夜ご飯の後、拠点を守る結界を改良して眠りについた。
次の日、日の出の頃に起きだして、家の外に出ると、
「おはようである!」
人型のジルカが、何やら体を動かしていた。
「ジルカ、おかえり。今帰ったところなのか?」
「うむ! さっき帰ってきて、寝る前の体操していたのである。ティルもどうであるか?」
「そうだな。一緒にしよう」
俺はジルカの真似をして体を動かす。
「これは昔の人族から教えてもらった体操なのである!」
「ほうほう? よくわからないけど、良い感じだな」
ジルカが教えてくれた体操は、寝起きにはいいかもしれない。
体操していると、フィロも起きてきた。
「お、フィロもどうであるか? 昔の人族の教わった体操であるぞ!」
「おお、それは面白そうだ」
フィロも体操に加わった。体操しながら、フィロは言う。
「ジルカ。我が子のためにありがとうございます」
「なんもなんも! 死の森の守護者に会うのは久しぶりだったからな!」
魔王種も倒したし、近いうちに会いに行くつもりだったとジルカは言う。
そんなジルカに俺は尋ねた。
「それで、死の森の聖獣の守護者には会えた?」
「うむ。見つけるのが大変だったのであるな。やっぱり」
聖獣の守護者は忙しい。
「死の森も魔王種との戦いで壊滅的な被害を受けた地域であるからなー」
死の森では、聖獣の手が足りず、守護者自ら忙しく働かなければならないらしい。
「互いに人手が足りてないゆえな。全然会ってなかったのである」
「聖獣の守護者同士の交流って薄いんだな」
「そうであるな。それに死の森は遠いゆえ、特に薄いのである」
ジルカの担当地域と死の森の間にはいくつも別の守護者の治める地域がいくつかある。
助け合うとしても、近隣地域が優先だ。
「……どうやらノエルは守護者に保護されていたらしいのである」
「なんと! ノエルに会ったのか?」
フィロが体操を止めてジルカを見る。
「会っていないのである。色々と事情があるゆえな」
そういって、ジルカは遠い目をする。
「事情ってのはなにか聞いていいか?」
「死の山はギリギリなのだ。まあ簡単に言えば、みな忙しいのである」
ジルカはフィロを見て笑顔で言う。
「だが、死の山に行けば問題なくノエルに会えるから心配しなくていいのである」
「ありがとう。助かる。ちなみに死の山の聖獣の守護者ってどんな方なんだ?」
「大きな猫でめちゃくちゃ強いのである」
そんな会話をしていると、みんなが起きてきた。
子供たちもコボルトたちも、ミアやカトリーヌ、リラも外に出てくる。
『なにしてるの?』「わふわふわふ」
モラクスは首をかしげ、ペロは俺の顔を舐めに来る。
「ジルカに体操を教わっていたんだ。昔の人族から聞いたんだって」
「それは面白そうだ。一緒にやろう」
「へー、僕もやる」「私も!」
『やるわん!』『いっしょだわん!』
ミアと子供たちとコボルトたち、カトリーヌも真似し始めた。
「お、ならば、最初から教えてやるのである! まずはー」
ジルカが張り切って教えだし、
『懐かしい』
モラクス母はぼそっと呟く。
「知っているの?」
『うん。体の動きと体内の魔力の動きを同調させる効果がある』
「へー。意外とちゃんとした体操なんだな」
「もっも」
「それにしてもモラクスのお母さんは何でも知ってるね」
『なんでもしってる』
モラクスがどや顔で尻尾を振っていた。
俺は一通り体操を終えているので、朝ご飯を作るリラの手伝いをする。
「ねね、どうしてモラクス母とペロ両親に名前つけないの?」
リラの指示通りに魔ジャガイモの皮を剥いていると、リラに尋ねられた。
「なんでって……守護者以外の聖獣には本来名前ないからな。勝手につけたら失礼だろ」
モラクスとペロはそれを知らないときに名付けてしまっただけだ。
『そんなことはない。そもそも――』
『しつれいじゃない』「がうがう!」
どうやら名前を付けられるということは人族に認められたという証らしい。
聖獣の守護者だから名前があるわけでもない。
「じゃあ、付けてあげたら? ティル、認めてるでしょ?」
「「「…………」」」
モラクス母、ペロ両親がじっと期待のこもった瞳で俺を見る。
「認めてるけど……いいのか?」
『いい』『くれるの?』「わふわふ」
「じゃあ……モラクス母はモニファスっていう名前はどうだ?」
『モニファス。ありがとう。気に入った』
「よかった。じゃあ、ペロの父はペリオス。ペロの母はペリーナでどうだろうか?」
『きにいった! ありがと!』『ありがとありがと! てぃるだいすき』
「よかったよかった、これからもよろしくな、モニファス、ペリオス、ペリーナ」
モニファスたちは喜んでくれたようだ。