「あいつらはこの辺りでも最強の魔竜衆である! 我が時間を稼いでいるあいだに――」
「
俺は右手を掲げ、目立つように魔槍を出現させた。
――GYAGGYAGGYAGGYA!
それをみて魔竜は一斉に笑い、
「そんなの当たるわけないのである! 奴らはこのあたりの魔竜の中でも最そく……」
「魔槍でも食らっとけ」
口でそう言いながら、俺はわざとらしく槍を放ち、
「我の火球でも中々当たらないのであ…………え? あたった? なんでであるか?」
俺が魔槍を放つと同時に、四匹の魔竜の頭に同時に魔槍が突き刺さった。
「え? 放ったら、急に槍が瞬間的に移動したのである……え? どういうことである?」
赤い竜が呆然と俺と落下する魔竜を交互に見る。
魔竜は轟音を立てて地面に激突し、全身を覆う瘴気が消えていく。無事とどめを刺せたようだ。
「魔竜がいた位置は、既に俺の間合いだ」
「え? 説明になってないのである。しかも一撃? どういうことである?」
赤い竜は「あの魔竜衆はこの辺りでも最強の防御力を誇っているというのに」とぼそぼそ呟いている。
「魔槍は別に手元で出現させなくても良いだろう?」
実際、多くの魔導師は、魔槍を手から少しだけ離して出現させる。
魔槍で自分の手を傷つけないようにするためだ。
「離して出現させるっていっても、普通は数センチであろ?」
「その距離は練習次第で伸ばせる。二百メートルぐらいが俺の間合いだ」
だから、魔竜の頭部の直ぐ近くに出現させて、避ける間もなく突き刺したのだ。
目立つように出現させた魔槍は、敵の注意を引きつけるためのおとりにすぎない。
「え? 加速する距離とか」
「魔槍は、物質の槍とは違う。加速した状態で出現させればいいだろ」
「…………ふええ」
赤い竜が変な声を出す。やけに人間くさい竜だ。
話せる竜には初めて会ったが、皆こうなのだろうか。
「ティルすごい!」「でかい竜が一撃で!」
『かっこいいわん!』
『まだだめ』「がう!」
「動かないで!」
子供たちとコボルトたちが駆け寄ってこようとするのをモラクスとペロ、ミアが止める。
「……なにをいっているであるか?」
「魔槍」
次の瞬間、俺は気配を消して近づいてきた最後の一匹の頭に魔槍を突きさした。
「ふお! まだ生きていたであるか」
「当たりどころがよかった、いや、悪かったんだろ」
竜の放った火球は、充分に魔竜を殺しうる威力だった。
だが、当たった場所が悪かったのか、魔竜は辛うじて生きていた。
死にかけの魔竜は気配を殺し、俺たちに襲いかかろうと少しずつ近づいてきていたのだ。
「……気づかなかったのである」
「竜は強いからな。気配察知が苦手なのかもな」
強いということは脅威となる存在が少ないということ。
脅威を察知する必要が、そもそもないのだ。
話しながら俺は魔法で周囲を索敵している。付近に強力な魔物はもういない。
「ミア、モラクス、ペロ。それにみんなも。まだ油断するな。結界が作動していないからね」
「わかってる」『うん』「わふ」
「すぐに結界を直すから待ってくれ。家から出ないようにね」
俺はコアが壊れていないことを祈りながら、倒壊した俺の家を調べる。
コアが壊れていたら、ミアたちの村で使った予備のコアを使うしかない。
コアは神官の作った貴重な護符を利用して作っているので、護符なしには作れないのだ。
「やっぱり予備は必要だよなぁ。今回みたいな不測の事態はあるし」
竜が空から落ちてきてコアを壊す可能性を誰が予測できるというのだろう。
予測できないことというのは、いつでも起こる可能性がある。
「うん。コアは無事か。助かった。親機と子機間の回路をつなぎ直すだけで良いな」
