「これで良し!」「できましたね!」
新しい結界装置はとても良い物になったと思う。
「兄弟子。ありがとうございます。勉強になりました」
「俺の方こそありがとう。知らない事ばかりだったよ」
カトリーヌが教えてくれた理論は、斬新で非常に勉強になった。
とても、充実感がある。
「もっも~」
モラクス母も改良版結界装置が気になるらしく、ふんふんと匂いを嗅いでいた。
するとミーシャとコボルトがやってきて、笑顔で言う。
「ティル、おわった? じゃあ夜ご飯を食べよ!」
『たべるわん!』
「おお、お腹が空いていたんだ! 待っていてくれたのか? すまないな」
俺がリラの方をみると、
「ちょうどできたところだよ。待ってない」
「ありがとう。おいしそうだな」
「はい。これ明日からのお弁当」
「おお、ありがとう。容器も用意してくれていたのか」
「違うわ。コボルトたちが作ってくれたのよ」
『がんばったわん!』『ほめてわん!』
「コボルトたちもありがとうな。手先が器用なのは知っていたけど……凄いな」
お弁当容器は蓋が付いた木製の箱だった。
『木材を切ったり削ったりして、つくったわんね!』『得意だわん』
コボルトたちが体を押しつけてくるので、撫でまくる。
『えへへへ』『わふぅわん』『きもちいいわんね』
コボルトたちは嬉しそうに尻尾を振っていた。
「一応、三人分の四日分よ。それで大体片道分。帰りはなんとかなるでしょう?」
朝ご飯は拠点で食べていくから、四日分となると五日目の朝ご飯までの分だ。
「ありがとう。なんとかなると思う」
少し時間はかかるが、魔物を狩ったり、魔野菜を採取すればいい。
「モラクスとペロの分はこれ」
「おお、ありがとう」
それは沢山の焼いた魔野菜と、魔獣の肉だった。
『ありがと、りら』「ぁぅぁぅ」
モラクスが、リラにお礼を言いながら、尻尾を振りつつ体を押しつけにいく。
そして、ペロはリラの顔をベロベロ舐めた。
「もう、ペロ、落ち着いて。少し重いけど、魔法の鞄があるから大丈夫でしょう?」
「ああ、ありがとう。何から何まで」
俺は魔法の鞄にお弁当を入れていく。
「リラ。ありがとう」
「本当に何から何まで……このご恩は……」
「気にしないで。私は私の目的があるのだから」
お礼を言うフィロとカトリーヌに向かってリラは笑顔で言う。
「目的って何だ?」
「ひとまずは……ここに私の神の神殿を作っていい? 神に頼まれちゃって」
「神殿か。かまわないが建設作業は、ノエル探索から帰ってからになるぞ?」
神殿を建てるとなると、家を建てるようにはいかない。
神殿特有の様式を守らなければならないのだ。勉強も必要だし手間もかかる。
「それは大丈夫、神殿と言っても大げさな物じゃないし。コボルトさん達に手伝ってもらうから」
『まかせるわん!』『とくいだわんね!』
コボルトたちは張り切っている。
「それとは別に……ティルにお願いがあって」
「なんだ?」
「明日までにこの護符を使って、拠点の結界装置を改良版にしてほしいの」
そういって、リラは先ほど渡した予備の護符を見せる。
「え? いつの間に改良版の護符に? まさか料理を作りながら改良したのか?」
「だから、私は優秀な神官なの。それでできる? 明日の早朝に出発するのに……」
「それは簡単にできる。一度作ったものだからな。任せてくれ」
一度作った魔導具で、材料があるのだ。三十分もかからずに改良できるだろう。
「よかったー。神殿を作るのに必須なのよ」
「そんなものか。よくわからんが」
神学のことはよくわからない。
「ティル、リラ、まだー? お腹空いちゃった!」
ミーシャがしびれを切らしたように言う。
「ごめんごめん。夜ご飯食べようね、ほら、ティルも座って。フィロとカトリーヌも」
「おお、ありがとう」
『いすだわん!』『つくったわんね!』
「ほんとに器用だね。この短時間で?」
『ほめてくれてうれしいわん』『うれしいわんうれしいわん』
「ぼくたちも手伝ったよ!」「おもしろかった!」
コボルトたちは子供たちと協力して全員分の椅子を作ったらしい。
椅子は木製で、背もたれのない簡単なものだが、充分だ。
「精霊って本当に凄いんだねぇ」
『りらに作ってほしいって、たのまれたわんね~』
「ありがとね、コボルトたち」
『やったわん! お礼をいわれたわん!』
コボルトたちは褒められたりお礼を言われるのが本当に大好きなようだ。
そういうところは精霊というより犬っぽいかもしれない。
椅子に座った俺たちに、子供たちが夜ご飯をくれる。
夜ご飯は大きめのお皿にご飯とハンバーグと唐揚げ、素揚げした野菜が載っている。
「ハンバーグたべるのはじめて!」「おいしそうだねー」
全員にお皿が行き渡り、夕食が始まる。
「いただきます」
まずは魔猪のハンバーグを口に入れる。
「おお……これはうまい」
柔らかくてなめらかな舌触りで、肉の旨みがしっかりと感じられる。
それでいて旨みたっぷりの肉汁があふれる。
「ソースもうまいな」
「ケチャップをベースにして、焼いたときに出た肉汁を絡めて作ったの」
「さすが、リラ。ケチャップを持ってきてくれたのか」
「そうね。まあでも腐界の材料からでも作れそうだけど」
ハンバーグは本当に美味しかった。
「今まで食べたどのハンバーグより美味しいよ」
「よかった」
そういって、リラは微笑んだ。
俺もハンバーグを食べたことがあるが、作ろうと思ったことがない。
なぜなら、挽肉を作るのが面倒だからだ。上手に挽肉を作る自信もない。
「おいしいね!」「うん!」
子供たちもハンバーグを気に入ったようだ。
「やっぱり子供にはハンバーグね。養護院の子供たちにも大人気なのよ」
「これが腐界の外のハンバーグ。なんて美味しいんだ。感動した」
ミアも気に入ったようだ。一口一口大事に食べている。
「ねー、お姉ちゃん、おいしいねー」
「ああ、とても美味しい。リラ、ありがとう」
「喜んでもらえて良かったわ!」
「唐揚げもうまい。リラは料理の天才か?」
ミアは尊敬の目でリラを見つめている。
「そんなそんな! ただ料理することになれているだけ」
俺も唐揚げを食べてみる。
「俺が作った唐揚げよりずっとうまいな。何が違うんだ? 揚げ方?」
衣は俺の唐揚げよりからっとしているし、肉汁も多い気がする。
下味もニンニクと生姜、醤油を使っているのは同じなのに、なんかうまい。
「揚げ方と下味の付け方も違うかも?」
「後で教えてくれ」
「うん。わかった」
そんな会話をしていると、フィロがぼそっと呟いた。
「腐界の食べ物って美味しいんだな」
「素材を焼いただけでも、ほとんどの外の料理よりうまいからな」
俺がそう言うと、
「そうか、よかった」
「ええ……ほんとうによかった……」
フィロとカトリーヌはノエルが美味しいものを食べていたと思って安心したのだろう。