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第27話 村民大移動

 次の日、朝ご飯を食べた後、皆で俺の家に向かって出発した。

 ミアとミーシャを含めた十七人の子供を連れた大移動だ。


 ミアに先頭を歩いてもらい、俺はミーシャをおんぶして、最後尾をついて行く。

 最後尾がもっとも全体を見るのにちょうど良いからだ。


 子供たちは全体的に身軽とはいえ、年少組は体力も少なく歩く速度も遅いだろう。

 はしゃいで大変かと思ったのだが、子供たちは皆緊張感を持って歩いていた。


 子供ながらに腐界の危険性を充分に理解しているのだろう。


「疲れたらいいなね? おんぶしてあげるから」

「うん! でもだいじょうぶ!」


 年長の子供は自分より幼い子供の手をつなぎ、面倒を見ながら歩いてくれている。


「モラクス、ペロ。子供たちがはぐれないように、よく見てあげてね」

『まかせて』「わぅ」


 いつも、はしゃいで遊ぶことが多いモラクスとペロも真剣だ。

 守るように子供たちの列の左右を行ったり来たりして、様子を見てくれている。


「みんな、疲れたら遠慮なくいうんだよ。長丁場だからね」

「わかった!」「はーい」


 歩き始めて一時間がたち、まだ子供たちは元気に見える。


「一回休憩するよー」

「はーい。あ、直接座ったらダメ。ヒルが付くからね。これ敷いて」

「わかった!」


 年長組が年少組の面倒を見ながら休憩に入る。


「おやつとお水を配るから、ゆっくり食べるんだよ」

「ありがとー」

「あ、魔苺だ」「魔苺すきー」

「ただの魔苺じゃないぞ。砂糖をまぶした魔苺だぞ! それと塩を振った魔鳥の肉だ」

「やったー」


 疲れたときには甘い物がとてもうまいのだ。酸っぱいものもいい。

 それにしょっぱい物も欲しくなる。


 俺は子供たちにおやつと水を渡しながら様子を観察した。


「疲れてない? 足が痛いとかないか?」

「大丈夫! 走れるぐらいだよ!」「でもくさいねー」

「みんな元気だなぁ。疲れてないか?」

「つかれてない!」「くさいけど」


 結界の中で一日暮らしたおかげで、瘴気の臭いを特に感じるようになったのだろう。


「無理はしなくていいからね。痛いとか疲れたとかあれば、いつでも言うんだよ」

「わかった!」


 そして、ミーシャとモラクス、ペロの番だ。


「ミーシャ、モラクス、ペロ。お待たせ。おやつだよ」

「ありがとー。でも、ミーシャ、手がふさがってるからね?」「も」「ヴォゥ」

「わかってるよ」


 俺は手を使えないミーシャの口に甘い魔苺を入れてやる。

「あまくておいしい!」

「も」「ヴォゥ」

 モラクスとペロも口を開けて、俺に食べさせて欲しそうにしている。


「……モラクスとペロもか。はい」

「もっも」「ぁぅ」

「水も飲むんだよ~」

「あい!」「も」「わふ」


 そして、俺は先頭を歩くミアにもおやつと水を渡す。


「ティル、ありがとう。ね、子供たちは元気でしょう?」

「ああ、そうだな。俺が思っていた以上だ」


 俺は昨夜、ミアと相談した時のことを思い出した。


  ◇◇


 夕食後、子供たちが寝た後、俺とミアは向き合って座り話し合う。


「何か、そうだな。荷車のようなものを作って小さい子を乗せて運ぼうか?」

「いやいや、山道だからな。荷車など余計大変だろう?」


 ミアは隣で眠るミーシャを撫でながら言う。


「それは、まあそうだが、ここから俺の家まで二十キロだぞ。しかも歩きやすい道でもない」


 平坦な道でも小さな子供に二十キロはかなりきつい。

 俺とミア、モラクスとペロだけならば、三時間で走り抜けることができた。

 だが、子供たちの足ならば、十時間はみた方が良いだろう。


「そもそも、一日で移動するってのが無理がないか? 途中で野宿することも考えた方が……」

「そうだね。そうしないといけないかもしれないけど……私は大丈夫だと思うよ?」


 ミアは撫でていたミーシャを見て、

「ミーシャ以外の子たちは、自分で歩けるよ。腐界のエルフは強いんだ」

「それには異論はないが、いくら強いといっても、子供だからな」


