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第48話 悪役令嬢と使用人①

「ライル、ごめんなさい!」


 告白に失敗した上にライルに口の中を覗かれてしまった事件から1週間……私はライルから逃げまくっていた。





 ライルへの告白に失敗したあの後、やたら俊敏な動きでやって来たお姉様たちが相談に乗ってくれると言うので思いきって打ち明けてみることにしたのだ。



「じ、実は……ライルに告白しようと思っているけど上手くいかなくて……。ライルに私のこと、好きになってもらうにはどうしたらいいと思いますか?」


 可愛く甘えて誘惑作戦は私には根本的に無理だと悟り、ここはその辺に(たぶん)強そうなお姉様たちの助言を求めることにした。だが内容が内容なだけに恥ずかしくて、ついもじもじとしてしまう。するとなぜかお姉様たちが次々と震えて出してしまった。


「か、可愛い……もじもじしているセリィナが可愛いわ……!まさに天使!」


「おのれライル……!セリィナに告白されるなんて、贅沢過ぎるわ……!羨ましい!」


「でも、なにも伝わってなかったのねぇ……。いくら“おねぇ”だからってあれだけあからさまなオーラを出しているのに……。でも鈍感なセリィナもとっても可愛いわ!」


「そう思うと、確かにちょっとだけ憐れですわね。さすがにわたくしたちですらわかりましたのに……と言うかセリィナ以外はみんな知ってると思いますわ。まぁ、そんなところがまた可愛いのですけど!」


「お姉様?」


 お姉様たちが小刻みに震えながら小声でなにか言い合っているがよく聞こえなかった。なのでどうしたんだろう?と、こてりと首を傾げて見るとお姉様たちの震えはさらに激しくなってしまった。


「ん゙ん゙っ!そ、そうねぇ。ライルの方が歳上だしセリィナも少し大人っぽくして、もう子供じゃないってアピールするのはどうかしら?(そんなことしなくても絶対にセリィナの事を好きなはずだけど)」


「そ、それに贈り物をしてもいいと思うわ!例えば手作りの物とか(例え道端の石コロでも、セリィナから貰えれば喜ぶと思うけど)」


 お姉様たちが咳払いをしながらそう言ってきたのを聞いて、私は反省したのだ。手先が不器用だから手作りの贈り物なんて最初から考えもしなかったし、色気でライルに敵うわけがないからと“子供”を武器にして既成事実を作り情に訴えようとか、それらが全て間違っていたのだと改めて思い知らされたのである。


 手作りの贈り物……!大人っぽくアピール……!そうよ、悪役令嬢なら真っ向から勝負しないといけないんだわ!


「ありがとうございます、ローズお姉様マリーお姉様!私、大人っぽくなってライルの心を掴めるような贈り物をしてみせます!」


「あぁ、決意に満ち溢れたセリィナもこれまた可愛いわ!」


「大人っぽいコーディネートならわたくしたちにまかせてちょうだいね!」


 そして考えた結果、贈り物はハンカチにライルの名前を刺繍してプレゼントすることにしたのだ。その昔、挫折して(禁止令が出て)から針どころか糸にすら触っていなかったが今度はイケる気がする!


 ちなみにお姉様たちも裁縫は苦手と言うことで、侍女のサーシャに協力をしてもらうことにした。もちろんライルには内緒だからさらに逃げる羽目になったわけで……。





「セリィナさ「ごめん、ライル!ちょっとサーシャに用事があるのぉ!」え、あ、え?」


「あの、セリィ「今日はお姉様たちと出掛けるから!ライルはついてこないで!」わ、わかったわ」


「セ「今はダメなの!」……」




 あ、ヤバイ。恥ずかしさと刺繍がうまく出来ないのに焦ってライルとまともに会話すらしてない気がする。しかし指は傷だらけになってしまったが以前よりはかなり上達してあと少しでハンカチの刺繍は完成するし、お姉様たちとも相談して大人っぽいコーディネートも完成したのだ。


 今までの行為を思い起こせば恥ずかしすぎて身悶えしそうだが、意識してしまった以上はしょうがない。だから、あともう少し。もう少しだけ勇気が出るまで待っていて欲しい。


 今度こそ、ちゃんとライルに告白するから!



 その時の私はちゃんと見ていなかったのだ。私が逃げる度にライルがどんな顔をしていたのかを。


 まさかライルが、私の手の届かないところへ行ってしまうことになるなんて考えもしなかったのだ。






 そして1週間後────その日、ライルが公爵家から姿を消した。




「……え?」


 お姉様たちが準備してくれたワインレッドのレースをあしらったワンピースにいつもよりちょっぴり大人っぽいお化粧をしてもらい、やっと完成したハンカチにもワインレッドのリボンをかけた。


 ソワソワとしながらライルを探すが、どこにもいない。誰も知らない。そんなこと初めてだった。


「ロナウド、ライルはどこに行ったの?」


 公爵家の使用人の事なら全て把握しているであろう老執事に詰め寄るが、望む答えを聞くことは出来なかった。


「セリィナお嬢様、申し訳ございません。このロナウドにもわからないのです」


 ただ頭を下げるだけのロナウドの姿に違和感を覚えつつ、私は屋敷内を必死に探し回った。


 その日はお父様とお母様は急用で屋敷にいなかった。お姉様たちに聞いても寝耳に水だと驚いていて、だから探すしかない。探して、探して……。


 屋敷内を走り回り、慣れないハイヒールで靴擦れして靴を脱ぎ捨て、裸足で庭も駆けずり回り……それでもどこにもいなかったのだ。


 ライルが誰にも何も言わずに姿を消してしまった。その事実に呆然としていたとき、玄関の扉が荒々しく開けられた。


「国王からの命令だ、ラインハルト・ディアルドという男を差し出せ!」


 そして、国王が差し向けただろう兵士たちがこちらの返事も待たずに屋敷内を捜索しだし部屋と言う部屋を荒し始めたのだった。






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