「そいで張州サァ、あん浪士どま、ないごて
佑月、
佑月は荒縄のように固いめざしの干物をやっとのことで飲み込み、
「……しろしいっちゃ。大体お前ら何でここに来ちょるんじゃ。各藩それぞれ当てがわれちょる部屋があるじゃろ。帰れ
肝付は茶碗の飯を掻き込み、頬に詰め込みながら言った。
「
その隣で窮屈そうに正座している
「……
佑月は舌打ちし、
「しろしいっちゅうんじゃ。刹摩らしい下衆の勘繰りじゃのう。そねぇ言うんじゃったらお前らの方が怪しいっちゃ。異国と密かに手ぇ結ぶんは刹摩の十八番じゃろが。ええ?」
「
「……張州どん、二機も斬られっち、まっこて気の毒で」
佑月は飯を噛み締めた。麦と米の混合飯だが米が古いらしく、糠の臭みが鼻から抜けてゆく。思わず吐き出しそうになったが、佑月は堪え、礼節と威儀を保った。
「ぐっ……ええ加減にせえよ! 刹摩の奴らに情報なんぞ渡すか! さっさと出てけ!」
「えー、通称は〈人斬り夜叉〉、素顔、素性、出生地すべて不明――」
と、見かねたように志道少尉が、自身のスマホを操作しながら語りはじめた。
「おい、志道……!」
と佑月が目くじらを立てたが、
「ネットに転がっている情報ぐらいはくれてやってもよいかと。――主な標的は幕軍の士官が乗る御霊機だが、その他醜聞で世間を騒がす役人や商人なども対象。標的が在宅中だろうが乗車中だろうが生身であろうが、容赦なく斬殺、圧殺し、しばしばその様子をSNSに投稿している。通称の由来は、その乗機が
肝付は箸を置き、感心したように何度も頷いた。
「ほお……あいがともさげもす。そりゃえろう太か御仁じゃ。じゃっどん、そいほどの兵児が、あげん浪士どもに助力すっとは、どげんな訳でごあんど?」
佑月は飯の塊を口に含み、急いで味噌汁をすすって飲み込んだ。
「知らん……金で釣られたか思想に共鳴したか、いずれにせよ
「ああ、そいやあん人にもたまがった。僕ぁ御母上んこた知らんども、
「ふん――
菱刈が両手を膝に置き、芝居がかった所作で言った。
「身分の別あればこそ、上の者に誇りが生まれもす。異国がどうであろうが、それが鎌倉以来千年近くに渡り続いてきた我が国の祖法なり。武士の誇りなくして、如何に国を守れようぞ。幼き今人神への同情や、犬神人ごときへの憐憫で国の根幹を覆そうとは、いかにも
「『こどん』はワレじゃ。刹摩の坊主」
すまし汁のような味噌汁を飲み干し、佑月は言った。
「……ないごて?」
菱刈は肩の筋肉を盛り上げ、低い声に殺気を込めた。
佑月は平然と流し、
「回天の事業はいつの世も、夢のような目標から始まるっちゃ。ワレが斜に構えて見ちょる間に、その子供の夢がたくさんの大人の夢を糾合して、いつか天下を動かす力になるかも知れんぞ。……ちょうど小河が集まり大河となって、大海へ注ぎ込むようにのう」
風が一段と強く吹き、ガラス窓と障子を激しく揺るがした。