勇者に惨敗した俺は、牢屋に備え付けられた固いベッドの上で物思いにふけていた。
「前回の魔王の懲役は確か…五年だったか…。俺もそんなものかな」
誰もいない牢屋では独り言をつぶやき放題だ。
「まあしばらくはここでゆっくり過ごして今後の生き方でも考えよう」
”魔王”という職業は、倒した勇者の所持金を奪って生計を立てる。出来高制だが高収入ではあった。しかし同じことの毎日に飽き飽きしていた自分もいた。
「もう人に恨まれるのも勇者と戦うのも疲れたし、次はのんびり過ごす人生もありだな…」
そんなことを考えなら過ごし、数日後──。
新たな罪人が衛兵に両脇を抱えられて入ってきた。
向かいの牢に入れられた罪人はため息をついてしゃがみこんだ。
「あれ?おまえ…っ!?」
そいつを見て俺は驚愕した。入ってきた罪人はあの時の、俺を倒した勇者だったのだ。
俺の声かけに反応して勇者はこちらを見た。
「えっと…僕のこと知ってるんですか?」
「おまえ勇者だろう?あの二十回以上も俺に挑んだ」
「ああ!魔王さんですか!ツノがないから気づきませんでしたよ!」
「あのツノは魔王の威厳を表すだけの装飾品だからな。投獄の際に没収されたんだ」
「あれカッコよかったのになー!」
「で何故おまえはここに?」
「知らないですよ!あーあ。僕、せっかくあなたを…魔王を倒したのに」
「刑期は何年だ?」
「7年らしいです」
「魔王の俺より長いじゃないか」
「そうなんですか?この国の制度はなんて酷いんでしょう!」
「おまえいったい何をしたんだ?」
「え〜と」
俺は古びたコップに入っている水をゆっくりと飲み始めた。