コボルトたちと話し合っている間に、太陽が沈みかけていた。
「もう夜か。とりあえず家に案内しよう。みんなついてきてくれ」
「ティルの家、たのしみー」
『たのしみだわん』『家でいっしょにねるわん』
俺が歩き出すと子供たちとコボルトたちがついてくる。
「私には案内は必要ないからな。夜ご飯を作っておこう」
「ミア、頼んだ。道具と食材は何が必要だ?」
俺はミアのいう道具と食材を魔法の鞄から取り出して渡して、ミーシャを受け取って背負った。
水もたっぷり出して
「一応、かまども作っておこう」
家の外にかまどを作っておく。
大人数の食事を作るならば、かまどはあった方が良い。
今までは俺がフライパンや鍋を手に持って魔法で熱して調理していたのだ。
料理をミアに任せると、子供たちとコボルトを家に案内して軽く説明する。
「トイレはそっちで、板の間には靴を脱いであがるんだ。寝るときは魔獣の毛皮を――」
「ほえー」「快適そう!」『ぼくちゃんとトイレできるわん』
子供たちもコボルトたちも家を気に入ってくれたようだ。
「みんなは板の間でくつろいでいてくれ。俺はちょっと外でやることがあるからな」
「え? ティルさんはなにするの?」
「もう一軒、家を建てる。ここはみんなで寝るには狭いだろう?」
村でみんなが住んでいた家より、俺の家は大分狭い。
子供たちとコボルトたちが寝るには窮屈なのだ。
「今から建てるの?」「夜だよ?」
「ああ、今からだ。夜ご飯ができるまでにはできるよ」
「す、すごい」『てんさいだわん』
「家を建てるとこ、みたい!」「ミーシャもみたい!」
「じゃあ、見学しててくれ」
俺は皆を連れて家の外に出る。
ミーシャを年長の子供に任せて、俺とモラクス、ペロは結界の外に出た。
「…………やっぱり、うっそうと茂ってるようにしか見えないな」
魔法で木を切りながら結界内を見ても、草木が邪魔で全く見えない。
だが、子供たちには俺の作業が見えるのだろう。
「わふわふ」
ペロは中がみえないと言っているが、モラクスはじっと中を見つめていた。
『もらくすは……わかる』
「なにがわかるの?」
『わかったらわかる。これはふつうのきじゃない』
「なるほどなー。精霊が見せている魔力の木ってわかるのか。すごいね」
『せいじゅうだからね』
「わうわう」
ペロまで「聖獣だからわかる」といいだしたが、多分適当に言っているに違いない。
『まものはわかんない。だからはいれない』
「…………なるほど。それは便利だな」
魔物からは、移動が難しいほど魔草、魔木が生い茂っているようにしか見えないのだ。
中に入ろうとは思わないだろう。
俺の作った結界は瘴気は防げても魔物は防げないので、とても助かる。
「便利だな。モラクス。精霊の作った偽の木を見抜くコツがわかったらおしえてね」
『おしえる』「あぅぁぅ」
そんなことを話しながら木を切って魔法の鞄にしまっていく。
「こんなもんでいいか。戻るよ。モラクス、ペロ」
「もっもー」「わうわう」
結界の中に戻ると、子供たちとコボルトたちはミアのお手伝いをしていた。
「ティル、すごかったねー」「木があっさり切れて浮いてた! すごい」
お手伝いをしながら、俺の様子は見ていたようだ。
外からは見えないが、中からは見える。とても便利だ。
それから、俺はミアを手伝う子供たちとコボルトたちに見守られながら家を建てていく。
急いで建てるので、村で皆が暮らしていた家と同じ構造にした。
入って直ぐは土間。そして水瓶とトイレとかまども、元の家と同じ場所に設置する。
もっとこうしてほしいという要望がでれば、後で建て直せばいい。
できれば、一人一軒とまではいかなくとも、一人一部屋は欲しい。
結界と土壌改良の範囲が拡がれば、土地も広く使えるようになる。
そうなれば、家を建てていこうと思う。
「はやいねー」「なんど見ても木がういてるのは凄いよね」
『すごいわん』『かっこいいわん』
家を建てる作業は、子供たちにもコボルトたちにも人気だった。
魔木を伐採を開始し始めてから、家を建て終わるまで二十分ほどかかった。
