大坂城塞南西、北久太郎町通。
一機の
「切腹は許さぬだと……!
単発式小銃を突き付ける〈双燕〉隊長機から、
『我が
「馬鹿を申すな‼ 我は武士ぞ‼ 敗軍となり、切腹も出来ずにおめおめと生きよと申すか‼ そのような情けは最大の屈辱だ‼」
『……少し前までは、私もそう思ったでありましょう。ですが……』
〈双燕〉の頭部は大坂城塞の上空を見上げた。
『周りの者の命、そして自分の命を護る為に、全ての命を護らねばならない……きっと今は、そういう時代になっているのであります』
―――― ◇ ――――
「鈴姫……今のは駄目だ。あれじゃあ、みんなが喜ばないよ」
「降ろしてください……‼ 今すぐにっ‼」
大名持は沈黙した。ところが背後から別の人の声が聞こえてきた。聞き取れないほどの微かな声だが、「頭を……‼ やれ……‼」などと怒鳴っているらしい。
振り向こうとしたその時、鈴姫は後ろから頭を鷲掴みにされた。
「っ――⁉ あぁ……‼」
頭痛に目が眩む。それだけに終わらず、大きな手は万力のように頭を締め付け、さらに前方へ押し出した。額が液晶モニターに叩き付けられ、意識が飛ぶほどの激痛が走った。
「っ‼ や……‼ いやああぁぁ……‼」
鈴姫は泣き叫んだ。手足を暴れさせて抵抗したが、とても力が入らない。
「ごめんな、鈴姫……みんなの為なんだ」
大名持の声がする。髪の毛が引っ張られ、頭が仰け反る。そして再度力が加わり、額が液晶モニターに叩き付けられた。悪意の言葉が流れるSNSの画面に、何度も、何度も、何度も。
「ごめんな……ごめんな……ごめんな……」
鈴姫は痛みのあまり嘔吐してしまった。それでも大名持の手は止まらない。せっかく流れていった怒りが、また沸々と湧き上がってくる。鈴姫は涙と吐瀉物に塗れながら、たった一つのことを想い続けた。
(穂積……‼ 穂積ぃ……‼)
―――― ◇ ――――
城塞壁上の幕軍兵が恐る恐るこちらを窺う中、蓮太郎の乗る〈
上空の
『どうすれば……! ここで降りてくるのを待つしかないの……⁉』
華凛が通信で焦りを滲ませて言った。一方蓮太郎は操縦席から上空を睨みながら、
「江藤殿、お願いします」
『分かっちょらい‼ こっまで来たら全部出すしかなかと‼ ――上がるばい‼』
その瞬間、〈依姫〉の着物のような装甲が左右に展開した。それはまさに両翼のように背部に広がり、それぞれの翼の中心部と先端部は丸くくり抜かれ、中でローターが回転している。
『嘘でしょ⁉ と――飛べるのおおぉ⁉』
華凛の素っ頓狂な叫びに続いて、江藤が声を張り上げる。
『習合は偉大なり‼
ローターが回転を増し、背中のジェットエンジンが噴射した。