先頭の〈双燕〉隊長機に乗る
『
『こちら
と、副隊長の
『
『
「…………あっ、ひ、
すると間髪入れずに隊長――
『こら
「てれんこ……? いやだって、いきなり指揮下に入れって言われたんだし……」
華凛は落ち着きなく
「……ねえ、
前面モニターに映る〈双燕〉の隊長機が脅すように鋭角な頭部をこちらに向けた。
『無線で名前呼ぶなバカタレが‼ 穂積君はなぁ‼ 敵に先んじて強襲かけるためにこの先で待ち伏せしとんじゃ‼ ワレごときが穂積君の作戦にへんじょーこんごー言うないや‼』
『中尉殿、どうか落ち着いてください』
華凛は頭部モニターを動かし、北の林道へ続く道路を見た。この辺りの水田地帯は見晴らしが良すぎ、待ち伏せするなら林の中しかない。
「……まあそういう作戦だってことは聞いてるけど、多勢相手に危険すぎない?」
『しろしいわ。相手が多勢じゃからこそ搦め手を使うしかないんじゃろが』
佑月は一応落ち着いたらしく、不機嫌な声で言った。
―――― ◇ ――――
そこからさらに北の林の中、
遠くから何度も確認して満足のいく偽装ができ、帽子型ヘルメットと太刀を持って操縦席を開けようとしたその時、
「穂積ぃ……」
しわがれた声に背後から呼ばれ、蓮太郎は振り向いた。
その隣に、五月人形のような格好をした男がいた。
傲然と構えている大鎧の若者の隣で、
「この……こちらの方は知っとるやろ……」
将監が気落ちしたように言った。
蓮太郎は目を据え、
「……
「せや……。あんな、御家老がな、張州さんら他藩の皆さんがようけ見てはんのに、
蓮太郎は黙っていた。
「御霊機の
蓮太郎は暗雲渦巻く瞳で睨みつけている。
渕右衛門は一歩踏み出し、手を差し出してきた。
「さあ鍵を渡せ、
蓮太郎は動かない。渕右衛門はこらえ性なく叫んだ。
「さっさと出せ‼ 無礼討ちにされたいか‼」
蓮太郎はゆっくりと動き出し、小さな
渕右衛門は無造作に鍵を掴み取り、鎧をうるさく鳴らしながら〈秋水〉へ向かった。
蓮太郎は振り返らず歩き出し、将監を伴って林の奥へ進んで行った。
「すまんの……わしかて散々言うたんや。せやけど禍獣始末役の分際ではどうもあっかい……」
「将監様を責めようなどとは微塵も思いませぬ」
二人は脇道近くに停めてある中型トラックのもとにたどり着き、将監は助手席へ、蓮太郎は運転席へ乗り込んだ。
一方の渕右衛門は〈秋水〉に掛けられていた偽装網を引き剥がしながら、
「犬神人め、さもしいことをしおって……。隠れて騙し討ちなど武士のやる事ではないわ」
網をどかせ、胴体部の側面にある扉を開き、大鎧の窮屈さに苦労しながらもやっとのことで操縦席に入り込み、ベルトを締めた。
そしてあちこち探した後、計器盤の下にある鍵穴を見つけ、起動鍵を差し込んで回した。
―――― ◇ ――――
その頃、
それを見たななは背後に向けて頷く。
床に正座している
ななは本殿に向かって
「
「……あれ?」
鈴姫は目を開けた。何かがいつもと違う。何か……説明できない違和感が……
「どうしたの?」
ななが祝詞を中断して鈴姫を見た。
鈴姫はハッとして、
「ううん、なんでもない。続けて……」
―――― ◇ ――――
〈秋水〉が動き出した。
地に片手を付き、脚を曲げ、関節から不安定な音を発しながらぎこちなく立ち上がる。
「……ん? 操縦桿は?」
無かった。
あるのはあちこちから突き出している大小様々のレバーのみで、機体の制御や攻撃を行うための二本の操縦桿が無い。
アクセルペダルはある――踏んでみると、凄まじい振動とともに機体はふらふらと歩き出し、道路の真ん中に躍り出た。
しかし歩けるだけではどうにもならない。試しに手近にある短いレバーを握ってみた。だがこれがとんでもなく固い――両手で掴み、全体重を乗せる勢いでやっと前に倒した。
ガタン――と音がして、刀の埋め込まれた右腕が九十度曲がったのが見えた。
渕右衛門は、兜の下から冷や汗を垂らした。