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第41話 戦友と幼なじみ

 拠点は外から見るとコボルトたちの魔法のおかげで魔樹が生い茂っているようにしか見えない。


「ここが俺の拠点だよ」

「森にしか見えないが……」

「そう見えるのは精霊の魔法の効果だよ。付いてきてくれ」

「精霊の魔法? ……なんだそれは」


 俺が拠点の中へと歩いて行くと、フィロは戸惑いながらも付いてくる。

 結界の範囲内に入って、数歩進むと、一気に視界が開けた。


「拠点にようこそ」

「お、おお……。りゅ、竜?」


 なぜかジルカが竜の姿で待機していた。


「ジルカ、威圧しなくていいよ。俺の友達だ」

「……なんだ。そうであるか」


 ジルカは人族形態へと変化する。

 もちろん、きちんと魔力で作った服を着ているので全裸ではない。


「さて、改めて拠点の説明と、互いの自己紹介を……」

「ティルのお友達なの?」「かっこいい仮面だ!」

『寒いわんか? 厚着だわんね?』『センスがいいわん!』


 自己紹介する前に子供たちとコボルトたちが駆けてきてフィロたちを取り囲む。

 一方、ミアは静かにジルカの横で油断なく身構えていた。


「まてまてまて。まだ互いの自己紹介も拠点の説明もしていないからな」

「わかった!」


 俺が子供たちを抑えていると、フィロともう一人がマスクを外す。

 もう一人は全く知らない女性だった。


「俺の名はフィリップ・オーレル・エルファレス。ティルの友達だ。フィロと呼んでくれ」


 フィロは俺以外の皆に向かって自己紹介すると頭を下げる。


「ながい名前だねー」「かっこいい」

『フィロだわんね!』『匂いをおぼえたわん!』


 子供たちとコボルトたちは嬉しそうだ。

 コボルトたちとペロ、ペロの両親は、フィロの匂いをふんふんと嗅いでいる。


「お、大きいな」

「その子たちはペロの両親の聖獣だよ。あとで紹介する。それにしても」

「なんだ?」

「フィロの本名そんなに長かったんだな。……ていうか、エルファレス?」


 エルファレスと言えば腐界に近い広大な領域を領地としている辺境伯家だ。


「ああ、そのエルファレスだよ。俺は辺境伯の嫡子だ」

「……男爵って呼ばれてただろ?」

「父上の従属爵位の一つだよ、俺は法定推定相続人だからな」


 法定推定相続人とは、将来的に誰が生まれても継承順位一位が確定している者のことだ。

 継承順位が一位でも当主の弟などで、当主に子が生まれたら継承順位が下がるものは推定相続人という。


「……確か大貴族の法定推定相続人は父親の従属爵位の一つを名乗ることがあるんだっけか?」

「そのとおり、詳しいじゃないか」

「いや、本当に俺はあまり知識がない。平民だからな」


 つまりフィロは男爵と名乗っていて周りからも男爵と呼ばれているが、男爵ではない。

 ややこしい。


「隠していたわけではないんだが、言い出すきっかけがなくて……すまない」

「気にするな。俺は剣士のフィロと友達になったんだからな。爵位とかはどうでも良い」

「そうか、ありがとう。それでティル、他の皆にも紹介しよう。俺の妻カトリーヌだ」

「カトリーヌ・エルファレスと申します。以後よろしくお願いいたします」


 カトリーヌは二十代半ばで榛色の髪と緑色の瞳をした優しそうな女性だった。


「よろしく頼む。ティル・リッシュだ。いつもフィロには助けられていて……」


 そんなことを話していると、カトリーヌが笑顔で言う。


「実は私はティルさんの妹弟子なんです」

「え? そうだったのか。……知らなかった」


 俺は自分より年下の師匠の他の弟子に初めて会った。

 兄姉弟子には会ったことがあるが、弟妹弟子にあったことも初めてだ。


「ええ、弟子入りを認められたのは、つい先日なのです。魔導具作りを認められまして……」


 どうやら、カトリーヌは優れた魔導具の作り手らしい。


「おお、それは凄い。色々と魔導具作りのアドバイスをしていただきたい」

「そんな、私なんかが兄弟子にアドバイスできることなど――」


 妹弟子と和やかに話していると、

「ゴホン」

 仮面を着けた最後の一人が咳払いした。


 俺がそちらをみると、もったいぶったようにゆっくりとマスクを脱いだ。


