陣屋内御殿前広場。
全高は
巨木のような脚が地鳴りと共に降り立った時、表の櫓門から軍用車両が続々と侵入し、御霊機の周りを囲むように停車した。ドアが開き、物々しい出で立ちの男達がわらわらと出てくる。服装は和洋とりどりだが、みな同型の突撃銃を両手に携えていた。
『
低く張りのある声が響き、神河藩士達は巨影を見上げる。二人分の操縦席が縦に入りそうなほど長大な胴体、その上部が左右に開き、そこに収まっていた荘厳な姿が露わになる。深紫の
「俺の可愛い娘を、迎えに来た」
屋敷の扉が慌ただしく開く。中から飛び出して来たのは
「やあ
朗らかに大名持は言った。
公文は青い顔で一度身震いした後、背広の内ポケットに手を入れた。
「ああ、止してくれ。鈴姫の前で穢れを撒き散らす気か?」
大名持は片手を軽く上げた。その合図で、左右の浪士達が素早く公文へ銃口を向ける。公文はこめかみを痙攣させていたが、やがてゆっくり動き出し、内ポケットから回転式拳銃を取り出し、構えはせずに浪士達の足元へ放り投げた。
「いい子だ」
歩き出す大名持。しかしその足が再び止まる。
玄関口には巫女装束の女性――ななが立っていた。ななは蒼白ながらも目に渾身の力を込め、白衣の胸元から白鞘の短刀を取り出した。鞘を抜き放い、小さな切っ先を大名持へ向ける。
大名持は感嘆したように首を振り、
「なな……まったくお前は只人とは思えないほど大した女だ。
二人の浪士が動き出し、ななに迫った。ななは決死の表情で短刀を突き出すが、それはいとも簡単にかわされ、力ずくで奪われる。浪士達はななを押しやり、公文と共に脇へどかせた。
開け放たれた扉から続々と武士達がなだれ出て来た。
そして最後に、二人の武士に両腕を引っ張られ、
「っ…………」
鈴姫は階段下で笑顔を向けている大名持貴彦に、恐怖の表情を返すことしかできなかった。
「離さんか、不心得者が」
大名持は低声で言った。
武士達は慌てて鈴姫から手を放し、離れて平伏した。
「鈴姫……今まで会いに来られなくて悪かった。幕府の追捕もなかなか侮れなくてな。それにしても立派になった。そんなにも立派な
大名持は周囲で続々と平伏する比延ら宿老には目もくれず、慈愛の表情で鈴姫を見下ろす。
「しかも嬉しいことに、この国を変えたいという志まで持つようになってくれたなんて。父として、これほど誇らしいことはないよ」
ついに鈴姫の目前まで来た大名持は、口周りの髭を吊り上げ、右手を差し出して言った。
「さあ、一緒に『
「わ……私は……」
鈴姫は目の前の笑顔の向こうに、首を差し出す松江藩の武士達の姿を思い浮かべた。
「私は、人が死ぬのが、嫌です……!」
大名持は黙って微笑み続ける。
「自分の、望みのために、人を傷つけ……い、命まで奪うような人達と……私は、一緒にいたくありません……‼ 私の志は、おとうさ……いえ、あなたのものとは違います……‼」
大名持は右手を降ろし、寂しげに呟いた。
「人が死ぬのが嫌、か……」
そして再び顔を上げ、笑顔のなくなった顔で鈴姫を見た。
「それじゃあお前は誰よりもまず、あの穂積蓮太郎を憎まなければいけないな」
「え……?」
話の唐突な転換に、鈴姫は戸惑った。
「お前が憎むべき人間は、ずっとお前の足元にいた。ついに話す時が来たようだな――真実を」
「鈴姫様……!」
ななが呼び掛けるが、浪士がすぐさまその肩を押して下がらせた。
鈴姫は風雨に引き込まれるように大名持の言葉に聞き入っていた。
「十五年前……冬姫がなぜお前を産んですぐ亡くなったのか、お前は知らないだろう」
「それは……ご病気で……」
「違う」
大名持は深い悲しみを込めた表情で、厳かに言った。
「あの男が殺したんだ。自らの手で。自らの意思で。私の妻を。お前の母親を。
―――― ◇ ――――
陣屋に近づくにつれて風雨は激しさを増してゆく。
〈
前屈みになった操縦席の内部で、蓮太郎はきつい姿勢を保ちつつ機体のバランスを取り、アクセルを踏む。頭の中はいつものごとく、鈴姫のことしかない。