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第32話 結界範囲を拡張しよう

 朝ご飯ができるまでに、俺は結界範囲内を魔法陣で埋め尽くした。


「よしよし、これで土壌も綺麗になるな」

『全部畑にしたいわんねー』

『炉も作りたいわん! 金属加工楽しみだわん。どこに作ったらいいわん?』


 コボルトたちも大はしゃぎだ。


「好きなところに好きなように作ってくれていいよ」

『いいわん?』『やったわん!』


 俺はコボルトたちの頭を撫でる。ことあるごとに頭を撫でたくなるのだ。

「わふ~」

 コボルトたちの横で撫でられ待ちをしているペロのこともたっぷり撫でた。


「だいぶ、土地が狭くなってきたねー。結界の範囲を広げようか」


 結界発生装置は中心に置いたコアとなる親機と子機によって構成されている。

 親機と子機の間は三十メートルが限界だ。

 つまり結界範囲は半径三十メートルの円形ということになる。


『拡張できるわん?』『天才だわん!』『なでてなでてわん』

「できるよ。魔導具を作って中継すれば拡張できるんだ」


 親機と子機の間は三十メートルが限界だが、子機と子機をつないで距離延長はできる。

 途中で子機が壊れたときのために、子機と子機を網目状に配置するのだ。

 そうすることで、距離を延長すると同時に、一つが壊れても結界範囲を維持できるようになる。


「これを俺は網目結界と名付けた」

『さすが、てぃる』

『て、天才だわん』「わふわふ!」


 モラクスとコボルトたち、それにペロが褒めてくれた。

 子機を沢山作るには、金属類が必要だったのだが、今は充分ある。

 今こそ範囲を拡張させる頃合いだろう。


「朝ご飯ができたよ!」


 小さな少女が呼びに来てくれた。


「ありがとう。すぐ行くよ」

『楽しみだわん』『お腹が空いたわん』『咖喱はうまいわんからねー』


 俺は口からよだれを垂らしているコボルトたちと一緒に新居に向かったのだった。


 朝ご飯は魔猪の咖喱とパンだった。

 連続で咖喱を食べているが、飽きる気配がない。


「やっぱり魔猪の肉も咖喱にあうなぁ」

「ねー。ミーシャは魔猪の咖喱だいすき!」


 角なしの普通の魔猪の肉は、豚肉に似ているが、ずっと美味しい。


「赤身も弾力があるのに柔らかいし、脂身も甘くてしつこくなくて……」

『魔玉葱もとろとろだわん!』

「わふわふわふ」


 犬が玉葱を食べている姿を見るとドキッとするが、コボルトは犬でも精霊だ。

 そしてペロは狼でも聖獣である。魔玉葱はコボルトやペロの体にいいのだ。


「魔ジャガイモもうまいなぁ。ほくほくだし……」

「ミーシャは魔にんじんすき! あまいしーおいしいしー」

「そうだね、美味しいね」


 外の人参が苦手な子供でも魔人参は好きなのではなかろうか。


「パンの実も、咖喱とあうなぁ」

『うまい』

「モラクスもパンの実大好きだもんな」

『だいすき』



 美味しい朝ご飯を食べた後、俺は結界範囲の拡張を開始した。

 エルフの村からもらってきた金属を使って、子機を作るのだ。


「あっというまにできるねー」

 倉庫の近くで魔導具である子機を作っていると、座って見学していたミーシャが感心してくれる。


「何度も作っているからね。得意なんだ。ミーシャ、調子はどう? 無理したらだめだよ」


 ミーシャの手足はもう薬で覆われていない。

 今朝、確認したら、手足を覆っていた瘴気が完全に消えていたのだ。

 今は内臓から瘴気を完全に除去するために、飲み薬だけ飲ませている。


「うん! すごくちょうしがいい!」


 そういって、立ち上がって飛び跳ねようとしたので、慌てて止める。


「まてまて。しばらく歩いてなかったんだから、急に動かないの」