「…………来ちゃった」

「来ちゃったじゃないよ。リラがなんでフィロと?」


 それは結界装置の核である護符をくれた幼なじみのリラだった。


「ふふん。神がティロのところに行けと言ったからよ」

「ほんとに? 適当なこと言ってないか?」

「不敬ね! 世が世なら、異端審問官に捕まるわよ!」

「……大げさな」


 むしろ神の言葉を適当に使うほうが不敬だと思う。


「まあ、神がそう言ったのは本当。私は神の言葉が聞けるの」


 リラが優秀な神官であることは間違いない。

 なにせ凄く高性能な護符を作れるのだから。


「そっか、リラに会えてうれしいよ」

「……わ、私も、う……うれしくないわけじゃないけど……」


 リラは顔を真っ赤にさせていた。


「とりあえず拠点のみんなを紹介しよう。ついでに拠点についても説明させてくれ」

「頼む」

「まずは俺が最初に出会った聖獣の子牛モラクスから紹介しよう」

『もらくす。うし』


 モラクスの次はミア、そしてペロと続き、ミーシャに子供たち、コボルトたちと紹介していく。


「最後に天星のジルカとモラクス母とペロ両親だ。みんな強力な聖獣で――」


 俺が紹介すると、フィロたちも、皆に丁寧に挨拶を返していた。

 フィロは特にジルカが聖獣の守護者という立場であることに興味があるらしい。


「聖獣の守護者というのは一体どのような?」

「この付近の聖獣のまとめ役……簡単にいえば聖獣界の領主みたいなものであるぞ!」


 自己紹介が終わると、拠点の説明だ。


「寝起きている建物がここだ。瘴気がないのは、リラがくれた護符を魔導具に組み込んで――」


 瘴気除去結界発生装置について簡単に説明するとカトリーヌが興味を示した。


「その発想はありませんでした。興味があります。あとで実物を見せていただけませんか!」

「もちろん、いくらでも見ていってくれ。あとで案内しよう」


 リラは深呼吸して、うんと頷く。


「本当に瘴気を完全に防いでいるわね。私の護符はただの護符なのに、凄いわね!」

「いやいや、リラの護符のおかげだよ。普通の護符ではこうはいかない」

「そんな、たいした護符じゃ……ティルが凄いと思う」

「ありがと」


 リラは顔を真っ赤にして照れていた。


 それから建物について説明し、土壌の清浄化魔法陣についても説明する。


「土壌の清浄化に成功したら、大地の精霊であるコボルトたちがきてくれたんだ」

「ほほう。大地の精霊。初めて見たぞ」

「腐界の外にもいるが隠れているらしいよ」


 そして精霊の魔法についても説明する。


「外から見て森にしか見えなかったのはコボルトたちの力で――」

「なんと、精霊の力とは凄いのだな」

『ほめられたわん!』『やったわん!』『なでてほしいわん!』


 コボルトたちにせがまれて、フィロは撫でようとしたが


「あれ? 見えるのに触れられないな」

『……残念だわん』『エルフの血をひいてないからわん?』


 しょんぼりしたコボルトの頭にリラがぽんと手を乗せる。


「かわりに撫でてあげる」


 リラはコボルトをわしわしと少し荒っぽく感じる手つきで撫で始めた。


『ふわ! 気持ちいいわん!』『撫でてほしいわん!』


 コボルトたちはリラの周りに集まりはじめた。


「順番に撫でてあげるね」

『やったわんやったわん』『気持ちいいわんね!』


 コボルトたちの尻尾が元気に揺れる。

 ついでに自分も撫でてもらおうとペロがやってきて、リラに体を押しつけはじめた。


「ペロは人なつっこいね~、よーしよし」

「リラってエルフの血を引いているのか?」


 俺が触れられるのはエルフの血を引いているからとコボルトたちが言っていた

 つまり、普通の人間は精霊であるコボルトには触れられないのだ。


「知らないけど。多分ひいてないと思うけど……」

「なら、どうして精霊に触れられるんだ? エルフの血を引いていないと触れられないらしいぞ」

「そりゃあ、私が神に愛されているからね」

「そんなもんか。凄いな」


 神学の理屈は、俺にはよくわからない。

 だが、神官のリラがそういうなら、そうなのだろう。

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