 十歳から十三歳ぐらいの子供が十人。六歳から八歳の子供が五人。

 それに十九歳のミアと、四歳のミーシャだ。


「ミーシャのことは心配しなくていい。私が背負っていくからね」

「いや、ミーシャを背負うのは俺がやろう」

「だけど……」

「ミアには先頭に立ってもらって、道案内と警戒を頼みたい。警戒は身軽な方が良いからな」

「わかった。ミーシャをお願い」

「任された。だが、やはり一日では難しいんじゃないか?」

「大丈夫、大丈夫。まあ、無理そうなら野宿すればいいんじゃない?」


 そういって、ミアは笑った。


  ◇◇


 ミアは最後まで子供たちが歩けると考えていたし、俺は無理だと思っていた。

 だが、この調子なら、子供たちは一日で、最後まで歩ききるかもしれない。


「でも、まだ油断はできない。先は長いからな」

「そうだね。まだ魔物は襲ってきてないけど……」

「魔物に関しては俺に任せてくれて良いよ。近づけさせない」

「ふふ、頼りにしているよ」


 それからも一時間ごとに休憩しながら歩いて行った。

 子供たちは六歳ぐらいの子供を含めてみんな元気に歩き続ける。


「……みんな子供なのに、魔力による身体強化が自然に馴染んでるのかな?」

「そうかも? あんま気にしたことない」


 そう答えた俺の近くにいた少女は、一昨日、重たい水瓶を持ち上げていた。


「身体強化のやり方は誰かに習ったの?」

「うーん、特にはそういうのは教えてもらってないかも」

「戦い方は小さいときから、それこそ三歳ぐらいから教えてもらうけど……」

「ミーシャもならってる!」


 俺に背負われているミーシャが元気に言う。


「おお、じゃあ、戦い方を練習している間に自然と身につくのかもな」


 ミアは大人になる前に、ほとんどの子供が死んでしまうと言っていた。

 もしかしたら、身につかなければ死んでしまうと言うことなのかもしれない。


 魔力は瘴気から身を守るのにも有効なのだ。


「お、魔槍ハスタ。ペロ」

「ヴォウ」


 魔物が近づいてきていたので、子供たちが気づく前に魔槍で倒す。

 すると、ペロが走っていって、倒した魔物を持ってきてくれるのだ。

 それを魔法の鞄にしまって、ペロを撫でる。


「ペロ偉いぞー」

「わふわう~」

「ペロ、今は仰向けになるのはやめておこうな。移動中だからね」

「わふ」


 ペロはすぐに喜んで仰向けになろうとするので止めておく。


「あとで、たっぷり撫でてあげるからな」

「わふわふ~」


 何度か魔物が襲ってきたが、全部子供たちに近づく前に魔法で倒しておいた。

 魔鳥が二羽、魔猪が三頭、魔熊が二頭、魔兎が四匹だ。


 今回倒した魔猪は角のない普通の魔猪だ。角魔猪より弱いが、それなりに強い。


「狩りが楽だ」


 なにせ、獲物からやってきてくれるのだから。

 小さい頃、手伝いに行った狩人のおじさんが聞いたら、ものすごくうらやましがるだろう。


「もう、しばらくは狩りをしなくていいかもな」

「ヴォウヴォウ」

「ふふ、ペロが一杯食べるからすぐなくなっちゃうか。そうかも」

「わぅ」



 村を出てから休憩すること七回。八時間近く歩いて、俺の家の近くまで来た。

 朝の八時ぐらいに出発し、もう夕方近い。


「みんなよく頑張ったな! あと五百メートルぐらいだぞ」

「おおー、いがいと近かった!」「でもつかれたねー」

「ねー」


 子供たちは文句もわがままも言わず、最後まで歩ききったのだ。


「本当に、みんな偉かったぞ」

「ぅーにゃ」


 ミーシャは俺の背中で気持ちよさそうに眠りながら、何か寝言を呟いていた。


 先頭を歩くミアが、結界の範囲まであと三百メートルまで近づいたとき、俺は異変を察知した。

 具体的に何が起きたのかはわからないが、家の方で何かが起きたということは確かだ。


「何か起きたな。少し見てくる。ミア、ミーシャを頼む!」

「わかった」


 俺は背負っていたミーシャをミアに預けると、家に向かって走り始めた。

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