者でも扱えるように工夫をしているな」


 俺も魔導具を作るからわかる。


「魔法が苦手な者でもどうにかして使えるようにしようとしているな」

「……大……賢者様」

「ミア? 泣いているのか?」

「な、泣いてない。ただ、大賢者様は我らを救おうとしてくれていたんだとわかったんだ」


 水も熱も村が必要としていたものだ。


「そうか。多分そうだな」


 魔法が使えない村人たちでも使えるものを何とか作ろうとしたのだろう。

 懸命に試行錯誤して、なんとか村人たちを助けようとしていたのだ。


 少なくとも二百年前には大賢者か、その意志をついだ者たちがいたのだろう。


「ありがとう。大賢者様」

「大賢者様はやっぱり僕たちを見捨ててなかったんだ」


 年長の子供たちは嬉しそうにはしゃいでいた。


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