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第33話 結界装置と土壌改良魔法陣

 言葉が通じるようになったことが嬉しいようで、モラクスは子供たちの手伝いを始めた。


「これはそっちに持って――」

『もらくす、はこぶ』

「ありがと。モラクス」

「もっもー」


 楽しそうなモラクスの様子を見ながら、俺は完成した結果装置の子機を設置することにした。


「ミーシャはここで見ていてくれ。外に子機を設置してくる」

「わかった、みてる」

「ペロ、ミーシャを頼む」

「わうわう」


 俺はペロにミーシャを任せて結界の外に出る。


「やっぱりコボルトたちの力は凄いな……」


 結界の外からは、魔木と魔草がうっそうと茂っているようにしか見えない。


「さて……魔木と魔草を処理して……」


 魔法を使って、魔木を伐採し魔草を刈る。

 伐採した魔木と刈った魔草の処理は後回しにして、積み上げておく。


 それから、一つずつ子機を設置していった。適当に置けばいいわけではない。

 子機と子機の間の距離も重要だ。


「ぼこぼこだからなぁ。角度とか高さも計算しないと」


 元々、拠点を作るときになるべく平坦な場所を選んではいる。

 それでも、整地されているわけではないので、数十センチ程度の凹凸は多い。

 それに木の根を掘り起こしたことで、新しく穴も生まれる。


「……コボルトたちが畑を作りやすいように、平らにしておくか」


 土魔法を使って、地面を平らにならしていく。


「うん。だいぶ配置しやすくなったな」


 新しく作った子機の数は二十個。

 それを網目状に配置して、半径三十メートルから六十メートルに範囲を拡張していく。


 子機と子機の間は最大で三十メートルだ。

 なるべく子機の三十メートル以内に複数の子機があるようにしなければならない。


「……よし。こんなもんでいいかな?」


 配置を終えて、子機を作動させる。

 一瞬で大気中の瘴気が消えた。


「配置ミスがないか確認して……」


 結界範囲内を歩いて一周して、確認していく。


「よし、ちゃんと動いているな。次は……」


 土壌改良の魔法陣だ。

 土からも瘴気がなくなれば、コボルトたちが魔法が発動して中が見えなくなるのだ。

 それにコボルトたちが畑を作ることもできるようになる。


 俺が魔法陣を描いていると、


「相変わらず見事なものだなぁ」

『てぃるがきったまぼくとまそうからたねとりにきた』


 ミアとモラクスがやってきた。


『くさくない』

「外にきちゃったの? 一応結界の中だけど、危ないよ?」

『だいじょうぶ。もらくす、せいじゅうだからね』


 モラクスは鼻をふんふんさせている。


「危ないと言うが、私たちだってずっと結界内に引きこもっているわけにはいかないだろう?」

「それはそうだが……」

「一応、子供たちはコボルトたちの魔法の保護の中にいてもらっているけど……」


 そう言って、ミアは前から結界の範囲内だった方向を見る。


「やっぱり、……全然見えないね。コボルトたちは本当に凄い」


 そう言った後、ミアは微笑む。


「そもそも、私たちは結界という素晴らしいものがない状態で暮らしてきたからね」


 ミアたちにとって、結界の外で活動するのは当然のことなのだろう。


「ここは結界の範囲内だけど、そのうち結界の範囲外にも行かないといけなくなるよ」

「できれば、子供たちを結界の外に連れて行きたくはないなぁ。体に悪いし……」

「それは私も同意見だけど……、子供たちの教育に必要だからね」


 俺にとってはミアも子供なのだが、ミアは子供のつもりはないだろう。

 ミアだけでなく、年長の子供たちも子供のつもりはないはずだ。


「……そうだなぁ」


 年長の子供たちは外で活動させるべきなのだろう。


「ただ、夜は結界内で寝た方がいいかもな」

「瘴気の中で寝るのは確かに体に良くないかもだな」


 ミアも俺の意見に同意してうんうんと頷いている。


「外に出るのは、ある程度成長してから、あと食事はなるべく結界内でとるのがいいかな」


 清浄な水を使った食べ物を食べて、清浄な水を飲めば、簡単には瘴気病にはなるまい。

 寝る時間を含めて一日の大半を清浄な空気の中で暮らせばより良いだろう。


「ああ、ティルの言うとおりだな。だが……生きるための技術を身に付けないといけないからな」


 狩りの仕方、敵の倒し方、草木の見分け方。

 そういうものを子供の頃から少しずつ教えなければならない。

 そして、その技術の習得には外で泊まり込むことも必要になるとミアは言う。


「そうだな……難しい問題だ。それでも連日じゃないほうがいいかもな」


 瘴気で受けたダメージから回復する時間が必要だ。


「ああ、そうしよう。ん? これがいいのか?」

『そう。はなのぶぶんをちぎって』


 ミアは俺と話をしながら、モラクスの指導のもと、種の採集をしている。


「モラクス、俺も観察して採集方法を勉強しているけど、後で改めて教えてね」

『わかった。まかせて』


 モラクスがミアにする種採集の指導を見ながら、俺は魔法陣を描いていく。


「ティルは同時に色々なことができて凄いな」

「俺だけでなく魔導師というのはそういうものなんだよ」


 特に戦闘時において魔導師のやることは多岐にわたる。

 攻撃、防御だけでなく、味方の状況、接近する敵や罠に対する警戒。

 それを同時にしなければならない。


「だからまあ、自然とね」

「そうなのか。私にはできそうにもない」

『まとまとは、ねっこがたねになるから、ここをきる』

「このあたり?」

『そう』

「ありがと。それにしても――」


 全然違うことを話しながら、種の採取を続けるミアは才能があると思う。


「あ、そうだ。ミア。昼ご飯は俺が作るよ」

「そんな悪いよ。ティルは働きづめじゃないか」

「そんなことないさ。それにみんなに腐界の外の料理を食べてもらいたしな」

「……ふむ? ティルの故郷の味か?」

「故郷の味……というべきかどうか。俺は旅暮らしだったからな……」


 どこを故郷だと思っているかと尋ねられても答えにくい。

 あえて言えば、幼い頃、父母と一緒にいた腐界の近くだろうか。


「まあ、俺が腐界へやってくる前に食べていた料理だよ」

「そう聞くと食べたくなってくるな。じゃあ、お願いするよ」

「ああ、あまり期待しないで待っていてくれ」


 ミアとモラクスが種の採取を終えた頃、ちょうど俺も魔法陣を描き終わった。


「よし、これで明日には畑を作ることができるようになるはずだ。」

「やっぱり、ティルは仕事が速いね。本当に凄いよ」

『もらくすもすごいとおもう』

「モラクスとミアも、手際が良いね。あっという間に種を採集するなんて」

「モラクスのおかげだよ。ありがとう」

「もっも~『みあがきようだから』」


 俺とミアが、大活躍のモラクスを褒めて撫でまくると、モラクスは尻尾を元気に振った。

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