「みんな、とりあえず、村の家に似せて建てておいたよ」
「ティル! はいっていい?」
「もちろんだ」
「わーい」『家でいっしょにねるわん』
どうしても子供たちと一緒に寝たいコボルトがいるらしい。
「一緒に寝ようねー」
『やったわん』
子供たちとコボルトたちが大喜びで家の中に入っていく。
「うわぁそっくりだ!」「すごいねー」
「ありがとう! ティル」「ありがと!」『ひろいわん』『寝やすそうだわん』
どうやら子供たちもコボルトたちも気に入ってくれたようだ。
「どういたしまして。何か要望があったら言ってね。見ての通りすぐに建てられるからね」
「はーい。でも、不満はないなぁ」
俺は子供たちの様子を見ながら次の作業に入る。
「え? ティル、まだ何か建てるの?」
「ん? 倉庫だよ。みんなの村から持ってきた道具とかをしまうところが必要だろ?」
今は、家財道具も食料も家宝も全部まとめて魔法の鞄に入れてある。
いちいち、俺に出してというのは面倒だろう。
「おおー、倉庫もあっとうまに建っていくね」
「魔法凄い」『すごいわん』
「ミーシャ、まほうつかいになりたい」『なりたいわん』
『もらくすも』
倉庫もあっさりと完成し、子供たちに聞きながら、収納を進める。
「これは?」
「えっと。香辛料はよく使うから、入り口の近くがいいかも」
「鍋もよく使うから……このあたりがいいかな」
「僕たちは金属を使わないから、ティルさんの好きなところにおけばいいよ」
「そうか? じゃあ、奥に置いておくか」
倉庫に荷物を収納していく様子を眺めるコボルトたちは楽しそうだ。
コボルトたちは可愛くて、好奇心に満ちた目で見つめてきて、尻尾を振っている。
精霊だということはわかっているが、どうしても犬に見えてしまう。
「なにか気になることある?」
俺は近くにいたコボルトの一匹の頭を撫でる。
もふもふで柔らかい。犬っぽい匂いまでする。俺にエルフの血が混じっていて良かった。
コボルトは撫でられるのが好きらしく、尻尾を元気に振って口を開けてはぁはぁ言っている。
『もっとなでてなでてわん』『ぼくもぼくもなでてほしいわん』
一匹撫でると、コボルトたちは集まってくる。
『ティルの手は気持ちいいわん』『幸せになるわん』
作業を中断して、コボルトたちを子供たちと一緒に撫でていると、ミアの声が聞こえてきた。
「ご飯ができたぞ! 作業はまた明日にして早く食べるといい!」
「お腹空いたー。ティルご飯たべよ!」『ごはん! ごはんだいすきわん』
みんなで一緒に夕ご飯を食べに行く。
「今日は魔鳥咖喱だ! 魔ジャガイモと魔人参、魔玉葱が多めだぞ」
年長の子供がお皿にご飯をよそってくれて、渡してくれる。
それを隣にいるミアに渡すと、咖喱をかけてくれるのだ。
「やった! あ、米つきだ」「咖喱と米が一番好きかもー」
「ミーシャも! 咖喱にはこめがいちばんあうとおおう。ぱんもいいけど」
『いいにおい! いいにおいだわん』『よだれがとまらないわん』
コボルトたちも咖喱を食べたいらしく、ご飯をもらう列に並んでいる。
そして、皿を器用に前足で持つと、
『おおもりでたのむわん!』
「大盛り了解だ」
よだれをたらしながら、ミアに咖喱をかけてもらっている。
「コボルトたちもご飯食べられるの?」
『たべられるわん! 魔玉葱もうまいわん』
『まりょくがかいふくするからね』
モラクスが教えてくれる。
「あ、そっか。咖喱とかパンとかは魔力が回復するんだったな」
コボルトは物質と魔力で、魔力に大きく寄っている。
だが、完全に物質ではないというわけでもない。
外の世界の食べ物ならともかく、腐界の食べ物ならば食べられるのだろう。
「コボルトと一緒にご飯を食べられて、嬉しいよ」
「わふわふ」
ペロも嬉しいと言っている。
全員に咖喱が行き渡り、みんなで食べ始める。
コボルトたちは地面にお皿を置いて、ペロと同じく、普通の犬のように食べるようだ。
『うまいわんうまいわん』『天才だわん』『いきててよかったわん』
コボルトたちは感動した様子で咖喱をバクバクと食べたのだった。