「はーい」

「モラクス、ペロ。ミーシャが無理しないように見張っててね」

『まかせて』「わふ」


 モラクスがミーシャの手を咥えて、しゃがませる。

 そしてペロはミーシャの顔をベロベロ舐めた。


「ミーシャは回復が早いなぁ」

「そうかな?」

「ああ、想定していたよりずっと早いよ。もっと、かかると思っていた」

「瘴気がないからかなー。水もおいしいし」

「多分それもあるけど……」


 今までは、呼吸と食事から常に瘴気を体内に取り込んでいた。

 それでは治るものも治らないだろう。


「結界内で、瘴気がないとしても……回復が早いね」


 精霊が受肉した存在であるエルフだからだろうか。単にミーシャの魔力が大きいからだろうか。

 もしかしたら、その両方かも知れない。


「ミーシャの病状変化については、記録して師匠に送ってもいいかな?」

「いいよ! ティルの師匠ってどんな人?」

「凄い人だよ。あ、そうだ。師匠の家名はミーシャと同じルーベルなんだ」

「ふえー。もしかしたら親戚かな?」

「かもしれないな。耳もとがっていたし、師匠はきっとエルフなんだろう」


 そんなことを話しながら、俺は魔導具を作りつつ、結界内を見回す。

 ミーシャ以外の子供たちやコボルトたちが何をしているか確認するためだ。


 ミアは、俺が今朝出した大量の水を使って、洗濯をしているようだ。

 コボルトたちは地面を耕し始めている者と炉を作り始めている者がいる。


 子供たちはミアを手伝う者と、コボルトを手伝う者に別れていた。


「ミーシャもてつだいたいなー」

「ミーシャはまだダメ。筋肉が落ちているからね。完全に治ったわけではないんだよ?」

「そうだけどー」


 筋肉が落ちている状態で激しく動くと、無意識に魔力を使って身体強化をすることになる。

 それはまだ治りきっていないミーシャの体には良くない。


「しばらくは大人しく見学だけしてなさい」

「ぶー」


 ミーシャは不満げだ。四歳の子供にじっとしてなさいというのは酷かもしれない。


「はっはっはっは」


 そんなミーシャのひざにペロは顎を乗せて「撫でていいよ?」とやっている。


『ミーシャ、あとでかくれんぼする?』


 俺がモラクスの言葉を通訳しようとしたとき、

「かくれんぼかー。たのしそう!」

 ミーシャは通訳なしで、モラクスと会話して見せた。


「ミーシャ?」

「え?」

「モラクスの言葉がわかったのか?」

「ほんとだ。わかった」

「もっもー」


 モラクスが嬉しそうに尻尾をビュンビュンと揺らす。


「……モラクスが成長したのかな?」


 それとも、ミーシャが成長したのだろうか。


「もっもー『たしかめてみる』」


 はしゃぎながら、モラクスが他の子供たちのところに走って行った。


『きこえる?』

「ん? どうしたの? 聞こえるよ」

「モラクス手伝ってくれるの?」

『てつだう』

「ありがとーじゃあ、ここ咥えて」

『まかせて』


 モラクスは子供たちの作業を嬉しそうに手伝っている。

 どうやらミーシャ以外の子供たちとも話せるようになったようだ。


 モラクスの言葉は魔法だ。

 恐らく、モラクスの魔法の腕前が向上したに違いない。

 それか子供たち側にも聖獣の言葉を聞き取れるようになる変化があったのかも。


「モ、モ、モラクス」

『どした? みあ』

「は、はなせるようになったのか? ティ、ティル! モラクスが!」


 洗濯していたミアがはしゃぎながらこちらに向かって大きな声で呼びかけてくる。


「どうやらそうらしい」

「よかった。凄く嬉しいぞ」


 そういって、ミアはモラクスを優しく撫でたのだった。

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