俺は修復作業をしながら、竜に語りかける。
「俺はティル・リッシュだ。人族の王からこの地を与えられた辺境開拓騎士だ」
「………………ふえぇぇ」
赤い竜は俺を見ながら変な声をあげている。どうやら話しを聞いていない。
「赤い竜。これを使え。俺が作った傷薬ポーションだ。まずは飲むといい」
俺は傷薬ポーションを赤い竜にぽんと投げて渡す。
「…………ふえぇ」
傷薬ポーションを受け取ってもまだ、変な声をあげている。
「赤い竜? どうした?」
「はっ! す、すまぬのである! あまりのことに驚愕していたのである」
そして竜は礼儀正しく頭を下げた。
「我はジルカ。天星のジルカ。ここ、東の大森林に住む聖獣の守護者である」
自己紹介を終えた後、ジルカはぺこりと再び頭を下げた。
「ティル・リッシュ卿。傷薬ポーションを譲っていただきかたじけないのである」
そういうとジルカは俺の作った傷薬ポーションをごくごく飲んだ。
「ふおおお。凄い効果なのである! 傷がどんどん治っていくのである」
「ティルでいい。言うほど治ってないぞ」
飲ませたのは、滋養強壮や回復力増強の為だ。
直接的に傷を治すのならば、傷口にかけた方が効果が高い。
「ジルカは体が大きいからな。特に痛い場所にこれをかけるといい」
そういって更に三瓶ほど傷薬ポーションを投げて渡した。
「そうか。体が大きいと薬も沢山必要になるのであるな……」
「すまないな。治療してやりたいんだが、大急ぎで結界を直さないといけないんだ」
「とんでもないことなのである。貴重な治療ポーションをいただいて感謝しかないのである」
そしてジルカは壊れてしまった家を見る。
「家を壊してしまい、申し訳ないのである。大変な迷惑をかけてしまったのである」
「それも気にするな。家なんてすぐに建て直せるしな」
ジゼルはわざと壊したわけではないのだ。
そもそも、ジルカは俺たちに気づいてすらいなかった。
「ジルカ。そもそも守護者ってなんなんだ?」
「……聖獣のまとめ役のようなものである。手に負えない魔物を倒したり――」
「ちょ、ちょっとまて!」
突如ミアが大声を出して、駆けだした。
「む? どし――」
「ティルはこっち見たらだめだ!」
「お、おう」
ダメだと言われたので大人しく復旧作業をに集中する。
「ふわぁ」「おっきい」
『尻尾がかっこいいわん』
男の子たちがぼそっと呟き、
「あんたたちも見たらダメ!」
女の子たちに叱られている。
「ジルカ、どうして全裸に、いやそもそも、なぜ人の姿に――」
「いや、だって、でかいと薬がいっぱいいるであろう?」
「いいから、まずこれを羽織って!」
「でも、背中にも、けっこうでかい傷が――」
「わかった。塗ってあげるから!」
後ろで行われるミアとジルカの会話とで状況が何となくわかった。
ジルカは薬を節約するために体を小さくしようと、人型に変化し全裸になったようだ。
人型になれる竜なんて、おとぎ話だけの存在だと思っていた。
子供の頃、絵本を読んでくれていた師匠がそんな竜がいると言っていた気がする。
「絵本の中だけの話しだと思っていたのだが……」
どうやら、人型になれる竜は実在したらしい。
「そなた良いやつだな!」
「ミアよ。ミア・ルーベル」
「おお! かの大賢者の一族であるか! さすがである。我はジルカ、天星のジルカであるぞ」
「聞いてたから知ってる。皆を紹介しよう。先頭にいるのがモラクス、その隣がペロ――」
どうやら傷薬を塗りながら、ミアはみんなをジルカに紹介してくれていた。
紹介が終わったころ、薬を塗り終わったジルカが服を羽織ったらしく、振り返る許可が出た。