先頭を疾走する〈
『
「何それ⁉」
『よっしゃあ‼ 散開して斬り結べ‼』
隊長の指令で張州機は横に広がり、津波のように敵に襲い掛かった。
佑月の腕は確かだった。敵の側面から斬りかかり、右腕ごとライフルを両断。素早く背後に回り、背面を突き刺して中枢を破壊。敵を地面に引き倒し、息つく間もなく次の敵へ。佑月の技術と〈双燕〉の性能が見事に噛み合っている。
他の三機もそれぞれ卓越した剣技で敵を斬り伏せ、戦局は完全に逆転しつつある。
(それにしても……!)
恐ろしいのは
華凛は四機の後方に位置していたため出遅れてしまっていた。それでも何とか前に出て、〈秋水〉を取り囲もうとしていた一機の前に立ち塞がった。即座にライフルを構える敵機。しかし華凛は既に剣戟算譜を始動し、アクセルを踏み込んでいた。
袈裟斬り――敵機は左腕を切断され、さらに胴体部を斜めに浅く斬られ、バランスを崩す。
逆袈裟――ライフルが弾き飛び、無防備な胴体が露わになる。
(やれる――!)
さらにアクセルを踏む――しかしその時、
『
「えっ――」
銃の連射音とともに、機体がドリルで削られているような振動が襲ってきた。悲鳴のような警告音が鳴り、モニターにノイズが入り、機体が膝から崩れ落ちる――背後から銃撃を受けているのだ。
制御が効かない。どうすればいいか分からずモニターに目を向ける。前方の〈秋水〉がこっちを見ている。しかし助けるには距離が――と思ったその時、蓮太郎の叫び声が。
『死を恐れるのか‼ 刹摩人っ‼』
それは無線ではなく、外部スピーカーを介した大声だった。
一体どういう意味――
『きああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――っ‼』
何が起こったのか分からなかった。
猿の叫び声をさらに高くし、それを最大限増幅させたような、物狂いじみた絶叫。それと同時に大質量の金属同士がこすれ合うような嫌な音が響いたかと思うと、銃撃はぱたりと止んだ。
静寂。耳がぐゎんぐゎん泣いている。華凛は機体を何とか操り、頭部を背後に向けた。
そこには見るもおぞましい物体が――頭頂部から胴体のほぼ下限までを真っ二つに割られ、しかもそれが噴水のように両側に広がっている無惨な機体の亡骸があった。
その惨を成さしめた長大な刀は、斬り口の最下部に挟まったままになっている。そしてその向こう側に細身の
その背後から盾持ちの僚機がごろごろと近づいて声を掛けた。
『そういうところじゃっど
結果的に華凛を救ったらしい刹摩人は息を荒げ、
『……妖し人ごときに、あげん言われち、黙っちょられん……!』
周りを見ると、もはや戦いの趨勢は決まっていた。十二機いた敵機のうち九までが斃れ、あとの三機も一か所に固まってライフルを構えてはいるが、撃ってこようとはしない。こちらの損害は、膝をついている華凛の機体を除けば、零である。
蓮太郎が無線で言った。
『もういいだろう。佑月、頼む』
『うん、そうじゃね……』
佑月は外部スピーカーで敵機に向けて呼びかけた。
『戦の帰趨もはや明らかなり。直ちに銃を捨て、乗機を降りられよ』
三機は全く動かない。
佑月が重ねて勧告する。
『……乗機を降りられよ。敢えて恥を耐え忍ぶ覚悟を示されるのなら、こちらも相応の……』
その時、蓮太郎が無線で叫んだ。
『佑月‼ 左っ‼』
華凛は目にした。左方の林の中から、金色の巨体が砲弾のように飛び出し、銀の切っ先を〈双燕〉の脇腹へ向けて飛んでゆくその瞬間を――
『っ――⁉』
佑月は間一髪で反応した。〈双燕〉の上体がうねり、銀の一閃をかわす――金属が削がれる凶音。二機が交錯し、金色の機体は佑月機の脇をすり抜け、地面を穿って止まる。一瞬の静止――凶刃の持ち主の姿を、全員の目が捉える。
金の小札を重ね合わせた具足姿、だがその右半身の部分が大きく欠け、まるで
『こいつ――』
左脇腹を斬り裂かれた隊長機の佑月が無線で叫ぶ。
『こいつは――〈人斬り夜叉〉じゃ‼』